SHINYAKOZUKA(シンヤコヅカ)変わらない大切なものを抱えて進む。美学の深化を見せた20年目への第一歩 
Rakuten Fashion Week Tokyo 2025 S/S レポート

小塚信哉によるブランド、SHINYAKOZUKA(シンヤコヅカ)は、毎回、コレクションのメッセージを数10分間のショーで雄弁に語る。いつ、どの場所で、どのようなライトや音楽で。これら全てが物語性を持って立ち上がり、ショーを見た後は、一冊の本を読み終えたような心地に満たされる。だからこそ半期ごとのコレクションは、シーズンではなく「ISSUE」と銘打たれ、今期は、ブランド設立10年を迎えた「ISSUE#6」。前々回(ISSUE#4)は「月が綺麗ですね」のタイトルで野外会場の夜空に見事な月が輝き、プールを舞台に水にまつわるコレクションを展開した前回(ISSUE#5)は、野外会場に降りしきる雨によって、観客はまるで入水したような環境でショーを見ることに。天候も演出に用いてしまうような小塚による最新コレクション ISSUE#6は、Rakuten Fashion Week Tokyo初日の蒸し暑い夜、「国立競技場」のアスリートスロープ(ランナーのスタートに向かう地下道ヘの入り口)で行われた。

シンヤコヅカのシグネチャーカラーである青色に染まったアスリートスロープの会場のランウェイには、レッドカーペットならぬブルーカーペットが敷かれていた。そして会場の入り口で渡された封筒も、イヴ・クラインのペイントのような深淵な青。筆致を感じるその封筒は、あとから聞けば、小塚が一枚一枚(計600枚も!)手塗りしたものだという。その封筒に入っていたQRコードから読むことができる絵本『いろをわすれたまち』が、今コレクションの主題だ。タイトルは「picturesque(画趣に富む、絵のように美しい) or die」。

小塚が20代前半の頃に著し、今コレクションのために描き直したという絵本『いろをわすれたまち』は、色彩も季節もない街で暮らす男の物語。色彩のない世界に生きていた男は、ある「絵」に出会い、絵から飛び出た不思議な動物に導かれて色彩豊かな世界を旅する。やがて自分自身の世界に色彩を見つけ出す——というストーリーに呼応するように、ファーストルックから続いたのはモノトーンの服。中でも目を引いたのは、建物や植物を配したオリジナル柄のレースのようなワンピースやトップ。Tシャツやジャケットとともにスタイリングされ、妖しくも美しいムードで非現実の世界へ観るものを誘う。

『いろをわすれたまち』の物語の鍵となる絵のキャンバスを手にしたモデル(写真上)が登場すると、一転、コレクションは色を帯びていく。キーカラーであるブルーのスタンドカラージャケットのセットアップや、抽象絵画のような趣の青いラメ地と白色のブルゾンとワイドパンツ、人気のバギースウェットパンツには、画家が白いキャンバスに自在にペイントしたようなプリントが施される。

さらにマルチカラーのツイードで仕立てられたジャケットやオールインワン、温かな色調で描かれたパステル画の建物柄のシャツとパンツのセットアップ、絵本の場面をプリントしたシャツやワンピース……と、色彩は青色の世界から豊かに広がっていく。家モチーフのクロシェニットや、植物に止まった鳥モチーフのビーズ刺繍カーディガンなど、手仕事を感じさせるアイテムの愛らしさも際立っていた。

ハットメイカーのKIJIMA TAKAYUKIや、Dickiesとのコラボレーションは継続し、さらに今シーズンは新たに土屋鞄とコラボレーションを行った。バッグのボディやストラップには繊細な筆致の絵が施され、金具にはインビテーションにも用いられたシーリングが。この封筒のようなデザインのバッグは、人気を博しそうな予感。

ショー後の囲み取材で、小塚は「好きな物事をもう一度精査して、20年目に向かうファーストシーズンの気持ちで作りたかった」と語っていた。その言葉どおり、建物や動植物を描く小塚の絵を用いたプリントや、バギーパンツ、箔プリントやラメのきらめき、美しい色彩や手をかけて作られた素材など、シンヤコヅカを彩るエレメントがあちこちに見られ、その美学にさらに磨きをかけた今コレクション。この詩情あふれる世界の深化と円熟をいつまでも見ていたい。

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