
授賞式にて。グランブリを受賞したマキシミリアン・レイノー(左)と、ITS創設者のバルバラ・フランキン。
「イッツ(ITS=INTERNATIONAL TALENT SUPPORT)」は、若手ファッションデザイナーの登竜門として知られる国際コンテスト。2002年に北イタリアのトリエステで発足し、デムナ(バレンシアガ)、マチュー・ブレイジー(シャネル)、ニコラス・デ・フェリーチェ(クレージュ)など、数々の著名デザイナーを輩出してきた。
2025年度版では、75か国から約900の応募があり、その中から注目すべき次世代のデザイナー(ファイナリスト)10人を選出。その全員に「ITS Creative Excellence Award 10x10x10」が授与された。副賞は、ワークショップなどを盛り込んだ10日間の体験プログラム、助成金10,000ユーロ(約162万円)、現代ファッション美術館「ITS Arcademy – Museum of Art in Fashion」での10か月間の作品展示である。

今年のファイナリストたち。10人のリストはこちら。Photo : Courtesy of ITS / © Giuliano Koren
本編の授賞式は3月20日にトリエステで開催され、各賞が発表。26歳のイギリス人、マキシミリアン・レイノー(Maximilian Raynor)が、みごとグランプリを受賞した。

彼のコレクションは架空の物語をベースに、歴史的要素とアバンギャルドなデザインが融合する。出品作のタイトルは「Manor For Heaven(天国への荘園)」。煉獄(天国と地獄の中間に位置する領域)を舞台に、社会から疎外された“異端者”たちが荒れ果てた館や庭をさまよう姿を描く。

マキシミリアンのポートフォリオより。ダークでミステリアスなコレクションは、ゴシックなスタイルでもある。Photos : Courtesy of Maximilian Raynor
引き裂かれたツイード、歪んだギンガムチェックがデカダントな雰囲気で、門番のユニフォームもイメージソースとなった。素材には売れ残りの在庫品が使われ、ゼロ・ウェイストのカッティング技法で作られている。




マキシミリアンのポートフォリオより。Courtesy of Maximilian Raynor

「ITS Arcademy – Museum of Art in Fashion」の展示より。

ロンドンを拠点に活動するマキシミリアンは、昨年、セントラル・セント・マーチンズの修士課程を修了。数年前からレッドカーペットの衣装などを手がけ、今年2月にはロンドンで単独のショーデビューも果たした。@maximilianraynor
また、イギリス人のパトリック・テイラー(Patrick Taylor)が、スポンサーの提供による3つのアワードを獲得。コレクションは、幼少期に家族と一緒に楽しんだスポーツの記憶からインスピレーションを得ていて、全ルックが自身の得意分野であるニットウェアとなっている。

パトリックのポートフォリオより。Photo : Courtesy of Patrick Taylor / © Phi Vu
特に焦点を当てたのはスキーとセーリングで、人や物の動きも参照。膝を曲げ前屈みになったスキーヤーの姿勢がパンツのシルエットになり、風を受けて膨らんだヨットの帆が服のボリュームに投影されるなど、ユニークな発想に加え、洗練されたデザインを見せていた。

パトリックのポートフォリオより。ノスタルジックなカラーパレットは色褪せた昔の家族写真から引用された。Courtesy of Patrick Taylor


一見デニムのようなパンツもニット。しっかりと厚みがありつつ、柔らかな質感に仕上がっている。ビッグスケールのニットのアクセサリーも個性的。

ニューヨーク在住のパトリックは、昨年、パーソンズ美術大学の修士課程を修了。現在、トム ブラウンでニットデザイナーを務める。ITSのコンテストでは、OTB、モダテカ デアナ(Modateca Deanna)、ピッティ テュートリング & コンサルティング(Pitti Tutoring & Consulting)からプライズが授与された。@patricktaylorldn
同じく3つのスポンサーアワードを受賞したメイシー・グリムショウ(Macy Grimshaw)も期待されるデザイナーだ。
メイシーは、アルツハイマーになった祖母へのオマージュをコレクションに込めた。記憶が薄れていく無形の過程を視覚的に表現したもので、愛する人が少しずつ離れていく心痛む体験を投影したという。各ルックは、祖母の人生が刻まれたアナログなネガフィルム、手紙、衣服などが、着想源になった。


メイシーのポートフォリオより。各ルックの制作には、トレンチコート、水玉のワンピース、水着、ウェディングドレスなど、祖母の思い出のワードローブが参照された。Courtesy of Macy Grimshaw
記憶の儚さは、紙の物理的な脆弱性にも通じることから、“紙の劣化”を異なる技法で取り入れている。アルツハイマーの人々が世界をどのように見ているのか。デザイナーの願いは、身近な人が消えていくのを見守った人々のために、抗うことのできない現実の中から美しいものを創造することである。


メイシーのポートフォリオより。Courtesy of Macy Grimshaw

「ITS Arcademy – Museum of Art in Fashion」の展示より。

ロンドン在住のメイシーは、昨年、セントラル・セント・マーチンズの学士課程を修了。ITSのコンテストでは、OTB、スウォッチ(Swatch)、ソッツァーニ財団(Fondazione Sozzani)からプライズが授与された。@macylilygrimshaw
Photos & Text : B.P.B. Paris
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