9月4日、若手ファッションデザイナーを支援するLVMHプライズ(LVMH Prize for Young Fashion Designers)が、今年の受賞者を発表した。グランプリに輝いたのは、アントワープを拠点に活動する27歳のベルギー人、ジュリ・ケーゲル(Julie Kegels)。
アントワープ王立芸術アカデミー出身のケーゲルは、2024年にブランド「ジュリ ケーゲル(JULIE KEGELS)」を設立し、2024-’25年秋冬パリ・ファッションウィークでデビュー。早くも翌シーズンから公式カレンダーに迎えられ、“着る人それぞれの個性に響く服”というビジョンのもと、ユニークなアイデアが光る現代女性のワードローブを提案している。

ジュリ・ケーゲル(左)とプレゼンター役のジェニファー・ローレンス(Jennifer Lawrence)。
アワードセレモニーで自身の名前が呼ばれた瞬間、驚きの表情とともに涙を浮かべたケーゲル。控え室で行われた受賞後インタビューでも、「まだ信じられません」と声を詰まらせた。


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順調にブランドを育て、グランプリという栄冠を手にしたケーゲルだが、決して浮き足立つことはない。急速な成長のなかで見えてきた自身のビジネスの課題を、冷静に見つめている。
「立ち上げてからまだ2年半の若いブランドなので、まずはすべてに集中してエネルギーを注ぎ、安定させる必要があります。今やっていることを続けて、一歩ずつ進んでいきたい。チームも若く、エネルギーも野心もありますが、この半年間は仕事を抱え過ぎてしまうことがありました。一日の時間が足りないと感じることもあり、人員が十分ではないと実感しています。まだ欠けている部分があるので、体制を整えて、チームを大きくしていきたい。でも、あくまでもゆっくりと」

「あらゆるものが飽和する時代ですが、自分らしくいれば唯一無二になれます。世界には80億人の人間がいて、誰もがユニーク。私もその一人です。私は自分をユニークにしているものを衣服に変換し、それを人々と共有しています。自分に正直でいることが大切だと思います」

そんなケーゲルのクリエーションの源にあるのは、身近な人々との日常だ。
「周りにはインスピレーションを与えてくれる女性たちがたくさんいます。女性だけでなく、友人たちも。友人との何気ない会話が、一番の刺激です。自分たちが何を感じ、人生で何が起きているのかを話すこと。そうした本質的なことが、コレクションを作る原動力になっています」

「自分のブランドを身につけるのが大好きです。他の女性たちのためだけでなく、私自身のためにもデザインしていますから。その一番の支持者であり、アンバサダーでありたいと思っています。自分自身をワクワクさせてくれるものを作っているんです」

ファイナリストやメディア関係者が集まるセレモニー会場。
カール・ラガーフェルド賞は、中国人デザイナーのゼイン・リー(Zane Li)が受賞。ニューヨーク在住のリーは、2023年にファッション工科大学(FIT)を卒業後、ほどなくしてブランド「リー(LII)」を設立。’24年秋冬シーズンにファーストコレクションを発表し、現在はニューヨーク・ファッションウィークに公式参加している。

カール・ラガーフェルド賞を受賞したゼイン・リー。
多文化的なバックグラウンドを持つリーは、規律ある美意識と現代的な感性を融合させるデザイナー。鮮やかな色の組み合わせや、スポーツの要素を取り入れたミニマルなシルエットが、メンズ&ウィメンズのコレクションにフレッシュな印象をもたらしている。
「人によってはシンプル過ぎるとか、味気ないと思うかもしれませんが、審査員たちがデザインの背景にあるリファレンスや、僕が描こうとしている未来を感じ取ってくれたことに感謝しています」

インタビューでは、気負いのない、現代の若者らしいキャラクターをのぞかせる。
「1月に応募したので、今日までほぼ1年がかりでした。僕は今25歳なので、人生の25分の1をこの挑戦に費やしたことになります。とても長く感じました。パリに来て、教科書で見てきたようなファッション界のアイドルたち(審査員たち)に会い、彼らと直接話ができたことは最高の思い出です。本当にシュールで、すばらしい経験でした」

受賞者発表の前には、ファイナリストの作品を紹介するプチ・ショーも行われた。
サヴォアフェール賞は「ヨシタ 1967(YOSHITA 1967)」を率いるアニル・パディア(Anil Padia)が獲得。ケニアとインドにルーツを持ち、ナイロビとパリを行き来するパディアは、同プライズ初のケニア人ファイナリストでもある。
生産拠点をナイロビに構え、手工芸の技術と知識の継承を理念に掲げるパディアは、ケニアの女性が主体となるクラフトコミュニティと長期的に協働し、ものづくりを通して共に成長することを目指している。

サヴォアフェール賞を受賞したアニル・パディア。
「この賞は、チームにとって特別な意味があります。サヴォアフェールは高度なクラフトのことであり、私たちがアフリカで目指しているのも、まさにそこです。今回の受賞は大きな自信になりました」
コレクションでは自身のアイデンティティを探究し、手仕事を異なる地域や文化をつなぐための言語としている。代表的なピースは、かぎ針編みとハンドニットを用いたエレガントなドレス。
「ミラーワークやベルの装飾はインドからの発想です。フランスから着想を得たコルセットの技法も取り入れていますが、すべてケニア製。これは出会いであり、対話なのです」

LVMHプライズは高額な賞金でも知られるが、その使い道は?
「基盤となる設備や仕組みを整えていきたいです。手編み機の導入も必要ですが、ただ機械があればいいわけではありません。人材も、技術者も、開発も必要です。ケニアには今のところファッション産業を支える土壌がなく、インフラそのものが存在しません。自分たちで一から築いていく必要があるのです」

審査員と受賞者たち。後列には、著名メゾンのクリエイティブディレクターたちが勢ぞろい。
グランプリの賞金は40万ユーロ(約7,266万円)、カール・ラガーフェルド賞とサヴォアフェール賞は各20万ユーロ(約3,633万円)。さらに受賞者全員に、LVMHチームによる1年間のメンターシップが授与される。

会場となったのは、ブローニュの森にある「フォンダシオン ルイ・ヴィトン」。
LVMH プライズ オフィシャルサイト
Photographs & Text:B.P.B. Paris
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