世界最大級のファッション素材の見本市、プルミエール・ヴィジョン・パリ(Première Vision Paris、以下PVパリ)の2027年春夏シーズンが、2月3日から3日間の日程で開催されました。

プルミエール・ヴィジョン・パリの2月展より。
職人技術と地域にフォーカス
今回は36か国から約1,000社が出展。テーマに「サヴォアフェール」を掲げ、職人技術の価値を強調するとともに、独自の手仕事が根づく「テリトリー(地域性)」にも重点を置きました。そのなかで、スポットライトを当てたのは、日本、ポルトガル、フランスです。さらにシーズンテーマを「オープン(OPEN)」とし、不安定な時代を背景に、持続的な喜びや多様な文化的背景、均質化に抗う特異な表現を受け入れる姿勢を示しました。


2027年春夏の方向性を可視化するエリア「プロスペクティブ・フォーラム」より。
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注目のカラートレンドでは、感情に直接働きかけるブライトな色を打ち出し、刺激的なライムイエローや鮮やかなレッドをラインナップ。一方で、ミルキーなオレンジやクリーミーなミント、パウダリーなマット感が、やわらかさを主張します。もう一つの柱となったのが、ガラス、セラミック、金属といった素材を想起させるソリッドな色。鮮烈さと安定性の対比が、今季のカラーレンジに見て取れます。

PVパリが発信するカラートレンドの展示。
発想の領域を拡大
2027年春夏の方向性を具体的な素材や色で表す「プロスペクティブ・フォーラム(Prospective Forum)」では、昨年9月展で導入したビューティエリアに続き、発想の領域を五感へと拡張。香水、音楽、写真、パティスリーなど、シーズントレンドに着想されたクリエイションを通して、多角的な体験を提供しました。
新体制のもとでイベントの構造改革を進めてきたPVパリは、服飾素材の見本市にとどまらず、今やファッション産業と切り離せない異分野を取り込むことで、求心力を高めようとしています。


ネイルやDJのコーナーも。
視線が注がれた日本のクリエイション
今回、クローズアップされた日本からは、新規6社を含む32社が出展。その中でひときわ目を引いたのは、日本ファッション・ウィーク推進機構(JFWO)のブースに展示された「JFW NEW CREATOR AWARD(NCA)」の受賞作品でした。

第一回「JFW NEW CREATOR AWARD」で選出された受賞6作品の展示。
昨年発足したNCAは、素材メーカーと若手クリエーターをつなぐ新しいかたちのコンテストです。第一回は「デニム」と「ウール」を題材に、それらの素材が生きるデザインを募集。応募総数1,309点の中から、文化服装学院アパレルデザイン科3年メンズデザインコースの榊原叶真さんが最優秀賞に選ばれ、副賞としてPVパリに招待されました。


榊原さんの作品。使用されたのは、尾州の中伝毛織が提供したクラシックなヘリンボーンのウール生地。メンズのスーツをベースに、“しつけ”や “はざし”といった仕立てのテクニックをスパンコールやビーズで可視化し、新しいテーラリングを提案する。シャツの前立てとネクタイが同化したトロンプルイユのアイデアも秀逸。
「ブースの前を通る来場者が足を止めて写真を撮っていくなど、驚くほどの盛況ぶりで、想像以上の反響をいただいています」と、JFWOマーケティング担当の富永茉由さん。


「今回のパリ滞在は、多くの刺激と学びのある忘れられない時間になりました。この経験を今後にしっかりと活かしていきたいです」と榊原さん。
また、日本を代表する服飾副資材メーカーSHINDOのブースでは、文化服装学院との共同企画によるコンテストの最優秀作品を展示。受賞した服飾専攻科技術専攻の細田優衣さんもPVパリに招かれました。

SHINDOのブース。バリエーションに富むリボンやブレードを取りそろえ、その数は4万点にのぼる。
今年で3回目を迎えたこのコンテストでは「サスティナブル×遊び心」をテーマに、学内から選抜された10名がSHINDOのリボンやブレードなどを自由に取り入れ作品を制作。既存の枠にとらわれないデザインの可能性を追求しました。


