若手ファッションデザイナーを支援するLVMHプライズ(LVMH Prize for Young Fashion Designers)。12回目となる今回は、15か国から2,300以上の応募があり、日本の「ソウシオオツキ(SOSHIOTSUKI)」と「ピリングス(PILLINGS)」を含む、20ブランドがセミファイナリストに選ばれました。パリ・ファッションウィーク期間中に開かれた彼らのショールームから、注目のデザイナーをご紹介します!

「クリスチャン・ディオール」のデルフィーヌ・アルノー会長兼CEO(後列中央)と、セミファイナリストたち。今年は初めて、エジプト、ガーナ、サウジアラビアからも選出された。Photo : Courtesy of LVMH Prize
LVMHプライズは、ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)、ディオール(DIOR)、ロエベ(LOEWE)、フェンディ(FENDI)など、ラグジュアリーメゾンを傘下に収めるLVMHグループが主催。これらメゾンのアーティスティックディレクターたちによる審査に加え、賞金の高さと手厚い支援がその魅力といえます。

賞金は、グランプリが40万ユーロ(約6,500万円)、カール・ラガーフェルド賞とサヴォアフェール賞がそれぞれ20万ユーロ(約3,250万円)。そのほか、LVMHの専門チームによる1年間のメンターシップの機会も提供される。
セミファイナリストのショールームには、審査員をはじめ、メディア関係者やファッション界のエキスパートが来場。国内外から召集されたデザイナーたちとのインタビューセッションが行われました。
日本から参加した「ソウシオオツキ」のデザイナー大月壮士さんは、2016年に続き2度目のノミネート。ブランドが提案するのは、日本人の精神性とテーラリングの技術を融合したダンディなメンズコレクションです。

大月壮士さんは、1990年千葉県生まれ。文化服装学院メンズデザインコースを卒業し、2015年に自身の名を冠したブランドを設立した。
9年ぶりに同プライズの舞台に立った大月さんは、これまでの自身のクリエイションをこのように振り返ります。
「10年近く、スーツのシルエットに打ち込んできましたが、自分の中でそれは違うなって考えるようになりました。そして、一年前のシーズンから、学生の時に作っていた日本のサラリーマンスーツのスタイルに、もう一度トライしたいと思ったんです。それが、日本人の精神性のようなものなので」
展示されたのは、大月さんが最も得意とするスーツのセレクション。アピールポイントの一つは、自身が開発したインターライニング・ポケットです。これは、ポケットの内側に毛芯をかませ、芯地と表地の間にモノが入れられる構造になっているというもの。

ソフトな仕立ての洗練されたスーツが「ソウシオオツキ」の持ち味。ラペルの後ろに隠れた胸ポケットにも、デザイナーのこだわりを感じさせる。
「これが生まれたきっかけは、日本のきものです。日本人は、袖にモノを入れますよね。土地も狭いから隙間を活用しようとするマインドがあるのだと思う。そうゆう日本の隙間活用の考え方を、服に落とし込んだのです」
使用するのは、ブランドオリジナルの尾州産の生地。1980年代の軽やかなイタリアのスーツに惹かれるというデザイナーは、そのコレクターでもあり、生地や仕立ての研究を重ねてきました。当時のソフトスーツを、どのように日本人が構築するのか。それは、このブランドが掲げるテーマでもあるのです。
もう一人の日本人は、「ピリングス」の村上亮太さん。ブランドの原点となったのは、幼少期に母親が編んでくれたセーターでした。クラスメートにからかわれ、反発したこともありましたが、心のこもったセーターの大切さに気づき、ものづくりの情熱へとつながっていきました。
現在は、日本の手編み職人との協業を通して、伝統技術を継承し、編み手たちが活躍できる温かい環境を作ることを目指しているそうです。

村上亮太さんは、1988年大阪府生まれ。上田安子服飾専門学校を卒業後、ここのがっこうを経て、2014年に母親の千明さんと共に「リョウタムタカミ」を設立。’20年に「ピリングス」に改名した。
スタンドに並ぶのは、2025-’26年秋冬の最新作とアーカイブの作品。ひと際目を引いたのは、2023-’24年秋冬に発表された蛾モチーフのセーターだった。
「蛾は習性で光に集まりますが、何かがあるんじゃないかって、わからないものを目指して向かっている姿に見えました。ものづくりも答えがわからないなかで、もがいて、何かを探していく行為だなって。そこから作ったコレクションでした」と村上さん。

