「やっぱり、やってよかった」
目の前で繰り広げられるファッションショー。デジタル配信が代替えしてくれる時代になったが、この高揚感はそこに身を置かなければ味わえるものではない。そう確信させたのが、メゾン ミハラヤスヒロ(Maison MIHARA YASUHIRO)のショーだった。
メゾン ミハラヤスヒロ 2023年春夏コレクション、ショーのフィナーレより。
今年6月、コロナの収束に伴って多くの国外ブランドがパリ・メンズ・ファッションウィークに戻ってきた。メゾン ミハラヤスヒロもその一つ。デザイナーの三原康裕にとっては2年半ぶりのパリである。
「やっぱり、やってよかったと思いますね」ショー後のインタビューでそう話した三原は、数日前に50歳の誕生日を迎えたばかりだった。
インタビューに応じるデザイナーの三原さん。
「まだ40代のうちにパリでショーができると思っていたら、できなくなってしまって、やっと来ることができたという感じです。もう映像配信だけでいいんじゃないか、日本でもいいんじゃないかと、疑心暗鬼になることもあって。パリで発表し続ける意味など、いろいろなことを考えた2年半でした」
「正直なところ、日本から参加するのは結構たいへんなんですよね。サンプルを持ってきて、限られた時間の中でスタイリングしたり、キャスティングしたり。労力もお金もかかるから。ただ、僕はビジネスのためにやってるんじゃないって、毎回思う。ビジネスだけで考えると、こんな無駄なことはないよね。でも、こうやって人と会えるし、いろいろなブランドのショーがあって、ファッションが好きな人たちが世界中から集まるパリは、ある意味、僕らにとってもすごく楽しい場所かな。遊び場であるような気がします」
モデルのリストとスタイリングのポイントが書かれたボード。
そんな言葉を裏付けるように、バックステージは終始穏やかなムードで、時折笑い声も聞こえてくる。空気が張り詰めていてもおかしくない場面だが、三原のおどけた振る舞いや気遣いの言葉がまわりを和ませているのだ。
リハーサルにて。写真下はシャボン玉を見て微笑む三原さん。
三原さんの性格が反映してか、バックステージはリラックスしたムード。
「ファッションは遊び」
会場となったのは、取り壊し前の古いアーケード「パサージュ・プランス」。昔懐かしいパリの情緒を漂わせる場所である。先シーズンは東京の浅草すしや通りを舞台に、下町のカルチャーとファッションが融合するユーモアいっぱいショーを繰り広げた。その時のフィナーレで使った紙吹雪がこのアーケードの床にも敷き詰められ、“ミハラヤスヒロ物語”の連作の続きであることをほのめかしていた。
会場の「パサージュ・プランス」。左の写真は、招待客の入場が始まった頃、会場を覗く三原さん。
様々なデザインの椅子が並ぶ会場。床には紙吹雪が舞い落ちたような跡が。
「前回、浅草でショーをやった時もそうですが、ファッションというのは遊びであることを伝えたかったんですよね。本質的にファッションはカルチャーだと思っています。オランダの歴史学者が、“遊びは文化より先にある”と言ったように、どんなカルチャーもスタートラインは遊びなんじゃないかと。言うなれば、現代においてファッションは遊びです。だから、あまりシリアスにならずに楽しんでもらいたい。年を重ねれば重ねるほど、そう思うようになりましたね」
バックステージにて。上の写真は長年一緒に仕事をしているヘアスタイリストのマーティン・カレン。
「ファッションデザイナーは人を喜ばせるためにある仕事だけど、人に求められている仕事ではないと僕は思っているんですよね。人を魅了してこそ価値があるけど、必要不可欠ではない。だったら、こうゆう世の中だからこそ、ユニークな方法で人を明るくさせるというのが大事じゃないかなって思う」
ショー前に清掃員に扮した三原さんがランウェーを掃除するドッキリ仕掛けもあったが、やっぱりすぐに見破られた。
「僕はもともと東京でショーを始めましたが、ミラノ、パリ、ロンドンでもやってみて、またパリに戻ってきたんですよね。なぜかというと意外とここには居場所があるんですよ。東京で続けていたら自分がダメになるんじゃないかって思ってね。みんな褒めてくれるけど、けなしてくれないから」
本番が近づき着替え始めるモデル。徐々に緊張感が高まっていく。
「パリはクリエイティブなことに対して敬意があるというか。ここでやる意味ってそうゆう点で、今回もすごくそれを感じました。浅草のショーでは商店街や地域の方々が協力してくれて、日本はとても民度が高いと思いましたね。それはパリも一緒で、無理そうなことを意外とやろうとしてくるところがある。カルチャーに対しておおらかですよね」
ショーの開始数分前。
いよいよショーがスタート!
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