映画監督、俳優・須藤 蓮(『逆光』監督)×脚本家・渡辺あや(「エルピス-希望、あるいは災い-」脚本)対談。
新オープンの「FOL SHOP」に込めたスピリットをひもとく

2023.04.27

「FOL SHOP」店内より

文化や芸術は、人間が内包する不都合さを受容する置き場

――今お話ししてくださったことは、文化や芸術の本質的な側面ではないかとも感じます。

須藤 そうですね。本物の芸術は線を引くためにあるのではなく、今ある線を破壊するためにあると思っています。自分という枠組みを飛び出すための装置が、芸術や文化。例えばあやさんが抱えてきた問題をうかがうと、パワハラやセクハラというだけで作品の中に描写できなくなったとか、やりたい企画ができなくなったとかで、線を規定してそこから出られなくなっている状態なんですよね。そういう社会の中で生きている若い人が、突然、三島由紀夫に触れるととてつもない衝撃を受けたりする。

 僕は昔の時代に生きた人たちの、いびつな奥行きみたいなものを感じると安心します。古着にもそういう面はあって、一着一着、どこかいびつだったりムラがあったりする。もちろん新品の服も大好きですけど、そういう一つ一つが違うことの良さを発見しながら選んで着るという行為の中に、人を安心させる作用や、美意識を鍛える側面があると思っていて。 

 ちょっと高飛車かもしれませんが、「FOL SHOP」が、10年後、20年後に日本から世界に出ていくアーティストや作家、ビジネスマンがみんな通っていく場所になるのが夢です。だからチームともあまり呼びたくなくて、「スピリット」と言いたい。なるべく風通しよく。ここを通っていくことで誰かが花開き、またどこかでそれを違う形に変えていってくれることに期待したいです。

――渡辺さんにとって、そのようにご自身が「解放された」と感じる芸術体験はなんでしたか?

渡辺 全てがそうだったような気がします。さっき蓮くんが少し言っていましたが、この前、連続ドラマを作っていた時にセクハラの描写を入れたら、「セクハラ描写は不快に感じる人がいるかもしれないので、削除すべきではないか」ということが議題にあがってきたんですね。その時、とても驚いてしまって。もちろん、作中でセクハラを良いものとして書いているわけではなく、あくまで否定的な意味で置いているつもりでした。それでも書けなくなるのだとしたら、すごく問題だと思ったんですね。結局は、残したいと言い張って残させてもらったのですが、たしかに非難轟々でした(笑)。でも、このように、本来人間が内包している都合の悪さを省いていって、あまりにも綺麗なものしか残さないことが、社会にとって良いか悪いかと言われれば、私はあまり良いことではないような気がしています。

 人間は、みんなどこかしら都合が悪いもの。そういうものには排除よりも受容される置き場所が必要です。それを担っていたのが芸術や文化だったんだということに、その時、人生で初めて気がつきました。だから必要なんだ、と。芸術が果たしてきてくれたそうした役割に、私はすごく救われていたんです。

 過去に自分が出会ってきた様々な作品が、人間というのは不都合なものであり、そのしょうがなさとともに、そうした都合の悪さと自分あるいは社会がどう折り合っていくのか、そしてそれは人類がそもそも抱えている課題である――ということを教えてくれていたのだと感じました。

「FOL SHOP」店内より

――とても豊かなお話をありがとうございます。最後に、秋に公開される新作映画『ABYSS アビス』と「FOL SHOP」の関わりがどのようなものになりそうかを教えてください。

須藤 『ABYSS アビス』は僕の渾身の監督作です。もちろん深いところで「FOL SHOP」と同じスピリットを共有していて、僕自身の中にある不都合な部分を全部出していますし、いろんなことに自分なりに挑戦もしています。映画を観たら「あ、こういうことを言いたかったんだな」とわかっていただける気がします。不都合さの連続という感じですね。

渡辺 すごく怒られそうだなって思います(笑)。私があの程度のセクハラ描写で怒られたということは、相当いろんなところからご批判があると思いますね。怒られると思いますから、期待していてください(笑)。

――(笑)。

須藤 当時の文豪の迫力をそのまま俺も持つぞという気概で撮りました。

渡辺 怒られてなんぼだっていうね。

須藤 はい。でも本当に、みんな人間や自分自身を綺麗なものだと規定しているから元気がなくなるんじゃないかなぁ。俺はどうしようもないし、利他的な人間でもなくナルシストだし無茶苦茶だけど、だからこそやれていることもあると思っているんですよね。往々にして、人の不自然な部分や、一見ダメな部分って、その人のとてつもない才能だったりするものです。そういうことをちゃんと伝えないといけないんじゃないかと思っています。今、みんなが思い描いているような「理想的な社会人」って、僕はあと数年でChat GPTに取って代わると思っているんですよ。

 だからそれは諦めて、自分たちの中にある不都合なものを見つめてそれを可能性として捉えることで世界を押し広げるような……「Web3.0」じゃなくて「リアル3.0」がいいなって。リアルの世界を拡張していく努力をしていきたいですね。・・・自分で言っていて、お腹が痛くなってきました(笑)。

渡辺 風呂敷広げましたね!

FOL SHOP 
場所:東京都世田谷区若林3-17-11 石田ビル2F
時間:13:00〜21:00
Instagram @fol.fruitsoflife

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