――ノーワン・スペシャルの再浮上を狙った打ち合わせのシーンで、彼の投げ出された足元がグッチ(GUCCI)のレザースリッパであることがわかります。彼が急激にリッチになったことを示す秀逸な衣装表現でした。
ノーワン・スペシャルは人気が出ていくのにしたがってゴージャスな衣装になっていくのですが、それをあからさまに見せたくはないと考えていました。いまお話しいただいたスリッパであったり、少しずつ彼のエゴが出てきたことを見せていくようにはしましたね。
「ジキルとハイド」のように思いっきり見た目に変化をつけるのではなく、さりげなく、かつ次第に変化が現れていくように設計しました。
写真上がフランキーと出会ったばかりの頃のリンク(アンドリュー・ガーフィールド)で、下が、彼がノーワン・スペシャルとして名声を得た後。普段着と人前に出る時の服装の違いはありながら、服を選ぶ際の根本のセンスが明らかに変化していることがわかる。衣装によって、彼の内面に生じる変化をも伝えている。
映画『メインストリーム』より
――本作には、絵文字やInstagramのスタンプ的な演出、或いはストーリーの投稿っぽいカメラワークなどの画的な仕掛けがちりばめられています。最初から仕上がりをイメージして撮影していたのでしょうか。
絵文字に関しては、脚本段階で入れていました。その他の部分は、編集段階で入れたものも多いですね。もともと絵文字が現実の世界に流れ込んでいく描写によって、現実とインターネットの世界の境界線が曖昧になっていく様子を表現できるのではないかと考えていて、そうしたポイントを編集段階で増やしていきました。楽しい作業でしたね。
撮影中のジア・コッポラ監督。写真下左側 アンドリュー・ガーフィールド。
――デヴ・ハインズ(Blood Orange)によるサウンドトラックも、とても印象的でした。『パロアルト・ストーリー』に続くコラボレーションですが、今回はどんなやりとりで音楽が生まれていったのでしょうか?
デヴに関しては、全てお任せしたような形ですね。最初に自分の見解を伝えて、あとは丸投げして彼の解釈を音楽で表現してもらえるのを待っていました。それが楽しみでもありましたね。
コラボレーションによって何かを見い出す、みんなで力を合わせて一緒に作り上げていくのは、映画作りの醍醐味だと思います。監督としては全体の設定を決めて、後はみんなで遊んでもらい、実験の中で一つのものが生まれていく映画作りを理想としています。逆に写真は、ひとりの作業だなと感じます。
Mainstream (Original Motion Picture Soundtrack)by Devonte Hynes
――監督個人の作家性という面では、前作『パロアルト・ストーリー』にも本作にも、「悪い男に惹かれる若い女性」という共通テーマがあるように感じます。ご自身が惹かれる題材のひとつなのでしょうか。
ラブストーリーが大好きなのですが、大きいのは「関係性」ですね。実現しない恋を越えようとする、そこに惹かれます。あとは“悪い男”ではないですが(笑)、ちょっと変わったキャラクターって演技を見ていても楽しいし、そういった意味でも取り入れていますね。
こういった物語は、誰でも共感できると思うんです。仕事でも人間関係でもそうですが、なかなか思うようにはいかず、傷心してしまうことって多いですよね。けれども、そういった経験を通して人は成長していく。やっぱり、みんなが人生のどこかで体験してきたことを自分の映画にも盛り込んでいきたいなと考えています。
――ちなみに、ジア監督がお好きなラブストーリーはどんな作品でしょう?
『ブロードキャスト・ニュース』(’87年、ジェームズ・L・ブルックス監督)、『トワイライト』シリーズ(2008~’12年、キャサリン・ハードウィック監督、クリス・ワイツ監督、デヴィッド・スレイド監督、ビル・コンドン監督)、『草原の輝き』(’61年、エリア・カザン監督)、『追憶』(’73年、シドニー・ポラック監督)などです。挙げたらキリがないですね(笑)。
『ブロードキャスト・ニュース』予告編
『草原の輝き』予告編
『追憶』予告編
映画『メインストリーム』より
――『メインストリーム』には、数字を追い求めた結果、道を踏み外していくさまが描かれています。これは同時に、現代人が陥りやすい落とし穴といえるかもしれません。作り手としていまの時代を生きていくにはどうしたらいいのか、若い世代へのメッセージをぜひ、お願いします。
若い人たちにいますぐ理解していただくのはちょっと難しいかもしれませんが、結果重視よりもその道のりが大切だと思います。ただそれは年齢と共にわかっていくものでもありますから、おいおい伝わればよいなと思います。
ただ私が思うのは、いまの時代の若い人たちは、おっしゃっていただいたようなマイナスの要素がある反面、すごく希望もあるということ。私たちの世代・時代ではなかった「社会問題や環境問題に目を向けて、自ら運動や行動を起こす。意見を発信する」人々が増えてきていますよね。私はそういったところに、未来への希望を感じます。
よく「スマホやSNSに没頭している」というイメージを持たれがちですが、それは彼らなりの“楽しみ”であり、一方で行動を起こしている若い世代もたくさんいる。ですので、ぜひ自信を持っていただきたいなと思います。
シェイクスピアの言葉ですが、「輝くものすべて金にあらず(見かけが立派なものが、必ずしも中身もそうだとは限らない)」というものがあります。華やかなものに憧れて、或いは数字にとらわれてSNSばかり追いかけている人は、それをちょっと念頭に置いて一度立ち止まって考えてみるのも良いかと思います。
Courtesy of Tori Time
Gia Coppola ジア・コッポラ 1987年生まれ、カリフォルニア州ロサンゼルス出身。フランシス・ F・コッポラの孫にして、ソフィア・コッポラの姪。写真家としても活動する傍ら、水原希子を起用したユナイテッドアローズのCMディレクターや様々な MV の監督としても活躍。そのキャリアからファッション業界からも信頼を置かれ、2016 年には グッチ(GUCCI)プレフォールコレクションと関連した短編フィルムも発表。前作『パロアルト・ストーリー』(‘13年)に続き、長編映画作品 2 作目にあたる本作でも脚本と監督を務めた。
Instagram @mastergia