過去の服から未来の人に。再開発されるうめきた地区で
nisaiの服が問いかけた、人と街とを繋ぐものとは。

2023.01.13

2025年の大阪万博に向けて再開発が進む「うめきた2期地区開発プロジェクト」。約4万5000平米という大規模ターミナル駅直結の都市公園としては世界最大級の都市公園を中心に、オフィスやホテル、商業施設などの建設が進む。その、大きな再開発予定地に隣接する「うめきた外庭SQUARE」で、地元に根付いたファッションショー「うめきたMIDORIコレクション」が行われた。メインでショーを行ったのは、リメイクによる一点物を得意とするブランド、nisai(ニサイ)。日本最大級の国際都市を狙う再開発の地を体現するショーに、なぜリメイクブランドが選ばれたのか。ファッションに託されたものとは一体何だったのだろうか。

「排他的な、従来のファッションショーとは違う方向したかった」と話し始めたのは、nisaiのデザイナー、松田直己さん。どこで、誰か、何を身に着けているのか。その空間で生まれる現象こそがファッションだと考えるからこそ、松田さんは将来様々な人や文化が交差することになる場所でのテーマを「デイドリーム・ビリバー」とした。

「春に新駅が開業し、関西国際空港、京都、和歌山方面からのアクセスが向上し、よりグローバルな都市への発展を目指す再開発の地で、ファッションが何を伝えるべきなのか。誰もが抱いている現実に向き合えない白昼夢テーマに、夢がもたらすいいも悪いも包括するようなコレクションを作りたいと思いました。夢がもたらす多面的な要素として、夢見心地、多幸感など不安から断絶された状態と、逆に現実逃避、歪みや不安みたいなものがありますが、その全てを乗り越えた先で、老若男女や人種も問わない、多様な人々が一同に笑い合って歩く瞬間を提案しました。49のショールックは、序破急形式で用意。彩りを失ったモノクロで始まりながら、入眠や夜をイメージさせる青。誰もが胸の内に押し殺しながらも消えることのない乙女心や変身願望を表す赤といった単一色から、色彩へ変容。でもその色彩も、ドリーミーやハッピーなだけではなく、悪夢っぽいモチーフへも移り変わっていき、そしてフィナーレ、というストーリーです。今後、梅田という街が作りたい、見せていきたい方向性を意図しつつ、nisaiとして描きたいクリエイションも融合させたいなと作ったショーです」

今回のショーをサポートした阪急阪神不動産からは、近隣住人をモデルとして使ってほしいとの依頼があった。そこでオーディションを行い、応募のあった260人の中からあえて幅広い職種や年齢をピックアップ。プロモデル16人を含む48名(と、犬一匹)を起用しているが、その全員に似合う服を一か月程度かけてすべてリメイクで用意したという。量産されるブランドではなく、リメイクブランドがショー行う理由は、街が個と向き合うこと、様々な個性が集まって街が生れることを意味している。そもそもnisaiは恋愛をテーマとするブランドだが、恋愛が究極の個と個の向き合い方だと捉えれば、そのセレクトは間違っていない。

「僕の服を買わなくても、
なにかに気が付いてくれればそれでいいんです」

「僕らは、手作業で作ることを最重視しているブランド。この生産工程を維持したままでテーマや思いを遠くまで伝える為には、生産数や売り上げ自体を増加・拡大するよりも、思想や現象を拡大していくことが大事。その方法として、他業種や行政との積極的な協業はとても効果的だと思っています。僕がブランドを立ち上げた理由は好きな人を振り向かせるためでしたが、それから7年、8年経って、今は“愛着を持てる服を作ること”を目的としています。古着再構築って正直、ビジネスとしての強度は全然ないと思うんです(笑)。量産できないから、まったく合理的ではない。お金をかけてショーをやって注目してもらっても、発表したルックは一点ずつしかないから、売るためではショー発表を行う効果は低いとも思うんです。ただ、こうして応援してくれる人がいる。僕らみたいな規模なら企業や行政といった大きなグループにはできないような瞬発力・即興力で企画に取り組むことができるし、逆に僕らは企業や行政に対して、僕らに足りない資本やチームプレイのパワーを頼ることができるので、直結的な売り上げが立たなくても、認知度が上がることによって、時間差で集客や支持者をつなげるような効果を狙えます。また、僕の服を買わなくてもいからリメイクも素敵だって感じてもらったり、お直しをしてみようと思ってくれれば、それだって充分。そこからnisaiの服を作るのも難しいんだなってわかってくれるかもしれないし(笑)。買わせるだけを目的とするんじゃなくて、誰かの心に変化を持たせられれば、ブランドの存在意義はある。“誰かのほしい”やトレンドを追うのではなくて、心が求める耐久性のある服を作ること。例えば、アームウォーマーやマフラーなどは、古着再構築で服を作っていく上で発生する端切れを、あますことなく使い切るために生まれたアイテム。そういった循環で展開していることにも気が付いてもらえたら嬉しいです。瞬間的に求められ提示して、消費されるよりも、長く続けたい。一着一着を大事にするお客さんと繋がることを目的にしながら、短期的な繋がりを増やすより、思想やスタンス自体が波及してくれたらいいですね」

