アルフォンス・ミュシャ(1860年-1939年)、チェコで生まれ、パリで才能を開花させたアール・ヌーボの旗手。日本美術から影響を受け、現代アーティストたちに今も影響を与え続けている画家です。その彼にスポットを当てた「永遠のミュシャ」展(Éternel Mucha)がパリのグラン・パレ・イメルシフ(Grand Palais Immersif)で始まりました。
ミュシャが描いたビールのポスター。
Alphonse Mucha, «Bières de la Meuse» 1897 © Mucha Trust
グラン・パレ・イメルシフは昨年秋にオープンしたイマーシブミュージアム(没入体験型美術館)。
本展ではミュシャの成功とヒューマニズムを軸に、平和と繁栄の頂点にあったパリ、ベル・エポック(美しき時代)での作品から、故郷のチェコへ戻り、自身のルーツであるスラヴ民族への想いを描いた「スラヴ叙事詩」までが紹介されます。
迫力ある映像が大きな壁と広い床に次々と投影され、作品の中に入り込むようなイマーシブな体験ができる。
Image de synthèse exposition Éternel Mucha au Grand Palais Immersif © metrochrome pour GPI, 2023
Alphonse Mucha, «Les Arts» 1898 © Mucha Trust
1894年、パリの印刷会社で働いていたミュシャは、大女優サラ・ベルナール主演の舞台のためにポスターを手掛けます。クリスマス休暇を取らなかったことで、たまたま巡って来た仕事でしたが、独特のスタイルを持つ彼の作品はベルナールに気に入られ、大成功を収めていきます。
人気絶頂期に手がけたタバコの巻紙「JOB」のポスター。
従来どおりに商品そのものを描くのではなく、そのイメージや雰囲気を表現している。
Alphonse Mucha, publicité «JOB» 1896 © Mucha Trust
『四つの宝石』と題された連作。これら『エメラルド』と『ルビー』の他に『アメジスト』と『トパーズ』もある。
左:Alphonse Mucha «L’Emeraude» 右:«Le Rubis» 共に1900 © Mucha Trust
1900年、パリで開かれた万国博覧会にボスニア・ヘルツェゴビナも参加。館を飾る壁画の注文を受けたミュシャは制作のためにスラヴ民族の歴史を調べます。そして、そのことがきっかけとなり祖国チェコの役に立ちたいという想いを強めていきました。なぜなら当時のチェコはオーストリア・ハンガリー帝国の支配を受けていて、スラヴ民族の誇りが傷つけられていたからです。
パリ万博の壁画作品。
Pavillon de la Bosnie Herzégovine à l’Exposition Universelle de Paris 1900 © Mucha Trust
1910年、チェコへ帰ったミュシャは、スラヴ民族の伝承、神話、歴史を描いた『スラヴ叙事詩』の制作を開始。長いときを掛けて1928年に全20作品を完成させました。
自身のルーツであるスラヴ民族への想いを強めたミュシャは、故郷へ戻り壮大な民族史『スラヴ叙事詩』を描いた。
Alphonse Mucha, «L’Épopée slave, cycle n°1» : Les Slaves dans leur patrie d’origine, entre le fouet turanien et l’épée des Goth (entre le III et le VI) 1912 © Mucha Trust
もう一つの展覧会の見どころは、ミュシャと現代アーティストの作品の対話です。山岸涼子や天野喜孝、出渕 裕など、日本人アーティストへの大きな影響も知ることができます。
左:ミュシャの作品。Alphonse Mucha, «Rêverie» 1898 © Mucha Trust
右:山岸 凉子の作品。«Black Hélène» couverture de «Hana to Yume» 1979 © Ryoko Yamagishi
左:ミュシャの作品。Alphonse Mucha, «Têtes Byzantines: Blonde» 1897 © Mucha Trust
右:天野喜孝の作品。«The Heroic Legend of Arslan, vol.2: Two Princes» 1987 ©Yoshitaka Amano
左:ミュシャの作品。Alphonse Mucha, «Têtes Byzantines Brunette» © Mucha Trust
右:出渕 裕の作品。«Record of Lodoss War In Slumber» © Ryo Mizuno, Group SNE, Yutaka Izubuchi / © Kadowaka corporation 2018
Affiche Éternel Mucha au GPI, «Les saisons: Printemps» 1900 © Mucha Trust
Éternel Mucha「永遠のミュシャ」展
2023年11月5日まで。
Grand Palais Immersif (グラン・パレ・イメルシフ)
住所:110 Rue de Lyon 75012 Paris
開館時間:月曜12時〜19時、水曜から日曜10時〜19時(金曜のみ21時)
閉館日:火曜
Text : Chieko HAMA(濱 千恵子)