
山野に根づく個性的で素朴な草花をそっと摘み、自然の趣を切り取るように花入れに生ける「茶花(ちゃばな)」の世界。茶室や料亭などの床の間を、慎ましやかに飾る文化として古くから親しまれてきた一方で、どこか特別で、敷居が高いと感じる人も少なくないのでは?
東京・銀座で茶花や山野草を専門に扱う老舗花店で12年の経験を積み、独立した店主の宇戸充代さん。長いキャリアの中で真摯に向き合ってきた茶花の美学をベースにしながらも、そのカテゴリーから一歩踏み出した、日本の植生の豊かさや、自然の素晴らしさを身近に感じることができる花店、「野道(のみち)」をオープンさせた。
三軒茶屋駅と下高井戸駅を結ぶレトロな路面電車、東急世田谷線に揺られながら松陰神社前駅を降りて徒歩1分。都会の中にぽつんと現れた静かな空間で、四季折々の植物たちが迎えてくれる。



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店頭には、日本各地の農家さんから直送される野趣あふれる野の花や枝物、山野草の苗、ミニ盆栽などが美しく並ぶ。まずは普段あまり見かけることのない、珍しい草花をじっくりと眺めてみて。そして、お気に入りを見つけたら、部屋に飾るシックな一輪を手に家路に着くのもいいし、花束やアレンジメントをオーダーして、大切な人に気持ちを伝えるのもいいだろう。
さらに「野道」では、廃棄される花材をできるだけ土に還すための仕組みづくりや、アレンジメント容器のリサイクル、ヴィンテージ花器の販売、フィルムの代わりに藁半紙を使用した包装など、店主ができるところから少しずつ実践しているサステイナブルな工夫がいくつかある。それらは、過剰な装飾を排し植物そのものの姿を引き立たせる、「野道」ならではの表現スタイルにもつながっているようだ。

もうひとつ「野道」がユニークなのは、花店の奥の小さな展示スペース「hoc(エイチオーシー)ギャラリー」を併設している点だ。 ギャラリーの管理人でフォトグラファーの宇戸浩二さんの写真展をはじめ、民芸の道具と写真や書など、異なるジャンルを掛け合わせたコラボレーション展示も見どころ。 秘密基地のようなワクワク感が詰まったギャラリーは、レンタルスペースとしても注目を集めている。

hocギャラリーでは、5月30日(金)〜6月17日(火)まで、静物写真の分野でその名を知られる写真家・ナカガワジュウナイさんによる展示「OASIS」を開催。また、店主が銀座時代に培った経験を活かした「野の花に触れるワークショップ」も6月21日(土)に催される。気になった方は、ぜひInstagramをチェックしてみて。
今の時代にこそ新鮮に感じられる、日本の伝統的な花のカルチャーを自らの内に取り込んで、想像力の幅を大きく広げてみよう。
photographs : KOJI UDO
flower arrangement:Michiyo Udo
text:Midori Yoshino
野道/hocギャラリー
住所:東京都世田谷区世田谷4-13-18 光荘1F
時間:10時〜18時 水・木曜休
WEB:https://nomichi-flower.net/
Instagram:@nomichi_flower、@hoc.glry