『装苑』1月号連動企画
「美しき遭難者」を手がけた監督・松岡芳佳さんが考える、
映像とエディトリアルのディレクションのこと

2021.12.06

絶賛発売中の『装苑』1月号では、「ディレクションの効果とプロデュースの時代」と題し、あらゆるジャンルのクリエイターにフォーカスしています。

その特集で、映像作家のディレクションによるファッション企画「美しき遭難者」を手がけた、気鋭の映像監督・松岡芳佳さんが、特別に「美しき遭難者」のティーザートレイラーを制作してくださいました!

装苑オンラインでは、ティーザートレイラーの公開に併せて、松岡さんが思う映像とエディトリアルの仕事の違いについてや、今回の企画のコンセプトについて語っていただきました。

direction : Yoshika Matsuoka (HAKUHODO PRODUCT’S INC)/model : Shizuka Ishibashi/photographs : Shun Komiyama/styling : Marie Higuchi (TRON)/hair : Keiko Tada (mod’s hair)/makeup : Yuka Hirac (VOW-VOW)

映像は、極端に言うと、伝えたいことは最後の2秒の表情に込められていてもいいけれど、
エディトリアルの世界では、1枚の絵に全ての瞬発力を注がなければならない。

ーー『装苑』1月号では、初めてのエディトリアルのディレクション、ありがとうございました。
松岡芳佳さんはCM作品やCHAIのMV「miniskirt」、短編映画『ただの夏の日の話』など、幅広い映像制作に携わっていますが、まずは、松岡さんが映像監督という仕事を選んだ理由や経緯を教えてください。

学生の頃から言葉が好きで、その中でも「映像」における主人公の言葉や、CM の言葉にグッとくることが多く、映像の仕事に携わりたいと思っていました。

最初は監督を目指して入社したわけではなかったのですが、仕事をしていくうちに、自分の頭の中で生まれたアイディアが現実になっていく瞬間が一番楽しいと気づき、監督を目指すようになりました。

ーー普段から、アイディアをたくさん出していると思いますが、どのようにしてアイディアを具体化しているのでしょうか? またアイディア自体はどのようなタイミングで頭に浮かびますか?

私は普段、最初に「言葉」から切り口を考えています。

何を伝えたいか、言い換えるとどうなるか、どんな言い方がいいのか、どこで言うのか……。そういったセリフなどの言葉から考えます。そこからPinterest で集めている自分の好きなトーンの資料と組み合わせ、形にしていくことが多いです。

今回の「美しき遭難者」という言葉はお風呂に入っている時に思いつき、忘れないように慌ててスマホを取りに行った記憶があります。

ーー映像を作る上で、松岡さんがキーにしている言葉はありますか?

「感情を映す」ということです。

感情には数え切れないくらいの種類があって、名前の付けられないような複雑な感情もあると思うのですが、そこをどう描くかに一番こだわっています!

そのために大切にしているのは、「感情で語る」ということです。

ここのタイミングで相手を見て欲しい、などと動きで語ってしまうと一気に「演技」になってしまうので主人公の気持ちで語ってディレクションして、大きな動きは役者の方に任せるようにしています。

ーー今回、『装苑』の企画でビジュアル作りをする際に、「美しき遭難者」というコンセプトにたどり着いたいきさつを教えてください。

ちょうどこのお話を頂いた時、CM の仕事やMV の仕事をしたり、自分で短編映画を撮ったりしていた時期と重なっていて、その上初めての雑誌のお仕事を頂けて、仕事の進むべき道に迷っているような感覚でした。

最初は自分の「迷い」を形にしようと考えていたのですが、考えている中でふと思ったのは「迷っていない人なんていない」ということ。

誰もが沢山の自分を着飾って、美しく見せようと強がりながら、進んでいる。先に誰かが通った道を進むのが正しいのか、果たして進んでいる今の道はゴールに向かっているのか……。

そんな誰もが感じている迷いを「美しき遭難者」として表現しようと思いました。

ーーこの物語の主人公に、石橋静河さんを選んだ理由はなんですか?

石橋さんとはずっとお仕事でご一緒してみたかったので、今回オファーさせていただきました。

強い軸を持ちつつも、どんな役のイメージにも固まりきらず、いくつもの感情を言葉がなくても表情で感じさせることができる方だなと、作品を見て感じていて。

客観的に見ると、「弱さ」が表面的に見えないところも、今回の企画に合うのではないかと思いました。

ーーエディトリアルでは、写真と言葉で物語を表現します。この経験からエディトリアルの作業において、何が重要だと感じましたか?

最後のページに文章を載せて、企画意図や物語を補うことはしないと最初に自分の中で決めていて、ショートエッセイと写真の中から、見て頂けた人それぞれの解釈があるといいなと思っていました。そう決めていたが故の悩みではあったのですが、「言葉がなくても伝わる絵作り」が重要だなと感じました。

映像の監督をしてる上で、いかに自分が今までどれだけセリフの力に頼っていたか、というのを改めて思いました。説明しすぎても余白が無くなってしまうし、伝わりきらないともったいない……。

「言葉が無くても伝わる」という表現に対して何度も考え、成長もできたと思うので今後の仕事にも活かしたいと思いました!

