今気になる音楽のあの人に、音楽のことを聞かせてください!と、
アーティストの方々にたっぷりと音楽の話を聞く
“CHAT ABOUT MUSIC”。
第一回目のゲストはさとうもかさんをお招きしました。
古き良きジャズボーカルやミュージカルからローファイなインディポップまで幅広い音楽からの影響を投影したヴァリエーション豊かな楽曲と甘やかな歌声が幅広い層から支持を集めてきた岡山出身のシンガーソングライター。
2018年以降、インディーズで3枚のアルバムを発表してきた彼女が、メジャーファーストアルバム『WOOLLY』を完成。成長著しいサウンド面に加え、鋭くユニークな歌詞世界について話を訊いた。
photographs: Josui(B.P.B.) / text: Yu Onoda
──さとうさんの作品は、ポップスでありながら、tofubeatsさんやKID FRESINOさん、唾奇さんといったヒップホップ界隈のアーティストから支持されていたり、実際にMAISONdesに参加するなどポップスとしても活躍の幅を広げながら、NF Zesshoといったラッパーともコラボレーションをされていますよね。
私はヒップホップ界隈の方たちと交流があったり、ヒップホップシーンで活動してきたわけではなかったんですけど、2018年にファーストアルバム『Lukewarm』を出した時にラッパーの方たちから思わぬ反応があって、ありがたいなと思いつつ、不思議な気持ちでしたね。でも、それをきっかけに私もヒップホップを聴いたり、そういう方たちと知り合うきっかけにもなりましたし、私自身、やったことがないジャンルに挑戦するのが楽しいので、色んな方とコラボレーションをやらせてもらったりしています。
──かたや、ご自身がやっていらっしゃるポップスのベースには、古き良き1950年代、60年代のジャズ・ボーカルの影響がありますよね。
私は子供の頃から不協和音に惹かれているところがあって、テレビのCMで流れるそういう音楽に反応していたら、小6、中1くらいの頃、親が『ジャズ・ベスト100』みたいなCDを買ってくれて。それ以来、私が普段聴いているようなポップスと同じような感じで、昔のジャズボーカルを聴くようになりました。最近のジャズは難しすぎて、分からないなと思ったりするんですけど(笑)、昔のジャズはメロディがいいなって。
──不協和音に反応されていたということは、和音や音程が調和したクラシック音楽を習っていらっしゃったんですか?
そうですね。私の家は、お父さんが洋楽のハードロック、お母さんがブラックミュージック的な音楽が好きで、平井堅さんのファンクラブに入っていたりするんですけど(笑)、私も子供の頃から音楽が大好きで、3歳の頃からピアノ、中学の部活でサックス、中3からギターを弾き始めて。高校の音楽学科から音大に進学して、録音を学ぶ学科を専攻していたんですけど、そこで学ぶうちに、自分にとっての“いい音”がよく分からなくなったというか、いい音で録っているはずなのに、私にとって、それがいい音だと思えなかったんです。そんな時に(ニルヴァーナのカート・コバーンに影響を与え、その半生がドキュメンタリー映画『悪魔とダニエル・ジョンストン』にもなったシンガーソングライター)ダニエル・ジョンストンのCDを聴いたんです。それ以前はクラシカルな曲を聴くことが多かったんですけど、ロック好きの友達も多かった大学でニルヴァーナとかウィーザーにハマって、その流れで聴いたダニエル・ジョンストンはめっちゃ音が悪いのに、めっちゃ音がいいなって。そう思ったら、私が好きな昔のジャズも音が悪いけど、そこが好きだったような気がしたし、ちょうど同じ頃、携帯のアプリで音を重ねて録音することにハマって、その音質が悪いところも味があって、めっちゃいいなって。だから、独特な風合いを残すために、演奏の失敗も敢えてそのままにした曲をSoundCloudにアップするようになって、ファーストアルバム『Lukewarm』ではその独特な風合いを出したかったんです。
──2018年の『Lukewarm』と2019年のセカンドアルバム『Merry go round』は、昔のジャズボーカルやミュージカルとローファイなインディーロック、打ち込みを交えた現代のポップスが独特な風合いで一体となった作品であったのに対して、昨年リリースのサードアルバム『GLINTS』、そして、今回のアルバム『WOOLLY』と、作品を重ねるごとに表現世界が開かれていますよね。
同じような作品を作りたくないという思いは常にあるんですけど、それに加えて、バンドでライブをするなかで、自分にとっての“いい音”やリズムが合うことで生まれるグルーヴの心地良さががちょっとずつ分かるようになっていったことが自分にとっては大きくて。サードアルバム『GLINTS』は自分にとっての集大成というか、今回のアルバムもメジャーデビューといいつつ、変わったことと言えば、関わってくださる周りの人だけなんですけど、前作を作り終えたことで燃え尽きて、自分のなかでは振り出しに戻った感覚があって。このアルバムを作り始めた当初、『私はダメだ』という気分だったんですけど、自分が出来ることを一からちょっとずつやってみたり、思っていることを素直に書いてみたり、まずは自分と向き合おう、と。私自身、かなりの人見知りなんですけど、岡山時代から一緒にやってくれてるバンドだったり、今私の周りにいる人たちのことを信じてやっていこうと、そう考えて試行錯誤するうちに気持ちが持ち直していって、今は早く次の作品を作りたいと思うまでになりました(笑)。
──作品の方向性として、ジャジーな楽曲からメロウなビートもの、ラッパーのMomさんをフィーチャーした「いとこだったら」、サーフロック「Weekend」まで、楽曲のバリエーションは前作以上ですね。
