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映画『アイスクリームフィーバー』と
4人の女性たち

2023.07.12

アートディレクターの千原徹也さんが、4年半越しの夢をかなえて映画監督デビューを飾った。原案に川上未映子さんの短編小説「アイスクリーム熱」、キャストに吉岡里帆さん、モトーラ世理奈さん、詩羽さん(水曜日のカンパネラ)、松本まりかさんなど、千原さんにとっても気心の知れたメンバーが名を連ねた『アイスクリームフィーバー』(7月14日公開)だ。

 装苑オンラインでは、本作のオフィシャルライター、SYOさんによるコラムと千原監督が語るキャラクター4人の誕生秘話、スタイリストの飯嶋久美子さんが明かす4人の人物像と衣装の裏側といった、それぞれに異なるフレーバーが楽しめる“3段アイスクリーム”形式の記事をお届け!

interview & text : SYO

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映画コラム すべてが曖昧でプリミティブ

『アイスクリームフィーバー』は、東京に生きる4人の女性たちを描いた作品だ。美大を卒業してデザイン会社に就職するもうまく馴染めず、現在はアイスクリーム店でバイトする菜摘(吉岡里帆)。店にやってきたミステリアスな客・佐保(モトーラ世理奈)。菜摘のバイト仲間で後輩の貴子(詩羽)。アイスクリーム店の近所に暮らす優(松本まりか)。この4人の人生が直接的/間接的に影響を及ぼし合っていく。

物語構造をざっくりと説明すると「菜摘パート」と「優パート」に分かれていて、菜摘パートは川上未映子の短編小説「アイスクリーム熱」をアレンジしたものであり、優パートは松任谷由実の楽曲「静かなまぼろし」にインスパイアされたものだという。2色の独立したストーリーがアイスクリームのごとく溶け出し、混ざるようで混ざらない独特のバランスで成立した作品というわけだ。

また、千原監督は「答えのなさ」――わかりやすさを重視した昨今のエンタメとは一線を画す物語展開を標榜している。“告白した”とかしてないとか、“キスした”とかしてないとかではなく、それらが曖昧な中に立ち上がるそこはかとない恋慕――「明日には忘れてしまうラブストーリー」を目指したそうだ。そういった背景もあり、コラム執筆を仰せつかった身でこういうことを言うのは何だが、この映画を言葉で表象してしまうこと自体が野暮であろう、とも思う。

そもそも我々が映画にハマったとき、そこに言葉は存在していただろうか? 千原監督は影響を受けた作品のひとつにウォン・カーウァイ監督の『恋する惑星』(‘94)を挙げていたが、あの映画に惹かれた者の多くが言語野を超えた本能的な部分――「美しさ」とか「お洒落さ」に焦がれたはずだ。映像を通して美意識や世界観、作家性、文化に触れ、それらが自身の血肉となっていく。そのこと自体を愉しむためには、インスタントに言葉でラベリングするのはなんとも「素敵じゃない」と思うのだ。

作品によって発露したエモーションをエモーションのまま、言語に変換しないという豊かさ。もちろん識者たちの言葉は作品鑑賞を支える“杖”として機能するが、美術の分野に言葉を持ち込む感覚自体が近代以降のものと考えると、クリエイターも観客も近年の「何でもカテゴライズする」傾向に逆行して、「ただ素敵」とか「なんか良いね」といったようなプリミティブな部分に向かっていいのではないか。『アイスクリームフィーバー』はビジュアルからしてお洒落であり、色彩表現や衣装、美術、小物ほか画面に映る全てにデザイン性=意匠を感じられる。それでいて、言葉を発する前に舌先で消えてしまうような脆さもあり、なんとも捉えがたい。ただその言葉に出来ない、したくない感覚こそが本作の“味”なのだ。

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千原徹也さんが語る 4人のキャラクターが揃うまで

「吉岡里帆さんが演じた菜摘は、僕自身がこの生活でたくさん見てきた20代後半の女の子たちがベースになっています。能力はあるのに前に進むのが上手じゃなくて、遠慮しがちでおとなしくて、ガツガツしたほうが生き残れる社会に上手くなじめない人。吉岡さんの出演は最初に決まっていたので、彼女を想定しながら脚本を進めていきました。ただ、吉岡さんは「自分っぽさはない」と言っていましたけど(笑)

『アイスクリームフィーバー』はモデルにミュージシャン、芸人など、出演者の中に役者が少ない作品です。まるでデヴィッド・ボウイや坂本龍一さん、ビートたけしさんが出演した映画『戦場のメリークリスマス』(‘83)みたいですよね(笑)そんななか吉岡さんが「今回はキャストに役者ではない人も多いから、自分は“普通”でいよう」「これはリアリティよりお洒落さを重視する作品なんだな」と感じ取って、バランスを取ってくれました。

佐保には、違和感が必要だと考えていました。女優さんのように場に溶け込む人じゃなくて、異質な存在がいいなと思っていて、僕が監督したテレビドラマ「東京デザインが生まれる日」でもご一緒したモトーラ世理奈さんにお願いしました。彼女ならではの空気感をもたらしてくれたと思います。

最後から二番目は、貴子役の詩羽。菜摘のバイト仲間役で飛び道具的なキャラクターが画の中に欲しかったんだけど、最初はもっとセリフが少なかったんです。でも、詩羽がやってくれることになって、菜摘と佐保を傍らで見つめながら、どういう気持ちでいるのかという要素が増えていきました。彼女は今回が初演技でしたが、めちゃくちゃ上手かったです。

最後に出演が決まったのは、優役の松本まりかさん。松本さんとも普段からよくお話などさせてもらうのですが、実は彼女に「優役は誰がいいと思う?」とずっと相談していたこともあったんですよね。それから決まることのないまま少し時間が経ちました。ある時、カンヌ国際映画祭を観に行った帰りに、飛行機の中で脚本を直していたんですが、「なんで松本さんにお願いしなかったんだろう?」とハッと気づき、着陸後に空港で彼女に電話してオファーしました。優と同年代くらいの人たちが「すごく共感した」と言ってくれるキャラクターになりました。

この映画のキャッチコピーの一つに「わたしたちの人生は、やさしくつながっている。」というものがありますが、僕自身もそれを感じます。吉岡さんとのつながりは2016年に彼女のラジオ番組に呼んでもらったことから始まっていますし、詩羽とはもともと知り合いでしたが、この映画を撮るタイミングで水曜日のカンパネラに入ることになって出演につながりました。マカロニえんぴつのはっとりくんに声をかけたのも、僕がたまたま聴いていたラジオから彼の声が流れてきた出来事からですし。素敵な偶然が重なり合って、この映画になったと思います。

千原 徹也さん

NEXT:スタイリストの飯嶋久美子さんが手がけた

4人のキャラクターと衣装について

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