アオイヤマダインタビュー
『星の王子さま-サン=テグジュペリからの手紙-』
2年ぶりの再演に向けて思うこと

2022.11.14

2020年に開催された美しいコンテンポラリーダンスの舞台「星の王子さま」が、2023年の1月に再演されることになった。美術・衣裳・音楽などアーティストの魅力が見事に終結した本作。初演に引き続きこの舞台で“王子さま“を演じるのは、今注目のダンサーアオイヤマダ。感受性が強く、好奇心旺盛なとてもピュアな22歳の女性。そんな彼女が再演に向けての意気込み、そして衣装のことファッションについて語ってくれた。

「2年前より、もっともっと素晴らしいものにしたい。そのためには・・・」

―2年ぶりの再演おめでとうございます。アオイさんの中で2年前と変わったところはありますか?

沢山あります。まず初演の時は、1人で舞台に立つということがものすごくプレッシャーでした。まわりは技術も経験もあるダンサーさんたちで、その中に私が入っていいんだろうか?ここにいていいんだろうか?とずっと自問自答している状態で本番に臨んでいました。内容に入り込むよりそのプレッシャーの方が大きくて。でも、何とか(森山)開次さんの表現したい世界は理解したかったんです。「星の王子さま」という有名な題材で、どういう表現ができるのか考えていました。2年ぶりに再演することになって振り返ってみたんですけど、なんか振り返ると反省点ばかりで。より良くしたいからこそなんですけどね。

―反省点をクリアするためにどのようなことを考えていますか? 

前回よりもいいものにしたい。けど、いい意味で、前回を越えられない気がします。矛盾してますが。笑
今月砂漠を見にエジプトに行ってきます。王子が出てくるシーンには砂漠があって、蛇といろんな会話をするのも砂漠。頭ではわかっていても実際に見たことのない砂漠ってどうしても上手く様子がつかめないんです。でも本物の砂漠を見たら絶対に前回と感覚が変わるだろうと思って。
想像力、発想の転換が、次の作品をより良くしてくれるのではと思っています。

この2年の間で、東京2020オリンピックで『追悼』のソロパフォーマンスをさせていただきました。
一人で舞台に立つことへの緊張よりも、『追悼』への緊張と責任を感じました。
その経験を経て、今回は舞台に立つ緊張より、作品と時間を共にすることを楽しみたいです。
もっと出演者の方たちとコミュニケーションをとったり、開次さんともっと話す時間を大切にしたいなと思っています。人とのかかわりをもっと大切にしたいんです。作品の中だけで生きるのではなく、自分の生き方に向き合うようになりました。今、生きていることって、すごく奇跡ですよね。「星の王子さま」という題材があって、開次さんの振付・演出があるけれども、まず先に人間関係を築きたいなと。開次さんをもっと知りたい。何時に起きるとか、そういうことも知っていきたい。

―今回、開次さんから何かアオイさんにリクエストはありましたか?

今の時点ではまだ話せていないんですけど、前回は“アオイのままでいい”とずっと言ってくれて。“技術とか何も心配していない。ただアオイがアオイのままでいてくれたら王子になるから”って。“そうできるように僕が作るから”って。そう言ってくれていたんですけど、今回は自分も食って掛かりたいというか(笑)。原作には“大切なものは目に見えない”っていう一節があるんですけど、私はこの2年で、目に見える大切さっていうものも感じたんです。“やっぱり目に見えないものより目に見えるものをまず大切にしたほうがいいんじゃない?”って。感じたことや疑問も言いたいし、ただみんなの言うことを聞いているだけじゃなくて、自分も意見を発信していきたいです。そういうクリエーションをしたいです。そしてお客さんにも、お客さんが考えたくなるような作品にしたい。言葉のないダンスの舞台だから、これっていう具体的な提示はありません。お客さんがダンスを見て、これはどういうことなんだろうって、題材の「星の王子さま」と照らし合わせて考えてほしいんです。そこに自分の経験なども思い起こしつつ。そんな素敵な時間をプレゼントできるような舞台にしたいです。

―踊りを纏う姿がポエティックと開次さんが言っていましたがそれはどう感じますか?

