役者暦37年!俳優・仲村トオルが語る
出演舞台のこと、役者人生について

2022.09.09

学生時代に映画『ビー・バップ・ハイスクール』で彗星のごとく映画界に現れた仲村トオルさん。その後も『あぶない刑事』や『チーム・バチスタ』シリーズ、近年では『日本沈没』など、数々の大ヒットドラマや映画に出演してきたのはご存じの通りだ。そして04年からは舞台にもほぼ毎年コンスタントに出演。NODA・MAP『エッグ』やKERA・MAP『グッドバイ』、『遠野物語・奇ッ怪 其の参』などで主演をつとめてきた。役柄も、悩み多き青年、困るほどモテまくる男、酷薄な裏切り者などなど、映像とはまたひと味もふた味も違う幅広い魅力を放ってきた。

そんな仲村さんがこの秋に出演するのが『住所まちがい』。イタリアの劇作家ルイージ・ルナーリ作、白井晃演出の、ちょっと異色の舞台だ。

<社長、警部、教授の三人が偶然同じ場所に居合わせる。社長は女性と密会のために、警部は仕事のために、そして教授は自著の校正のために。最初は互いに自らの認識が正しいと主張しあっていたが、次第に何かがおかしいと気づき始めて・・・。出演は仲村トオル、田中哲司、渡辺いっけい、朝海ひかる>

この中で仲村さんは社長を演じる。お話をうかがったのは6日目の稽古が終わったばかりのタイミング。この作品と役へのアプローチについて、そしてこれまでの役者人生について、時に「うーんそうだなあ」と腕を組みながら、終始気取らない言葉で語ってくれた。

9月からスタートする舞台「住所まちがい」への期待感

――ルイージ・ルナーリのこの戯曲は既に世界26か国で上演されており、日本での上演は今回が初めてです。仲村さんは台本をどのように読みましたか。

仲村トオル まず、設定が面白いんですよね。まるで立場の異なる男3人が、それぞれ違う目的で同時にとある場所にやってくるんです。2度、3度と読んでいくと、特別な意味を持つ場所だということもだんだんわかってきてますます面白くなりました。文化も言葉も常識も超えて、世界のいろいろな国々に通じるものがある物語なんです。

――社長役の仲村さん、教授役の田中哲司さん、警部役の渡辺いっけいさんというお三方の丁々発止のやりとりを想像するだけでワクワクしてきます。今日で稽古6日目とのことですが稽古場の雰囲気はいかがでしたか。

仲村 えーっと、今のところ、まだ静か、かな。

――静かなんですか。ちょっと意外です。

仲村 僕の想像ですが、僕はもちろんのこと、いっけいさんと哲司さんですらやや暗い気持ちになるほど、難易度の高い、重い荷物を背負わされて遠い旅路が始まった、これはやや寡黙にならざるをえない、そんな感じですね(笑)。ただ本読みの段階で「これは面白いものになりそうだな」と感じたことは確かですが。

――白井晃さん演出の舞台に出演されるのは3作品目ですね。

仲村 白井さんの演出は”修行”としてときどき受けなきゃいけないなと思ってるところがあるんです。自分では前回の『オセロ』(13年)からまだそんなに時間は経っていないと思っていましたが、またその時期が来たのかなと。地図のない旅に出なきゃという感じです。

――どのようなところが修行だと思われますか。

仲村 初めて白井さん演出の舞台に出していただいたのは05年の『偶然の音楽』でした。僕にとって本格的な舞台出演は3度目で、チラシに名前が最初に載るのも初めて。しかも原作しかない、台本がない状態で芝居を作っていくことはとてもハードな体験でしたね。白井さんとはそういう特別な出会いだったんです。その3年後に再演となったのですが、さらに再演の怖さ大変さも思い知らされました。初演の時の自分より成長しているかどうか、お客様にも自分にもわかってしまうわけです。上演時間2時間のうち舞台袖に引っ込めるのはほんの一瞬、それ以外は舞台に出ずっぱりでしたし、分厚い衣裳で毎日びっしょり汗をかいていました。そんなこともあって、白井さんの舞台といえば「修行したなあ」という思い出が蘇るのかな。

――台本を読むと、この3人の男性の役名が固有名詞ではないんですよね。社長、警部、教授と職業や立場を表わす役名で登場しているのがユニークです。

仲村 それについては白井さんから説明がありました。ルールを最も大切にするという価値観で生きているのが、いっけいさん演じる警部なんです。決まっていることをルール通り順番変えずやる。右と言われたら全員右、左と言われたら全員左、そういう世界で生きてきた人です。一方、正しいか正しくないか、つじつまが合っているかいないかが第一で、新しい理論や発見があれば右と言われていたことでも左に変わりうる。そんな世界に生きているのが哲司さん演じる教授です。僕が演じる社長は基本的に損得やメリットデメリット、利益があるか、ないかで生きている。その三人が顔を合わせて生じるギャップや、すれ違い、ぶつかり合うのが面白いんです。

