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映画『オートクチュール』から始まる、美しい手仕事のお話。
ーー『オートクチュール』限定試写会+杉浦今日子さん(刺繍アーティスト)
トークイベントレポート

 クリスチャン・ディオールのアトリエを舞台に、このオートクチュール部門で働く若きお針子を描いたのが、映画『オートクチュール』(2022年3月25日公開)。ディオール ヘリテージとオートクチュールのアトリエで働く一級クチュリエールが監修し、アトリエの様子やその仕事内容も、現実に近い形で映画内に描かれている。

 アトリエのシーンにはディオール社で働くお針子達が出演し、初代バージャケットやフランシス・プーランクドレスなどの、ディオールの逸品が登場!ファッションを愛する人は必見の映画だ。

映画『オートクチュール』より

 そんな新時代のファッションムービーを、「渋谷ファッションウイーク」の期間中、文化学園でファッション等を学ぶ約100名の学生が鑑賞した。上映後には、パリで活躍する刺繍アーティストの杉浦今日子さんがゲストとして登壇し、トークと、オートクチュール刺繍の実演が行われた。

映画『オートクチュール』試写会イベントの様子。

右 刺繍アーティストの杉浦今日子さん、左 MCを務めた奥浜レイラさん。

 トークは、実際にオートクチュールのメゾンと仕事を行う杉浦さんが抱いた、映画『オートクチュール』の感想から始まった。杉浦さんから見ても、本作は「オートクチュールの仕事がリアルに描かれている」ものだという(アトリエの様子には、映画的な飛躍があるとも)。

 また、杉浦さんならではの視点で、オートクチュールのアトリエ長・エステルが、主人公のスリだった少女・ジャドを信頼した理由も語られた。職人のどういった心の動きに杉浦さんが着目したのかは、映画を観て、ぜひ想像を働かせてみてほしい。

 学生達が事前に準備した質問へのQ&Aコーナーでは、杉浦さんが現在の仕事に就くきっかけや、作品を作る際に大切にしていることが話題にあがった。

 幼少期から針を持つことが身近で、自然だったという杉浦さん。刺繍教室に通ったあと、もっと技術を発展させたいと文化服装学院 Ⅱ部へ入学。その後、2009年に渡仏し、オートクチュール刺繍を手掛けるアトリエで働くことに。このアトリエでの企業研修初日には、学校では習わない、ごく小さな2㎜のスパンコールをつけることになったというエピソードも披露された。同時に、トークイベントの中では、手仕事の職人をメティエダール(芸術職人)として敬い、国をあげて養成するフランス特有の教育システムも紹介。映画内にも存分に描かれている、奥深いオートクチュールの世界を支える仕組みだ。

映画『オートクチュール』より

 関連作として話題にあがった『ディオールと私』(2015年公開のドキュメンタリー映画)に登場する刺繍の一つは、杉浦さんが所属するアトリエが手がけていたという話も飛び出し、会場が憧れのため息に包まれたところで、刺繍の実演がスタート。杉浦さんの美しい手さばきから生まれる刺繍に、学生たちはさらに夢中に!

 オートクチュール刺繍とは、1800年代にフランスのリュネヴィルで開発されたクロシェ刺繍の技法。現在もその地には、オートクチュール刺繍のコンセルヴァトワール(公的な教育機関)が存在し、伝統的な技術が継承されている。その手法は、クロシェ(かぎ針)を用い、刺繍枠で固定した布の裏側からビーズやスパンコールを刺繍するというもの。ビーズやスパンコールに一つ一つ糸を通すわけではないため、正確に美しく、すばやくステッチを施すことができる。もちろん、そのためには修練を積み重ねて高い技術を身につけなければならない。

杉浦今日子さんのオートクチュール刺繍。左上は、実演の間に刺繍されたもの。ほかはそれぞれの技法の完成作品。

 杉浦さんは、実演の中でオートクチュール刺繍の5つの技術を紹介。「エスカルゴ」(輪郭をとったあと、中側をステッチする)、「リヴィエール」(同じ方向でのライン状のステッチ)、「ヴェルミセル」(ランダムなステッチ)、「エカイユ」(うろこ状のステッチ)、「ムース」(ビーズとスパンコールを組み合わせ、立体的に仕上げる)という5つの技術によって、オートクチュール刺繍の個性豊かな美しさが示された。

 MCの奥浜さんから杉浦さんに投げかけられた、「若きお針子、ジャドのシンデレラストーリーである本作『オートクチュール』に関連し、ファッションを志す文化学園の学生たちへエールをください」という質問への、杉浦さんの回答で会場は大きな拍手に包まれて、トークイベントは終了。

 この記事も、杉浦さんからクリエイター志望の20代へ贈られたその言葉で締めくくります。

「SNSでものを見ることが当たり前になった時代です。
デザインソースに関しても、画像から得られることは多大ですが、
手仕事をする人にとって大切なのは、『自分の目で見て、触ること』。
ファッションを志す皆さんは、ぜひ、いいものを実際にたくさん見て、触れてください。
それがきっと、技術を磨くことにつながります」(杉浦今日子)

トークイベント終了後に、奥浜さんと杉浦さん。

杉浦今日子さんは、現在、2022年3月28日(月)まで、東京の「代官山 蔦屋書店2号館 1階 ギャラリースペース」で個展「Dialogue」を開催中(9:00~22:00)。そちらにもぜひ足を運んでみて。

photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.)

杉浦今日子さん
Instagram : @kyoko_creation_broderie
WEB:https://www.kyokocreation.com


映画『オートクチュール』
舞台はフランス・パリのディオールのアトリエ。引退間近であるアトリエ長・エステルは、ある朝、通勤途中の地下鉄で、移民2世の少女ジャドにバッグを盗まれてしまう。バッグを返しにやってきたジャドを、なんとエステルは自分の後継者のお針子として育てることを決意。それは、ジャドの中にお針子に必要な資質を見抜いたからだった。翌日から見習いのお針子として働き出したジャド。エステルは、自分にとっての最後のショーまで、惜しみなくジャドに技術や美意識、お針子の魂を伝承するがーー。シルヴィー・オハヨン監督・脚本、ナタリー・バイ、リナ・クードリほか出演。
2022年3月25日(金)より、東京・渋谷の「Bunkamura ル・シネマ」、「ヒューマントラストシネマ有楽町」、「新宿ピカデリー」ほかにて全国公開。

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