多種多様なリボンや紐に加え、廃材も豊富に使用した細田さんの作品。リボンをカットし、パイピングに使うなど、ディテールにも創意工夫が盛り込まれている。テーマの“遊び心”も随所に見られ、装飾に使われた数字はポケベル時代の暗号。ところどころに仕込まれたQRコードを読み取ると、メッセージにたどり着ける。
「提供した素材が創作意欲をかき立てて、これからの若いデザイナーが育ってくれたら嬉しいですね」と、SHINDOヨーロッパ社長の野村拓也氏。
「細田さんは、紐を解いてボリュームを出すという使い方もしていて、そうした発想に感心させられます。我々の素材の見せ方として、バリエーションが広がるので、ブースに来られたデザイナーさんへのアピールにもなるんですよね」。現在、受賞作品はパリのショールームにて展示されています。

「初めての海外だったので、緊張とワクワクがありました。実際に来てみて感じたのは、英語の必要性です。もっと色々な世界の方々とコミュニケーションが取れたら、自分のやりたいことに近づけるような気がして。これから英語をしっかり勉強しようと思いました」と細田さん。
日本の匠の技が魅了
卓越した技術に特化したエリア「メゾン・デクセプション(Maison d’Exceptions)」では、日本から参加した4社の芸術性に富む展示品が、来場者の関心を集めていました。

ラグジュアリーブランドからも注目される特設エリア「メゾン・デクセプション」の展示。
初出展となった組紐の「道明」は、1652年創業という長い歴史を持つ老舗。現在でも、手組みにこだわった昔ながらの方法で紐を作り続け、並行してネクタイやイヤリングなどのファッションアクセサリーも展開しています。

「道明」のブースより。現代的なネクタイやベルトの展示も。
今回の参加にあたり、10代目の道明 葵一郎氏が会場入り。職人が糸束を交差させ紐を組み上げていくデモンストレーションも行われました。使われるのは、手染めによる豊かな色彩の絹糸。興味津々に作業を見つめる来場者たちの姿が印象的でした。

糸がしっかりと打ち込まれることで、生地に独特の張りが出る。一本のネクタイは、ひとりの職人が丸2日をかけて組み上げていくのだそう。


日本における組紐の歴史は、飛鳥・奈良時代にさかのぼる。今日では、インテリアやアートへの広がりも。
また、これらの参加企業のほかに、日本の伝統的な染め技法を用いた参加者もいました。そのひとり、フランス人のトニー・ジュアノー(Tony Jouanneau)さんは、職人であり研究者としても活動するクリエーター。エコデザインやバイオデザインを軸とする染色加工ラボラトリー「ATELIER SUMBIOSIS」を主宰しています。
ジュアノーさんを惹きつける日本とは?
「私はこれまで、日本の職人技から多くのインスピレーションを受けてきました。日本の技術は、世界中に影響を与えていると思います。私の心を打つのは、その完璧さです。非常に精密で深い敬意を抱いています。そして、もうひとつは丁寧なものづくり。その中に、何か貴重なものがあると感じています」


プロダクトデザインを学び、フランスや日本の職人技術に造詣が深いジュアノーさんは、それらのノウハウを装飾芸術、照明、アート作品へと転用している。
2023年に、京都にあるフランスのアーティスト・レジデンス「ヴィラ九条山」に選出されたジュアノーさんは、ウニ由来の色素に関する研究を実施。その過程で、テキスタイル分野における伝統工芸の匠たちとの連携を築きました。
「日本には天然素材の資源と知識があるにもかかわらず、経済的な理由から合成染料へと置き換えられてきたました。私の活動の目的は、天然素材の再評価にあります」


ウニ染めの展示。プリーツ加工のテキスタイルは、フランス在住のクラフト作家である杉浦晴美さんとのコラボレーションによるもの。
「職人は生計を立てるのが容易ではありません。私のレジデンスの目的はフランスと日本が協働し、双方の工房を経済的にも持続可能なかたちにすることでした。職人技術を守るためには、進化が必要です。イノベーションと掛け合わせることが、保護につながるのです。日本の技術もフランスの技術も、同様に守っていきたいと考えています」
日本独自の技やクリエイティビティは国境を越え、人々を魅了しています。今回のPVパリは、あらためてその価値の重さを実感させるものでした。
Photographs:濱 千恵子 Chieko Hama
Text:B.P.B. Paris