――たしかに人って自覚している以上に、その立場や職業に影響を受けた生き方をしているものかもしれないと思いました。

仲村 そうですね。例えば警部はかつて爆発物処理の仕事していたんです。処理の順番を間違えたらえらいことになってしまうという世界に生きている。教授は例えば超常現象のようなことでも、「いやその時そのような精神状態だからそう見えたのだ」と説明する立場にいる。この戯曲の設定に納得させられています。なるほど、これは世界各国で上演されているわけだなと。

――今私たちが生きている世の中と否応なくシンクロしそうな場面もありますね。

仲村 ある一つの空間を、それぞれが「ここは私の空間である」と主張してぶつかるところなんてそうですよね。もう昔っから世界中で争いの種になっているじゃないですか。幕が開いてお客さんのリアクションを感じてまた新たに、「そうか、ここもシンクロするポイントなんだな」という発見もあるだろうと思っています。

舞台の仕事と映像の仕事、それぞれのスタンス

――仲村さんは04年からだいたい年に一度、コンスタントに舞台に立たれています。役者として、やはり舞台に立たなければ見えない景色があるのでしょうか。

仲村 ドラマや映画の仕事だけしていると、視聴率とか観客動員数という数字の向こうにあるはずの多くの人々の顔がなかなか感じられない、見えないんですよ。でも舞台では直接お客さんの顔が見える、拍手の音が聞こえる。タイムラグとフィルターのないリアクション、これは舞台でしか味わえないんです。

――映像とはそこが一番違うと。

仲村 ええ。例えば映画やドラマの撮影中って、逆にカメラをほとんど意識しないんですよ。

――カメラを意識しないというのは・・・。

仲村 今自分がアップで撮られているのか全身を撮られているのか、基本的にはそんなに意識するものではないんです。カメラの向こうの視聴者の存在も意識しません。でも舞台ではお客さんの存在をもうあちこちからフルに感じます。「たった今客席に入ってきたあなた、遅刻しましたね」なんて思いながら演じることもあったり(笑)。

――野田秀樹さん、ケラリーノ・サンドロヴィッチさん、前川知大さんなど様々な作家・演出家の皆さんと仕事をされていますが、強く印象に残っている舞台はどの作品でしょう。

仲村 どれも思い出深いのですが、20年の(「ケムリ研究室no1.」)『ベイジルタウンの女神』(演出/ケラリーノ・サンドロヴィッチ)はちょっと特別でした。コロナ禍ですから、まず無事に劇場に入れるのかなとみんな不安に思いながら稽古していました。そしていよいよ初日を迎えPCR検査が全員陰性だった時はホントに「やった!」と。それでも客席には50%しかお客さんを入れてはいけない時期でしたので、「スカスカの客席でもひるむな!」とお互い励まし合って舞台に出て行ったんです。ところが初日のカーテンコールがもうすごく温かくて。マスクをしていてもお客様の喜んでくださっている表情がわかるんです。おおげさでなく涙が出そうでしたね。ああいう経験ができるのはやはり舞台ならではないかな。

――今後も舞台には立ち続けますか。

仲村 僕の場合、舞台俳優としてはとても遅いスタートだと思っています。映像だけを20年近くやってきたその後に舞台に立ち始めましたから。なので1年、2年と間が空くとせっかくちょっと身に着いたはずの舞台用の筋肉や神経が衰えるんじゃないかという恐れがあって。なのでなるべく間を置かずに舞台に立ちたいなと思います。

役者という仕事を続けてこられた理由

――「装苑」は、クリエイティブな仕事をしていたり、そういう仕事を目指している読者が多いのですが、まさに仲村さんは20歳のときにこの道に入られました。以来37年間、役者というクリエイティブな仕事を続けてこられた要因は何でしょう。

仲村 最初に出演した『ビー・バップ・ハイスクール』の撮影現場が、ほんっとに楽しかったんですね。「ここ、楽しいな、ここに居る人たちのことが好きだなあ」という思いからスタートして、その大好きな人たちが楽しそうに仕事している場所に自分もずっといたいなと。そんなふうに思えたから、この仕事を続けているのかもしれません。

――まずは一緒に仕事をする周りの人々の存在が大事だと。

仲村 そういうところはあるかもしれません。実は先日たまたま妹から相談されたんです。念願だった仕事のお話をもらったと。「仕事の内容はとってもやってみたかったことだけど、でも一緒に仕事する人たちとものすごく相性が悪いということは分かっていて・・・」と言うんです。やりがいのある好きな仕事でも性格的に合わない人たちと長い間ずっとやっていたら、「それ、具合が悪くなるかもしれないね」とアドバイスしました。好きな仕事であることは大事ですが、関わっている人々の存在もむちゃくちゃ重要なことですからね。

