オダギリジョーさん×主演・池松壮亮さん対談
ものを作るなら、物議を起こす覚悟で。
オダギリジョー脚本・演出のドラマ「オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ」放送中!

2021.09.17

俳優として、監督として、カルチャーの担い手として――。私たちの感性を刺激し続けるオダギリジョー。彼がNHKで脚本・演出を手掛け、オリジナルドラマを放送するという。しかも主演は池松壮亮。さらには永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、永山瑛太、染谷将太、仲野太賀、佐藤浩市といった超豪華キャスト(いま列記したのはほんの一部)が並ぶ。9月17日に初回放送を迎えたドラマ10「オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ」(全3回)は、制作発表時から“熱”を帯びていた。

その“熱”とは、視聴者サイドの「観たことのないものが観られそう」という“期待”と、製作者サイドの「観たことのないものを作り、届ける」という“気概”、その両方といえる。本作は鑑識課警察犬係の青葉一平(池松壮亮)と、相棒である警察犬オリバーが不可解な事件に挑む物語だが、簡単には言語化できない野心と遊び心に満ちた意欲作。必ずや、私たちの価値観と格闘する1本となるだろう。

『アジアの天使』(’21年)では兄弟役を演じ、「オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ」では脚本・演出と主演という立場でセッションしたオダギリと池松。共鳴し、共振する現代の表現者ふたりの濃密な対談をお届けする。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / styling : Tetsuya Nishimura (Joe Odagiri) / hair & make up : Yuuki Shiratori (Joe Odagiri) , Fujiu  Jimi (Sosuke Ikematsu) / interview & text : SYO


STORY

物語の主人公・青葉一平(池松壮亮)は、鑑識課警察犬係に所属する警察官。彼の相棒は警察犬のオリバーだ。ある日、一平が出勤すると、先輩である漆原(麻生久美子)から、優秀なオリバーの足を引っ張らないよう釘をさされてしまう。一平が所属する狭間県警の鑑識課警察犬係は、課長(國村隼)、同僚で同じハンドラーのユキナ(本田翼)、後輩の三浦(岡山天音)と、そして漆原がメンバーだ。そんな彼らのもとに出動の要請が。やがて彼らは奇妙で不可思議な事件に巻き込まれていく……。可笑しくもサスペンスフルな物語と衣装やセットのアート性、日本の映像作品を牽引する豪華キャストも見どころ!

ドラマ10「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」2021 年 9 月 17 日(金)、24 日(金)、10 月 1 日(金)<全 3 回>  NHK総合よる 10 時~10 時 45 分。オダギリジョー脚本・演出・出演。池松壮亮、永瀬正敏、麻生久美子、本田翼、佐藤浩市ほか出演。
WEB:https://www.nhk.jp/p/ts/ZPZJP2WJ9R
Instagram @nhk_oliver

池松くんとなら面白い遊びができるという確信を得られた。ーーオダギリジョー

――『アジアの天使』(石井裕也監督)など、つながりのあるおふたりですが、“出会い”はいつ頃だったのでしょう?

オダギリジョー(以下、オダギリ):最初の出会いは、三谷幸喜さんの特別ドラマ「三谷幸喜『大空港2013』」(’13年)ですね。舞台のように稽古をした後、長野県の松本空港で4日間くらいかけて撮影していたのですが、ワンシーン・ワンカットドラマのため、空港オープン前の早朝に一発本番で撮ったら、その日はもうすることがないんです。三谷さんからダメ出しが少しあるくらいで、セリフもみんな覚えちゃっているから朝撮って、昼に終わったらみんなでご飯を食べたり遊んだりしていました。
そのときに、香川照之さんと池松壮亮くんと3人でよく飲んでいた記憶がありますね。

池松壮亮(以下、池松):そうですね。ほとんど香川さんがしゃべっていて、僕はほぼ聞き役に徹していたと思います(笑)。何かを聞かれたら答えはするけど、当時は22歳くらいで、大学を卒業してこれから本格的に俳優をやろうと思っていた時期だったんです。尊敬するお二人と毎日長い時間いるのは嬉しいながらも気が抜けなくて、少しだけ苦痛でした(笑)。

――オダギリさんと香川さんといえば、西川美和監督の『ゆれる』(’06年)です。ゼロ年代の日本映画を代表する1本であり、西川監督と池松さんは『永い言い訳』(’16年)で組んでいます。ここにもまた共通点がありますが、池松さんにとってオダギリさんはどんな存在だったのでしょう?

池松:映画をちゃんとやろうと思っている人ならば、間違いなく一度は通る存在がオダギリさんだと思います。初めてお会いしたときも自分の中ではある程度の研究は進んでいて、この国の映画史・俳優史の超重要人物として認識していました。
 この国には豊かな俳優史があって、年代ごとに重要人物が何人かいると思っているんですが、その流れの中でもオダギリさんだけはまた少し異質だと感じていました。上の世代からの流れを受け継いでいるようで受け継いでいなかったり、受け継がないように見せかけて実は一番引き受けていたり。
 自分の軸で物事を見極めてきた方だと思いますし、その見極めとセンス、独自性にとても興味がありました。

オダギリジョーさん、ドラマ撮影中の現場写真。

「オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ」より。
(C)NHK

――『アジアの天使』では兄弟役を演じられましたが、オダギリさんにとって池松さんはどんな俳優でしょうか?

オダギリ:すごく作品に誠意を持って真面目に取り組むし、その姿勢に好感が持てて尊敬もしている存在です。今の若い世代って、1分待ち時間があるとすぐに携帯を見ちゃうでしょ(笑)?別にいいんだけど、その都度現実に戻されちゃって作品から離れていく気がするんですよね。池松くんは携帯も台本も現場に持ち込まない。それは覚悟ですよ。作品に向かう覚悟。その辺りは、同世代でも頭ひとつ抜けているんじゃないかと思いますよ。

――池松さんへの「オリバーな犬、 (Gosh!!) このヤロウ」の出演オファーは、『アジアの天使』後だったのでしょうか。

オダギリ:『アジアの天使』での芝居のやり取りの中で、池松くんとなら面白い遊びができるという確信を得られて、撮影の後半に池松くんに1話の台本を読んでもらい、もし興味が持てたら参加して欲しいと伝えました。

池松:やっぱり、オダギリさんが『ある船頭の話』(’19年、オダギリジョー監督)の後に何を撮るかというのはみんなが気になっていたと思います。そんななか、韓国での撮影期間に飲みながら「こういうテレビドラマをやろうと思ってる」というお話をうかがって。コロナ禍で世界がどうなるか分からない状況だったのにもかかわらず、その時オダギリさんがとても楽しそうに、ゲラゲラ笑いながらものづくりについて語っていたことが、ものすごく印象的でした。

オダギリ:(笑)。

池松:「オダギリさんはやっぱり変わっているなぁ」と思いながら一緒にゲラゲラ笑っていたのですが(笑)、台本を読んだときに「なぜこういったところに至るか?」を僕なりに想像できましたし、オダギリさんの圧倒的な独自性と性質がそうさせていると感じました。オダギリさんがやるということに意味があって、他の人がやったら、おそらく失敗すると思います。そのギリギリのラインを選択しているのもオダギリさんらしいなと感じましたし、これで打って出ようという覚悟を感じました。読み終わって直ぐに、「僕で良ければ是非やらせて下さい」とお伝えしました。