ーー初めてのエディトリアルの仕事を通して、映像監督の目から、映像とエディトリアルの制作の相違点や利点、または表現しづらいことなど、感じたことを教えてください。

映像は、30 秒の尺があるとすると伝えたいことは、極端に言うと最後の2秒の表情に込められていてもいいと思っていてーー広告の世界では最初の数秒でのつかみを求められることも多いですがーーその2秒の表情をどう感じてもらうかの前振りを、どう演出するかが大切だったりもしますが、エディトリアルの世界ではそうはいかず、1枚の絵に全ての瞬発力を注がなければならない。

1枚の写真を見て、それが物語を産む必要がある。その強さと表現方法は、初めてだったので難しかったし面白かったです。

また、今回ご一緒できたカメラマンの小見山峻さんはフィルムで全ての写真を撮ってくださったので、現場では何も確認できず! それが一番の違いだったかもしれません(笑)。ドキドキワクワクソワソワしました。

ーー今回特別に、撮影風景を収めたティーザートレイラーを制作していただきましたが、誌面のフォトストーリーとの関係性は?

映像でもあえて説明しすぎず、今回の誌面をそのまま映像にしてみることにチャレンジしてみました。

石橋さんの笑顔などもたくさん撮れてはいたのですがあえて使わず、掴み所がなくて、美しい音楽は流れているけれど、よく聞こえない……。

不安な中でも自分の意志を信じようとするような。起承転結を作らないことで、まだ道半ばなニュアンスを表現したいなと思いました。

ーー今、SNS などでも簡単に映像作品を編集してアップすることができますが、松岡さんが読者の方に動画制作のアドバイスをするとしたら?

私も一時期ずっとやっていて面白かったのは「映像日記」を作るということです。

iPhone で、今日という1日の中で目に止まった瞬間を撮影して、スマホアプリで編集して、好きな言葉を載せて作品にする日記感覚の映像です。今回のティーザーのもっと日常ver のようなものなのですが、これが意外とすごく楽しくて。

やると決めると、毎日「今日はどこを切り取ろう」と探すようになって、スマホから目が離れて街を眺める時間ができたりしました。

ただ卵を茹でているところを撮影しただけなのに言葉を載せただけで可愛い映像になったり……。誰もが数万円するカメラ(iPhone)を毎日持ち歩いている状態だと思うので、何でも撮ってつなげると作品になってしまうと思います。

ーー松岡さん自身、「美しき遭難者」ともいえる幅広い活動をしておりますが、今後の方向性ややってみたいことなどがあれば教えてください。

私もまだ遭難している状態なのですが、CM、映画、MV、雑誌……たくさんのことに挑戦中ですが、やってみたいことも山ほどあります。

大きな目標としては、長編映画を撮りたいです。『ただの夏の日の話』という25 分の短編映画を今年制作したのですが、そこで映画の面白みを知ってしまい、いつか自分の監督した2時間をこえる映画を映画館で見ることが今の夢です。

今すぐやってみたいこととしてはMV をもっと撮りたいです。「歌詞」という物語がすでにある状態で、どう映像を重ねるのかの表現が、自由度もあってとても楽しくて。自分から、ご一緒したいアーティストさんにお声がけしてみようかな、なんて思っています。

この質問には無限に答えられてしまいそうな気がするので、この2つに絞ってみました!

松岡監督の映像作品もチェック!

CHAI – miniskirt – Official Music Video

『装苑』でもお馴染みのNEO-ニュー・エキサイト・オンナ・バンド「CHAI」の新曲「miniskirt」を松岡さんがディレクション。マナさん、カナさんがミニスカを履く「美似好迦派」、ユウキさんとユナさんがロンスカを履く「論好迦派」となり、彼らが仁義なきファッショナブルなスタイル抗争を繰り広げた挙句、最終的にお互いの良さを認め合い、一つのファッション族「新生服愛四女」になるというユニークかつパワフルなファッションムービー。

短編映画『ただの夏の日の話』

映画を通して群馬県桐生市・みどり市の魅力を発信することを目的に、2011年に公益社団法人桐生青年会議所の55周年事業としてはじまった、地域密着型のきりゅう映画祭で上映された作品。東京に住む27歳の主人公が、お酒に飲まれ記憶をなくし、なぜか気がつけばそこは群馬県の桐生市。長閑な風景の中展開するちょっと不思議な物語を、深川麻衣さんと古舘寛治さんをメインキャストに綴った短編映画。

BOVA 協賛企業賞 富士フイルム「妙なアルバム」

なんと、松岡さん自ら家族と出演した映像作品。実際の家族のアルバムに少しの違和感を持たせる妙な加工を施し、松岡さんの目線を通して、見る人の頭に「??」を思い描かせる、楽しい手法が特徴。フィルム写真とデジタル加工という、過去と現在の表現方法を繋いだ物語が面白い。

2019 JAC AWARD 永井聡賞作品 「最期の言葉」

愛する家族に見守られながら、最期の時を迎えたおばあちゃん。果たして彼女が最期に家族に残した言葉とは? 悲しい物語を、始まりを感じる希望の物語へと転換し、見事、2019 JAC AWARD 永井聡賞に輝いた。既存の視点をひっくり返すことで、新しい意味を付加している。

プロフィール画像

Yoshika Matsuoka●1994年生まれ、大阪府出身。2017年、博報堂プロダクツ入社。CMディレクターとして’19年に「最期の言葉」でJAC AWARD 永井聡賞を受賞。同年、「妙なアルバム」でBOVA 協賛企業賞を受賞する。’21年にCHAIの「miniskirt」のMVを手がけ、短編映画『ただの夏の日の話』を発表。
Instagram:@yopika 
Twitter:@yoshikamatsuoka