――好きなだけではなかなか続かないことはありますね。仲村さんもそれこそ20代の頃は監督に怒られたりどやされたり、なんてこともあったのではないですか。

仲村 ありますあります。厳しいことを言われたり、ムカつくなあと思わされたり、それはもう何度も。でも・・・そうだなあ、これって人生観そのものみたいなことですが、しんどいことも多いけれど喜びの方の大きさにかなわないんですよね。それに、声をかけていただいてみんなで集まって作品を作って、短ければ数日間、長くても数か月でまた分かれていく。この仕事ならではの解放感もまた好きなのかなあ。

――一方で、”自分らしさ”を発揮したいと思うものですよね。特にクリエイティブな現場だと。

仲村 どうなんでしょうね。「自分らしくあろう」なんて、周りの人にとってはそんなにうれしいことじゃないだろうと思うんですよ。それよりは、周りの人が自分に対して「こうであってほしい」と思うことに自分を合わせていく方が、いろいろスムーズにいくものじゃないかな。

――仲村さん自身は、その折り合いをつけることには苦労しなかったのですか。

仲村 僕の場合はあまり「自分らしさ」にこだわった記憶がないんです。なんだかきれいごとというか優等生っぽいですが、いつも共演者がやりやすい演技をしたいなと思っているんです。別に自己犠牲とか奉仕の精神とかじゃないですよ。全体的に、結果的に、その方が僕もやりやすいから。逆にエゴイスティックな考え方かもしれない(笑)。なのでうちの子供たちにも、無理に”自分らしくあろう”とか”個性的であろう”としなくていいからと言っています。個性って自分が周りに押し付けるものじゃなくて、周りの人が感じることだからと。

――おしまいに。37年間、役者という仕事にエネルギーを注いできて、そして今、ますます様々な作品や役柄にチャレンジされている仲村さんにとって、仕事へのモチベーションをキープする、それも高いレベルでキープしていくために必要なものとは何でしょうか。

仲村 そもそもモチベーションをキープしなきゃという意識があまりないんです。でもあえて言えば、そうだなあ、「歓びと不安」の両方ですかね。大好きな人たちと一緒に仕事して作品を作り、それが監督や演出家、そしてお客さんに対して「ああ、伝わったな」と思えたり認められたなというのが「歓び」です。むしろ不安こそが僕の背中を押したり蹴ったりして、前に進むための力になってきたと思いますね。「歓び」だけじゃダメだったと思う。

――「不安」こそ原動力というのは面白いですね。

仲村 このままでいいのか、今のような意識でこの役がつとまるのかなとか、不安は付きものなんです。まがりなりにも37年間役者をやってこれたのは、演じる者ならではの歓びの瞬間と同時に、それを失うかもしれないという恐怖と不安の淵も覗いてきたからじゃないかな。これからもこの二つを力に変換しながら、役者という仕事を続けていきたいですね。

photographs : Norifumi Fukuda(B.P.B.)/hair & make up : Kei Kokufuda/衣装協力:Yohji Yamamoto / interview&text : Akiko Isogawa


りゅーとぴあ×世田谷パブリックシアター

『住所まちがい』
社長(中村トオル)、警部(渡辺いっけい)、教授(田中哲司)の三名が、それぞれの理由でー社長は女性との密会のため、警部はビジネスのため、教授は自身の最新出版書のゲラチェックのためー同じ場所に居合わせる。三人が鉢合わせた場所は、ホテルなのか、事務所なのか、出版社なのか!?最初は互いに自分が正しいと信じていたが、実はそうではないことが分かってくる…‥住所は三人それぞれにとって「正しい」住所だったということに…‥
今年4月に芸術監督に就任した白井晃の初となる世田谷パブリックシアターでの演出作品。

▼開催場所▼
世田谷パブリックシアター
期間:2022年9月26日(月)~10月9日(日)
TEL:03-5432-1515(10:00~19:00)

「穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
期間:2022年10月13日(木)〜10月14日(金)

兵庫県立芸術文化センター 中ホール
期間:2022年10月22日(土)〜10月23日(日)

まつもと市民芸術館 主ホール
日にち:10月29日(土)

りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
期間:2022年11月2日(水)〜11月3日(木)

仲村トオル Toru Nakamura●1965年生まれ。‘85年、映画「ビー・バップ・ハイスクール」で俳優のキャリアをスタートし、数多くの新人賞を受賞。以降「あぶない刑事」シリーズ、「チーム・バチスタ」シリーズなど数々の映像作品や、前川知大演出『奇ッ怪~小泉八雲から聞いた話』(09)、野田秀樹演出、NODA・MAP『エッグ』(12/15) 、ケラリーノ・サンドロヴィッチ演出、『KERA・MAP# 006 「グッドバイ」』(15)、蓬莱竜太演出『広島ジャンゴ 2022』(22)などの演劇作品に出演。近年の主な出演作品にドラマ「トッカイ~不良債権特別回収部~」 (WOWOW)、「八月は夜のバッティングセンターで。」(TX)、「日本沈没-希 望のひと-」(TBS)、「優しい音楽~ティアーズ・イン・ヘヴン 天国のきみへ」(TX)、映画「愛の まなざしを」(21)などがある。

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