「サステイナブルは、
表に出すものではなく内側にあるもの」

リメイクで作る服には、そのままだと流通できないモノを必ず混ぜるという。たとえばリーバイスやミリタリーのみで解体再構築すれば確実に求める人がいて売れるが、解体せずとも需要があるようなものだけで構築することはしない。“価値がないものにも価値を与える再構築”にこだわりを持っている。

「古着再構築をしていると、すぐにサステイナブルなどと言われますが、サステイナブルって入り口にするものではなくて内側に宿すべきものなんですよね。それを入り口にするくらいなら、何も生産しないほうがよっぽど環境に優しいから、なにか嘘っぽい。価値を持たれなかったものを価値あるものへ作り替えなければ、古着再構築をする意味がありません。そして世の中には、まだ誰にも価値を見出されず、流通しても売れず、国内外を漂流し続けてる古着素材がいくらでもあるんです。今回のショーの、モノクロから始まって色が加えるという流れには、秋冬、モノトーンが増える人たちに色彩を提案するという、街に彩りを加えるブランドになりたいという願いも込めています」

元々は画家になりたかったと言う松田氏。パウル・クレーの絵を見て画家を志し、10代から20代前半までは絵画の展示活動に専念したが、なかなか絵は売れず。「その絵を服にペイントしたらきっと売れるよ。日本人って絵は買わないけど服は買うから」という知人の言葉から、現在に至るという。そこからファッションを志したと言うが、現在でも表現すること、伝えることを優先し、自分の服を売ることが一番の目的ではないと言い切るのは画家を目指していた松田さんならではだ。
 うめきたの昼間の芝生の上に突然表れた、nisaiの描く白昼夢からの目覚めは、街の人たちにはどのように映ったのだろうか。手の届かない美しさや力強さより、自分の内側にあるものに対峙することの意味を。街を形成するのは場所ではなく人であることを。うめきた2期地区開発プロジェクトの全体まちびらきは2027年度。夢から覚めた景色に、ファッションが繋げた、人と街が描かれていることを願う。

Nisai
2015年創設。好きな女性を振り向かせる為に独学で服作りをはじめ、総数3000点以上の一点物を発表販売して8年間続けてきたファッションブランド。アイテムの多くは古着素材によるオールハンドメイド、ハンドペイントが採用される。年間18回以上の展示会・ポップアップにはデザイナー自ら店頭に立ち、他ジャンルのアーティストとの共作制作や衣装提供を行い、中・高・服飾専門学校まで、場所を問わず特別講義・ワークショップなどを行う。ブランド名は、未熟者や半端者を意味する「青二才」からトリミングして付けられてる。年齢性別問わず、誰の心の奥底にも潜む未熟さや自由さを肯定するためのブランドであることを願う。その為に、年2回のシーズン発表に収まらず、ジャンルや場所を横断した共作、連携、発信を、ひっくるめてブランド活動と定義する。テーマは愛と恋。


うめきた再開発
大阪駅前の貨物ヤード跡地にて大規模複合開発を進めている「うめきた2期地区開発プロジェクト」の再開発。2023年春に完成する新しい大阪駅では7駅13路線が利用可能となり、関西国際空港や大阪国際空港、また新大阪駅へのアクセスのよさから国内はもとより海外からの来阪者数増が見込まれる。オフィスのみならず分譲住宅から5つ星ホテルを含む3つのホテルなどが建設されるが、世界的に注目されているのが約4万5000㎡もの都市公園。1万人規模のイベントに対応する広場(大屋根施設をSANAAが設計)や、安藤忠雄氏が設計監修を担当するネクストイノベーションミュージアム、ビル内には大阪駅方面を眺められる都市型スパ、イギリスのシティガイド「Time Out」の編集者が監修した、食と文化を体験できる大規模フードマーケット「Time Out Market Osaka」が誕生するなど、主要な施設を大阪万博に合わせて2024年夏頃先行まちびらき(2027年度全体まちびらき予定)。世界でも類のない「みどり」と「イノベーション」の融合拠点の形成を目指している。