カナイフユキとTAIKIが、LGBTQIA+コミュニティのためのドクターマーチンPRIDEコラボで大切にしたことは?

2023.06.14

クリストファー・ストリート・デイやダイク・マーチ、マルティグラ。こうした歴史あるLGBTQIA+コミュニティのパレードでその足元を彩り、クィアカルチャーやアイデンティティの象徴となってきたのが、英国のドクターマーチンのブーツ。同社はさらに、継続的な寄付を通じてLGBTQIA+コミュニティを支援してきた。
そんなドクターマーチンがグローバルに展開するPRIDEコレクションで、今年、世界中から第一弾コラボレーションアーティストに選ばれたのが、イラストレーターのカナイフユキさん。そして、そのイメージビジュアルのディレクションを行ったのが、モデルとしても活動するTAIKIさんが率いるクリエイティブチーム、Office Brillerだ。 当事者の視点をキャンペーン全体に貫いた今回のドクターマーチンのPRIDEコレクションにおいて、二人が大切にしていたこととはーー?カナイフユキさんと、TAIKIさんの対話から、PRIDEへの深い視点を得て。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)

/ interview & text : SO-EN

PRIDEキャンペーンのコラボシューズなのですが、あの象徴的なレインボーカラーはどこにも使われていない。TAIKI

――まずは、ドクターマーチンからコラボレーションのオファーを受けた時の率直な感想を教えてください。

カナイフユキ(以下、カナイ):一昨年の年末頃にオファーをいただいた時は、びっくりしました。まさか、ドクターマーチンのような世界的なブランドからお仕事をいただけるとは思いもしていなかったんです。
あとは単純に嬉しかったですね。ドクターマーチンがLGBTQIA+の権利向上のための活動を行なっていることはもちろん、そのブーツはデモなどの社会運動の場で履かれていることを知っていたので、そういったブランドから選んでもらえたことに喜びがありました。やり遂げられるか少し不安な気持ちもありましたが、挑戦してみようと思いました。

TAIKI:僕も最初は不安でした。もともとは、OfficeBriller所属のフォトグラファー、堀川開生から「チャレンジしてみない?」と言われた話だったんです。当時は事務所を設立して間もなく、経験が豊富なわけではないのに、ワールドキャンペーンの広告のお仕事を受けるのはまだ早いのでは?という気持ちも、正直に言えばありました。でもせっかくなら、と社内でアイディアを出し合って、カナイさんの作品や過去のインタビューをリサーチしたんです。そこでカナイさんの持ち味をそのまま生かすプランをご提案したところ、光栄にも選んでいただきました。

カナイ:ビジュアルのプランを拝見した時、TAIKIさんが僕の作品やインタビューを色々と見た上で考えてくださったのかな?と思っていたので、今、お話を聞いて納得しました。

TAIKI:それならよかったです。僕はカナイさんの作品の、少しハードでメッセージ性の高いテイストも、カジュアルでポップな作風もどちらも好きなんです。前者のほうの作品は、もしかするとストレートの方から見れば過激な部分があるかもしれないのですが、ゲイ当事者から見れば自然。一方で、そこには当事者以外が楽しめる幅の広さと豊かさもあります。いろんな人が「私はこれが好き」とチョイスできるような、様々なカラーを表現されているアーティストだと思ったんです。
そういった意味でも、今回の靴でとても素敵だなと思ったのは、色です。PRIDEキャンペーンのコラボシューズなのですが、あの象徴的なレインボーカラーはどこにも使われていないんですよね。モノクロの中に情熱を感じさせる赤色が入っていることに、深いメッセージ性を感じました。

カナイフユキ1460 PRIDE 8ホールブーツ ¥31,900

カナイ:嬉しいです。ファッションアイテムで普段から履いてもらえるものを作りたいという気持ちが強かったので、なるべくシンプルなものにするか、あるいは、ワンポイントでコーディネートの主役になるものにするかのどちらかだなと思っていました。そこで色々ご提案した中、シンプルなあのデザインを選んでいただいたんです。
レインボーカラーを使うことは、最初から考えていなかったかもしれません。そこに特別な反抗精神などがあったわけではなく、自分の作風の中で使いこなす自信がなかったんです……。結果的に、色んな人に似合う間口の広いデザインが出来上がったのでよかったな、と思っています。様々な属性や背景を持った人がいる絵を描く、というアイディアは下絵の段階からありました。

カナイさんがメモに描いていた下絵。

TAIKI:このシューズの中に描かれている人には、それぞれの表情がありますよね。例えば「東京レインボープライド」などのゲイシーンに対して、「キラキラ」のようなイメージを持たれる方は多いように思うのですが、カナイさんの絵はそうではないんです。ありのままでいる人たちが描かれているので、それをキャンペーンビジュアルでも伝えたいと感じました。

カナイ:僕は物心ついた頃から、社会運動にキラキラしたイメージが先行していくことへの違和感がありました。それでアーティストとして活動を始めてからは、そういうところへの違和感を時にはっきりと、時にほのめかしながら作品の中にメッセージとして落とし込んでいたんです。
今回、TAIKIさんがディレクションされたビジュアル撮影の際も、「なるべく自然な形で出演してください」と指定をいただきましたよね。なので、ポートレートでは、実際に僕が絵を描くときに着ている服や、友達と遊ぶ時に着ている服からスタイリングしています。決して着飾らず、一貫して「ありのまま」だったんですよね。
やっぱり、綺麗なだけが人間の真実ではないじゃないですか。何もしていなかったり、あるいはドロドロしている部分も普通にあって、そこをキャンペーンでも表現していただけたのは嬉しかったです。ただ、完成したビジュアルを見ると「これを着て寝たりすることもあるんだけどなあ」とかは思っちゃうのですが(笑)。それで良かったということですよね。

キャンペーンビジュアルより。カナイさんが普段絵を描いているときの雰囲気を大事にして、小道具にもリアルさを追求。ロケ撮影では、カナイさんの作品の取り扱いも行なっている東京・学芸大学の書店「SUNNY BOY BOOKS」で行われ、自然体の表情を引き出している。

NEXT :インクルーシブな世界のために、二人が考える「今、必要なこと」。

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