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『パリ13区』ジャック・オディアール監督にインタビュー。
パリへの愛と、恋愛を描いたコメディを撮るために。

映画『パリ13区』より。エミリーのシーン。

――『パリ13区』はエイドリアン・トミネの3つの短編「アンバー・スウィート」、「キリング・アンド・ダイング」「バカンスはハワイへ」を一本の映画にしたものですが、原作のテイストとは大きく違う感触を受けました。

ジャック・オディアール:あの3作の短編は私が選んだのですが、確かにおっしゃる通り、原作はそこまでエロティックな要素が強いものではありません。その意味では、私が塗り替えたと言っていいでしょう。

 今回私は、パリへのラブストーリーについて語りたかった。同時に男女の愛についても。そうなると、やはり愛の行為そのものを入れないで、語るわけにはいかないと思っていました。ですので、避けては通れない愛のシーン、つまりは、セックスシーンは全面的に見せなければいけないと思いました。ご覧になればわかりますが、『パリ13区』に出てくる登場人物たちは非常におしゃべりですけど、特に愛の行為の最中にもおしゃべりをしている。そこが観客の方たちには面白く見ていただけるのではないかなというふうに思います。

――監督の作品には、例えば『リード・マイ・リップス』や『君と歩く世界』など、それまで出会ったことのない異質な者同士が巡り合うことのドラマがよく取り上げられます。今作もルーツが全く違う男女が出会う話ですが、エミリーが出会ったばかりのカミーユを誘う場面でも、快楽のための誘惑というより、異質な存在同士が摩擦を起こさないと、人間関係が進まないという、出会いというものの暗喩だと感じましたが、いかがでしょうか?

ジャック・オディアール:この映画の主要な3人のキャラクターはそれぞれ、自分に嘘をついてる状況だと思います。それは自分の社会的な存在感についての嘘となります。高校教師を休職したカミーユは非常にダンディーな男性で、台湾系フランス人のエミリーはプチパンクとでも言いますが、社会への反抗心の塊のようなまあ若い女性です。ノラは自分の性について非常に迷いがあります。

 映画は進行するにつれ、セックスシーンを通して、3人の嘘のベールを剥がすような構造になっています。最終的にカミーユは何が自分にとって大切なのか分かるようになります。エミリーも奔放な生き方をちょっと考え直して、自分がどうしたいか決心する。そしてノラは自分の本当の性の在り方に気づく。3人は変化していくわけですけど、登場人物の中で、ただ一人、社会的にも、性生活においても、自分に嘘をついてない生き方をしているのが元ポルノスターでカムガール(ウェブカメラを使ったセックスワーカー)の“アンバー・スウィート”となります。

映画『パリ13区』より。アンバー・スウィート。

――監督は、エミリーとカミーユとノラの三角関係を描くにあたって、今回、70年代生まれのセリーヌ・シアマと、80年代生まれのレア・ミシウスと組んでいます。ソルボンヌ大学に復学するノラの出身地がレア・ミシウスの出身地であるボルドーの設定になっていたり、ノラが自分の性的指向を明確にしていく過程にはセリーヌ・シアマの辿ってきた過去の反映を感じとったりすることができます。では、監督は自分の要素を何かこの脚本に投影しているとしたら、どのキャラクターのどこに見受けることができるでしょうか?

ジャック・オディアール:この中の誰かとは言えないですね。あえて言うならば全員。アンバーもそうだし、エミリーも、カミーユも、私の一部だと見て取れると思います。ただ、この映画というのは、私としてはコメディとして作っています。現代社会の様々な意味深い要素を、例えばそれは“出会い系アプリ”とか、“フェミニズム”とか“同性愛”など、現代の社会を浮き彫りにするような要素を全部、同じパッケージの中に入れ込んで、私はコメディを作りました。その意味で、この映画に私自身が投影されているとしたら、プロジェクト全体に私を見出せるのではないかと思います。

――具体的にはセリーヌ・シアマさんとレア・ミシウスさんとはどうやって、作り上げたのでしょうか?

ジャック・オディアール:今回の脚本を進めるにあたって、セリーヌとレアとはそれぞれ分担制ではなく、シーンごとに話し合いをして、その結果を持ち帰って、そこからさらにこうしよう、ああしようと進めたやり方でした。女性とコラボレーションをすることで、今まで私が脚本家としてやってきたことと大きな違いはなかったと思います。ただ、今回あえて二人の女性の脚本家と仕事をしたかったのは、映画の中にエミリー、ノラ、アンバーという3人の異なった女性のキャラクターが出てくるので、そこでの細かい心理描写が難しいと思ったので、彼女たちと組みました。

映画『パリ13区』より。ノラ。

映画『パリ13区』より。エミリー。

――ノラの恋愛に対する慎重さには、おじとの過去の恋愛の影が見え隠れしますが、本当に恋人としての関係だったのか、強いられた関係だったのか、非常に余白があります。演じたノエミ・メルランさんとはどういう設定を共有されたのでしょうか?

ジャック・オディアール:フランスでは、近親姦に関する新法ができ、18歳未満の子どもに対して監護者がその影響力に乗じて性交・わいせつ行為をした場合は、暴行や脅迫の有無に関係なく罪に問われることになりました。この映画においてのノラの設定としては、法的には認められる、理解されている関係としてあり、これに関してはノエミともよく話しましたし、彼女も直ぐに理解してくれて、演じてくれました。

――パリで部屋を探している者たちが出会うという物語においては、ベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストタンゴ・イン・パリ』が思いつきますが、演じていたマリア・シュナイダーさんが情事の場面で納得していない状況で演技をさせられたのではないかという意見があり、昨今、映画の評価において、監督の演出手段においても批評される風潮が強まっています。『パリ13区』はそういう意味でも、俳優陣の勇気ある表現で成り立っていますが、親密な場面をどのように組み立てたのでしょうか?

ジャック・オディアール:今回、撮影時間があまりなかったという状況もあり、この映画では、撮影に入る前にリハーサルに時間をかけました。そして、セックスシーンにおいては、俳優それぞれにコーチをつけて、練習をしてもらうようにしました。練習の途中で、経過報告をその都度受けて、きちんと準備した上で撮影に入ったんですけど、その時、俳優たちは自分がどのように演じたらいいのか、理解が十分な状態になっていましたので、私はただ、彼らの提案を受けて、カメラを回すだけでしたね。

ジャック・オディアール Jacques Audiard
1952年4月30日フランス、パリ出身。1994年、『天使が隣で眠る夜』で監督デビュー。『預言者』(09)でカンヌ国際映画祭グランプリを受賞、マリオン・コティヤール主演『君と歩く世界』(12)ではゴールデン・グローブ賞外国語映画賞と主演女優賞にノミネートされた。続く『ディーパンの闘い』(15)で、コーエン兄弟、グザヴィエ・ドランら審査員たちの満場一致でカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞を果たし、『ゴールデン・リバー』(18)ではセザール賞4冠、リュミエール賞3冠、ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞に輝いた。

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