写真左のルックとシューズは新作。シューズは履き潰したようなしわしわのデザインが楽しい。
「このショールームでは、様々な立場の方々から、デザインのことだけでなく、ビジネスについてやどんな機会に着る服なのかという質問もあって、勉強になりました。西洋のファッション観をまだまだ把握できていないと感じる場面もあり、自分なりの表現をするためには、そうした理解も必要だと思いました」
豊かな感性を持ち、ロマンティストで大胆なクリエイションを生み出す。村上さんの人間味あふれる服は、心まで温かくしてくれそうです。
【気になるデザイナーたち】
ALAINPAUL by Alain Paul / フランス

1989年香港生まれのデザイナーは、幼少期にフランスに移住し、マルセイユ国立高等バレエ学校に入学。ヴェトモン、ルイ・ヴィトンを経て、2023年に自身のブランドを設立した。コンテンポラリーバレエの経験が、モダンなクリエイションに反映されている。
MFPEN by Sigurd Bank / デンマーク

2016年にコペンハーゲンで設立された「MFPEN」は、エコ・フレンドリーな生産を徹底。タイムレスなヨーロッパの伝統的テーラリングに、詩的なタッチを加え、リラックス感のあるエレガントなコレクションを提案している。デザイナーは写真右。
MERUERT TOLEGEN by Meruert Planul-Tolegen / アメリカ

ニューヨークを拠点に活動し、2022年にパリでデビュー。デザイナーの出身地であるカザフスタンの文化を取り入れ、レースや刺繍を用いたシルエットはロマンティックな雰囲気だが、エッジが効いたカッティングとマスキュリンなディテールが細部に光る。デザイナーは写真右。
STEVE O SMITH by Steve O Smith / イギリス

デザイナーはセントラル・セント・マーチンズ出身、ロンドンを拠点に活動する。筆とブラックインクで描いたドレスのデッサンの線を、カッティングとアップリケの技法を用いて、着用可能な服に変換するという独自の制作プロセスを実践する。
ZOMER by Danial Aitouganov / オランダ

タタールスタン出身、オランダ育ちのデザイナー。複数の著名ブランドを経て、2023年に親友のスタイリストImruh Ashaと共に「ZOMER」を設立。鮮やかな色彩、ユニークなテクスチャー、大胆なフォルムが特徴的。デザイナーは写真中央。
【2025年LVMHプライズ、セミファイナリストの一覧】

Photo : Courtesy of LVMH Prize
ALAINPAUL by Alain Paul (France) : womenswear, menswear and genderless collections
ALL-IN by Benjamin Barron (United States) and Bror August Vestbø (Norway) : womenswear and genderless collections
BOYEDOE by David Boye-Doe Kusi (Ghana) : genderless collections
FRANCESCO MURANO by Francesco Murano (Italy) : womenswear
JOSH TAFOYA by Josh Tafoya (United States) : genderless collections
KML by Ahmed Hassan (Saudi Arabia) : menswear and genderless collections
MERUERT TOLEGEN by Meruert Planul-Tolegen (United States) : womenswear
MFPEN by Sigurd Bank (Denmark) : womenswear and menswear
NICKLAS SKOVGAARD by Nicklas Skovgaard (Denmark) : womenswear
PENULTIMATE by Xiang Gao (China) : genderless collections
PILLINGS by Ryota Murakami (Japan) : womenswear
RENAISSANCE RENAISSANCE by Cynthia Merhej (Lebanon) : womenswear
SINEAD O’DWYER by Sinéad O’Dwyer (Ireland) : womenswear
SOSHIOTSUKI by Soshi Otsuki (Japan) : menswear
STEVE O SMITH by Steve O Smith (United Kingdom) : womenswear and menswear
TOLU COKER by Tolu Coker (United Kingdom) : womenswear
TORISHEJU by Torishéju Dumi (United Kingdom) : womenswear and menswear
YASMIN MANSOUR by Yasmin Mansour (Egypte) : womenswear
YOUNG N SANG by Sang Lim Lee et Youngshin Hong (South Korea) : menswear
ZOMER by Danial Aitouganov (the Netherlands) : womenswear
まもなく、彼らの中からファイナスト8人が発表されます。最終審査会は、パリの「フォンダシオン ルイ・ヴィトン(Fondation Louis Vuitton)」で開催予定。
Text et Photos:B.P.B. Paris