2月1日、「マルニ」のクリエイティブ・ディレクター、フランチェスコ・リッソが、自ら第二のホームタウンと語る東京で2023年秋服コレクションを開催。そしてこのショーの1週間前には、文化服装学院の学生に向けて特別講義が行われました。ここではその講義の内容と、国立代々木競技場 第二体育館でのショーの様子をお届けします。
photographs:Norifumi Fukuda(B.P.B.)
リラックスしたムードでスタートした
文化服装学院での特別講義
今、やっと世の中が普通に戻ろうと動きつつある中で、私が最近よく考えることがあります。それは、クリエイティビティを自分の中で上手く調整し、それをどう力に変えていけばいいのだろうか?ということです。
日常には、困難を乗り越えなければならいないことがたくさんあります。私はさまざまなジャンルの本を読む習慣があるのですが、そこから得たことは、人間は多大な内に秘めた力をもっているということ。そしてそれを自覚しつつそのパワーをいい方向にもっていかなければならないということです。このような状況下で学生の皆さんがどのようにクリエイティビティを創造していくのか、知りたいと思っています。
大切なのは、好奇心を持つこと、
そして視野を広げてファッションを俯瞰で見ること
学生時代にお世話になった教授や、その時代の尊敬するクリエーターから学んだことは、ファッションということだけに縛られることなく、ファッション以外のさまざまなことにも興味を持つことが大切だということでした。
なんでもそうなのですが、一つのことに没頭すると、そこだけをフォーカスすることになってしまい視野が狭まります。あらゆるものを観察し、そこに存在するさまざまな要素を深く理解することが大事になってくるのです。
私はいろんなものを見て、それを分析し、なぜ自分はそこに惹かれたのか。それを再確認しつつそれに基づいてクリエーションをしているのです。
そして、服を作る上で最も忘れてはならないのがインスピレーション。
クリエイティブな世界で仕事をする時、すべてにおいてインスピレーションに使命感を感じます。
どんなにシンプルなものでも、そこからは必ず何か美しいものを感じ取ることが出来るのです。まずは好奇心を持つこと。ものに向き合って、きちんと意識しないとその感情は生まれません。
先ほども伝えたように、好奇心をもって一つのことを追及することは大事なことです。
それはマルニのチームでも常に話していること。内に秘められているインスピレーションから何かを創り上げていく上で大切な取り組みなのです。それぞれ違った才能の持ち主で集まった今のチーム。私は、それぞれの才能を最大限に表現できる場を提供できるようにしています。
チームで一つのものを作り上げる大切さ
どういうコレクションであっても、どういうプロジェクトであっても、それらを制作するにあたってどのように表現するかということを徹底して企画します。さらに表現を具現化するために、インスピレーションのもととしてアイディアを探求します。今、マルニのチームではこのようなことがムーブメントになっています。
チームにはデザイナー、パターンナー、MD、ショップスタッフなどがいます。みんなが集まることで、個人の持つ才能以上のものが生まれてきます。私は6年マルニに携わっていますが、常に一人一人の考え方を大事にしたいと思っています。
このチームならではのパッションを感じるし、それを感じたいからこの仕事を続けているのだと思います。
この仕事をしているのは、単に9分間のファッションショーを成功させるためだけではありません。チームのみんなと一緒に仕事に集中し、お互いのアイディアを出す充実した時間を楽しむため。いちばん大事な瞬間で、貴重な時間。唯一限界を感じるのは、目標を達成するための時間が限られていること。けれどその時間は私にとって最も充実した時間だと思っています。
何シーズンか前に、10日間ほどチームと一緒に、広い部屋のペインティングを無心にやり続けたことがあります。ペインターとしての経験がないスタッフばかりでした。ファッションとは関係ないことなのですが、同じ時間を共有し、おなじ方向性に向かっての作業。それがあって一つのコレクションを作るための連帯感、共通の理解を持つことが出来ました。
またある時は“ロマンティシズム”ということについて1週間語ったこともありました。それは最終的にそのシーズンのテーマに盛り込みましたが。
コレクションを作るということは単純な作業ではなくて、着た時の快適さで人々を喜ばせなくてはならないのです。その可能性は無限にあります。
自分たちの作った服をどういう人が着て、どう感じているのでしょう?それはいつも知りたいと思っていることです。私たちの提案する服が、心地いい空間でコミュニケーションをとるための一つのツールとなることを、いつも心から願っているのです。
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