2シーズン先のトレンドを予測。
帰ってきた「プルミエール・ヴィジョン」

2021.12.16

2022-23年秋冬「プルミエール・ヴィジョン・パリ」より。

ファッション素材の大型国際見本市、1年半ぶりに再開。

 世界最高峰といわれるファッション素材の国際見本市「プルミエール・ヴィジョン・パリ(PREMIERE VISION PARIS)」のリアル展が1年半ぶりに再開しました。

「プルミエール・ヴィジョン(以下PV)」は生地を中心に、繊維、レザー、服飾資材、テキスタイルデザインなど、ファッションを取り巻く様々なものを扱うフランスの見本市。シャネルやディオールなどのラグジュアリーブランドのバイヤーをはじめ、企業デザイナーから著名デザイナーまでが通う、クリエイションの出発点ともいえる場所です。

会場入り口。今回は衛生パス(ワクチン接種または新型コロナ陰性の証明)の提示が義務化され、すぐ横にはPCR検査のテントも設けられた。

会場のマップ。プリントは廃止に。

 今回は2022-23年秋冬シーズンに向けた見本市で、期間は9月21日から3日間。通常の会期は2月と9月ですが、パンデミックの影響で過去2回はデジタル形式で開催されました。実はこの9月展は、以前から時期が遅いと指摘されていたため7月に前倒しになる予定でしたが、今回は据え置きとなり、来年から変更されるそうです。(2022年は7月5日〜7日の開催予定)

真剣な表情で生地サンプルを吟味する人たち。

リボンなどの服飾資材の会社「SHINDO」のブース。

テキスタイルデザインのアイデアソースとして、昔の生地のサンプル帳を販売する「POTTERTON BOOKS」のブース。江戸時代の生地見本もあり人気なのだとか。

 今回の9月展では、多くの国が渡航を制限する中、リアルとデジタルを組み合わせたハイブリット・イベントを実施。リアル展での出展企業は756社、来場者は約17,100人と、いずれもパンデミック前に比べると半数を大きく下回りましが、これをデジタルでカバーし、全体では出展企業は903社、来場者は約62,800人を数えました。

気になる2022-23年秋冬のトレンドは?

 このPVの重要な求心力となっているのが、毎回発表される2シーズン先のトレンド予測です。これがファッション業界の動向に大きな影響を与えていると言っても過言ではありません。そのため、PVにはそのシーズンの動向を掴むために訪れる人も多く、会場中心にはトレンドに沿ったサンプルを展示するトレンド・フォーラムが設けられています。

来場者が必ず足を運ぶトレンド・フォーラム。今回は2か所に設置された。

 では、気になる2022-23年秋冬のトレンドはというと、大きなキーワードの一つが“結集”です。これは、ノウハウ、専門的知識、エネルギーを結集させ、力を合わせて前進しようというもの。そのほかにも“共同クリエイション”、“デジタルの活用”、“型にはまらない”などのキーワードがあり、目に見えない内面の価値、心が踊るようなファンシーな素材もクローズアップされました。また、強調されたのは、エコロジーへの取り組みです。さらにはサステナブルなファッションのための認証ラベルの重要性も挙げられていました。

写真上:リサイクルされた生地の展示。下:様々な認証ラベルを紹介するコーナー。

写真上:年々需要が高まる「スマートクリエイション」のエリア。サステイナブルな取り組みをするイノベーティブなメーカーが集まる。中:植物やバナナの皮などから作られる再生繊維の会社「PIRATEX」のブース。下:DNAの研究者が設立した「HAELIXA」のブース。原料がアパレル製品になるまでを追えるキットを扱う。

 カラートレンドではコレクションに活気を与えてくれそうなポジティブな色がそろい、特に「Cardio Orange(心臓のオレンジ)」とネーイングされた赤味が強い鮮明なオレンジがキーカラーです。

トレンドカラーの紹介。周りを見渡すと推しのオレンジがいたるところに使われている。

 ここにきて気になるのは、これらのトレンドがどのように作られるのかということ。PVゼネラルマネージャーのジル・ラスボルド(Gilles Lasbordes)氏にうかがいました。

「PVが発信するトレンド予測はフランス、イタリア、イギリス、日本など、11か国にいるメンバーの協議によって決定されます。まずはそれぞれの国で、アナリストやトレンド予測のプロが、その国の視点でトレンドを出します。次に国際会議で話し合い、色のコンビネーションやイメージを練り上げるのです。そして、それらの情報はまず出展者に提供されます。9月展分であれば4月末前後ですね。参考にするかどうかは自由ですが、多くの出展者はその情報を基にサンプルを作り、約3万点がPVに送られてきます。それをトレンドのフィルターにかけながら約700までに絞り込み、トレンド・フォーラムに展示するのです。そうすることで、マテリアルにもクリエーションがあることを示せますし、同時に価値を高めているのです」

 出展者たちへのインタビューでは確かにトレンド予測を参考にしているとの答え。加えてこの予測は見本市を訪れるバイヤーやクリエイターにも共有されるのですから、実際のトレンドになっていくのも納得です。

2022-23年秋冬トレンド・フォーラムより。

プルミエール・ヴィジョン 公式サイト:https://www.premierevision.com/en/

Photographs:濱 千恵子 Chieko Hama
Text:B.P.B. Paris