そうですね。私は同じタイプの曲が続くと、退屈に感じてしまうところがあるので、今回も一回聴いただけで13曲それぞれの存在感が伝わってくるアルバムにしたかったんです。
──そして、サウンドの甘くふわっとしたテイストに対して、多くの歌詞では関係性が危うい男女を描いていて、恋愛感情の甘さや切なさだけでなく、時に女性らしい現実的な考え方や辛辣さまで踏み込んで表現されています。
敢えて、ゆるめの表現で踏みとどめることも出来ると思うんですけど、私がそういう嘘っぽいことを描いても綺麗事のように感じるんだろうなって。だから、もう一歩先の本当に思っていることを自分のなかに探すようにしています。その本当に思っていることを認めてしまったら、現実になってしまうかもしれないし、日常生活を円滑に過ごすうえで、現段階でそこまで考えなくてもいいんじゃないかって思ったりもするんですけど、実は私だけじゃなく、同じように考える人がいるかもしれないし、誰かにこの気持ちを分かってもらえたらいいなって。今回は恋愛ソングもありますけど、メジャーデビューで関わる人が変わったり、岡山から上京したり、環境が変化するなかで色んなことがあって、もしかすると自分は人でなしなのかもしれない……いや、でも、私は悪くないしとか、そういう悶々とした気持ちが曲に出来てよかったですね。
──もしかすると、そういうさとうさんなりのリアリティの追求が、同じようにリアリティに重きを置くラッパーの方々に響くのかもしれないですね。
ああ、なるほど(笑)。
──ただ、さとうさんの場合は、「Sugar Science 先生」だったり、「いちごちゃん」だったり、どこかユーモアがあったり、可愛らしかったりして、軽やかさがありますよね。
そういう軽やかさは少し意識しているかもしれません。自分のなかで何故か、どこかしらでひと笑い起こさせないといけないという使命感があるんです(笑)。あと、私はただ“かわいい”曲ではなく、“かわいいみたいな”曲を作りたいと思っていて。どういうことかというと、人間は誰しも何かに対して“かわいい”という感情を抱くと思うんですけど、その“かわいい”という感情が意味するものは人それぞれなんですよね。私にとって“かわいい”には寂しさも含まれていて、自分しか知らない、そういう内緒事のような感情を曲に出来たらなって思います。
──つまり、女性が頻繁に使う“かわいい”という言葉に含まれている多面性や独特なニュアンスを表現したいと?
そうです。例えば、ただ、かわいいだけではなく、ちょっとグロテスクなものであるとか、残酷さや苦さであるとか。
──その話に繋がるかどうかは分かりませんが、かつてお笑い芸人を目指していた時があったとか?
(笑)はい。小3から小6くらいまで、お笑い芸人になろうと思っていました。それには裏の魂胆があって、お笑いの『物真似紅白歌合戦』で歌を披露して、私の歌声を知ってもらおうと何故か考えていたんですけど、中学に入って、その考え方は変だなって(笑)。でも、友近さんのように、面白くて、歌が上手くて格好いい方もいらしゃるじゃないですか。
──なるほど。さとうさんはコミックミュージックをやっているわけではないにせよ、聴いているとクスッっと笑えるところがあるというか、そういうユーモアのセンスを垣間見せる瞬間がそこここにあるように思います。
お笑いに詳しいかというとそんなことはないんですけど、毎日爆笑するのが目標みたいなところがあるかもしれないです。私は大学を卒業した後、アルバイトだけしている時期があって、ふと気づいたら、自分は全く笑ってなかったんですよね。『なんで、毎日こんな面白くないんだろう』って思って、それ以来、毎日笑ってすごしたいし、一緒に笑える人と過ごしたいなって考えるようになりましたね。
──音楽家として、この先どんな活動をしていきたいですか?
うーん、目標は毎年一枚アルバムを出せる人になりたいと思っていますね。とにかく止めないように、というか、続けて活動していきたいですね。どんな音楽家になりたいかと言われると難しいというか、それじゃ、ダメな気もしつつ、今はそんな感じでいいかって思っていますね。
さとうもか
『WOOLY』 ¥3,300
UNIVERSAL MUSIC LLC / EMI Records、ラッパーのMom、アレンジャーのESME MORI、Soulflexの森善太郎、森川祐樹を迎えたメジャーファーストアルバム。ユニークなタッチで歌い綴られる歌詞の鋭さや切なさと楽曲の甘い響きが共存する彼女の音楽世界は、人生の転機を迎えるなかで生じた心の迷いや悩みと向き合うことで進化を遂げている。
配信リンク:https://lnk.to/CArrow
さとうもか
岡山出身のアーティスト、さとうもか。繊細だけど大胆、ユーモラスだけど甘くない、ガーリーでシュールで、少しストレンジ、かも。初めてのピアノ発表会で弾いた「ガラスの靴」のシ・ド・ミの和音で音楽が好きになる。2018年から本格的に活動をスタートし、これまでに3枚のアルバムをリリース。川谷絵音、蔦谷好位置、齋藤ネコなどの音楽人を始め、業界各所から超目される。2021年5月にメジャーデビュー。アート心をくすぐる良質なポップネスを持つその才能は、様々なクリエイターやアーティストから支持を得ている。自身の作品以外にも、楽曲提供、客演、Podcastなど多岐に活躍中。
WEB: https://www.satomoka.com/
Twitter: @rrw6sv
Instagram: @_satomoka_
You tube: https://www.youtube.com/channel/UCWmkw9mnpGO6TWuDSLctSfA