嬉しいです。ほかの方からも言われることがあるんですけれど。昔から、躍るときに物語を考えてから躍ることが多いんです。自分の中にテーマを作ります。朝起きた感じなのか、悲しいのか、嬉しいのか。何となくそういう世界があってダンスにするという工程が好きです。

―物語の中の素敵な言葉をすべて躍るということで表現しなければならないのですが、どういう難しさがありましたか?

ストーリーの中で王子が泣くシーンがあるんですが、2年前は泣くということをリアルに泣くことでしか表現できなかったんです。その時は本当にその感情を出すことに集中していたんですが、涙を流す以外の悲しい表現ってないのかなって考えていて。そういうのって舞台の面白さでもありますよね。“悲しい”をテーマに出演者みんなで踊るセッションをしてみたいな。前回は1人で悶々と考えて、感情もゼロから作り出すしかなかったんです。そこにのめりこんで苦しくなって。でも今回は楽しくありたい。みんなに相談してみんなの意見を聞いて、そこに自分の意思が生まれて新しい表現方法が見つかったらいいな。

―この舞台のおすすめのシーンは?

開次さんの蛇です。出演者でありながら見入ってしまう。あの姿目指したいです。2年前は絶対に無理と思っていたけど、今回は少しでもいいから近づきたいです。

「ひびのこづえさんの衣裳じゃなきゃ表現できないことがたくさんある」

衣裳がひびのこづえさんですね。この舞台においての衣裳の役割をどう思いますか?

こづえさんの衣裳が場面展開のきっかけになっています。物語を進めてくれるものでありながら、衣裳にわたしたちがついていくようなところも少し感じていて。

衣裳に助けられていることも?

まずストーリーがあって、それを服が歯車のような役割で回転をかけていってくれて、そこに私たちがのっかってそこで表現している感じがするんです。こづえさんの服を着ると、意識が入るっていうか、役になりやすいんです。それは衣裳によって役に固められるということじゃなく、少しゆとりとか遊びを与えてくれるということ。ここからここまで服で決めてあげるから後は遊びなよって。だからとっても遊びやすい。

―静止したときと、躍った時の衣裳の違いはどう感じますか?

こづえさんの衣裳は躍る人のために作ってくれているので、動きやすさとか伸縮性とか全部考えてくれています。そして何より軽いし。私はきものとか躍るための物じゃないものを着て踊ることが多いので、逆にこんなに動けたらどこまで動いたらいいの?っていう感じです。止まっていてももちろん素敵です。こづえさんの衣裳を着ると、この衣裳でしか表現できない動きが出るんです。とても不思議。面白いですよね。

―今まで見た舞台や映画なので感動した衣裳を教えてください

それはもうたくさんあって・・・。この2年、私はこづえさんの展示でパフォーマンスすることが多かったんですが、今“ROOT:根”というパフォーマンスをやらせていただいていて、それでは大きなカエルを背負って脱皮しながら(服を脱いでいきながら)物語がすすんでいくんですが、めいっぱい着こんでからゼロになるまで。こういう発想が面白いなと思いました。自分の中では一番衝撃を受けたものです。

―自分を“躍る人”と言っていますが、アオイさんの中でダンサーとは少し意味が違うのでしょうか?

んー、肩書をコロコロ変えていて(笑)。正直肩書はなんでもいいんです。みんなが分かるものにしたいだけ。ダンスとか躍ることの可能性みたいなことをどんどん広げていきたいから。能も踊りだし、歌舞伎も、民族的な踊りもあれば、パフォーマンスも・・・。ジャンルが色々ありすぎるから、ダンスって一言で言っても難しいな。精神的なこととか思想とかを表現したいから、躍る人、ダンサー、表現者とかいろいろ言っています。

―能とか日本舞踊とか日本の伝統芸能的な踊りは習ったことはありますか?

能は少しだけ教わったことはあるんです。

―独特な動きだと思いますが、そういうものを取り入れたいなと思いますか?

表現ってすごく自由だし、何やっても受け入れられるからこそ逆に昔からある伝統的な踊りに惹かれます。極めたいっていうほどできるかわからないけど、お能とか歌舞伎とか、盆踊りみたいなものの精神は意識していたいです。意識して表現するのと、しないで表現するのでは、同じ自由な表現でもなんか違う気がします。これから先も伝統芸能とかにかかわって、後世にのこる、自由な表現を出来たらいいなと思います。

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