【From パリ支局】フランス国家最優秀職人の日爪さんが、ファッションを学ぶ学生へ伝えたかったこと

―文化出版局パリ支局より、イベントや展覧会、ショップなど、パリで日々見つけたものを発信。

今年、フランスの名誉ある称号M.O.F.(フランス国家最優秀職人)を獲得した帽子デザイナーの日爪ノブキさん。帽子職人の分野におけるM.O.F.は、日本人では初の快挙である。その日爪さんによる特別セミナーが、活動拠点のパリで文化服装学院の学生のために開催された。

bunka2019_hizume04.jpg

壇上に立つ日爪さん。


帽子のクリエイションやスタイリングの話、自身の経験から学んだことや人生の教訓までもが語られた2時間。このセミナーを引き受けた理由を「未来づくりの話をしたかった」という日爪さんが学生たちに一番伝えたかったのは、夢を持つことの大切さだった。

bunka2019_hizume01.jpgbunka2019_hizume02.jpg

学生をモデルに帽子をコーディネイトし、クリエイションやスタイリングのポイントを解説。


日爪さんがファッションに目覚めたのは中学生の時。最初は「格好つけて、ただモテたかっただけ」とのことだが、通信教育を受ける熱心さもあり、大学では経済を学ぶもファッションへの思いを捨てきれず文化服装学院に入学。空白の時間を取り戻そうと必死になり、課題とコンテストに明け暮れる日々を過ごした。「コンテストに作品を提出したあと、玄関で靴を履いたまま丸1日以上寝てしまったことがありました。それくらい作品にすべてのエネルギーを捧げていたんです」

bunka2019_hizume09.jpg

恩師の馬島先生(左)とのトークセッションで始まったセミナー。当時の日爪さんはとにかく目立つ学生だったそうだが、クリエイションでは結果も出していて「装苑賞の公開審査で彼の作品が出た瞬間に、会場からワッと歓声が上がった。一生忘れられない風景だった」と馬島先生。写真はその時の作品で「人間を花束にしたら」とイメージを膨らませたもの。コルセットは2kmにおよぶ革紐をひたすら手で編む作業を経て作られた。


卒業後、イタリアのメーカーにスカウトされ、海外でブランドデビューを果たすが一年で帰国。就職を試みるも軒並み不採用となり、自分自身で創作活動を続ける選択しかなかったという。そんな中、依頼を受けた舞台衣装の仕事で帽子を製作することに。数年で舞台の仕事が軌道に乗り、帽子のブランドも立ち上げた。「でもずっと、世界のトップで自分の可能性を試してみたいという思いがありました。イタリアに一年しか居れなかったのが心残りだったので」。再び海外で挑戦することを決意した日爪さんは、文化庁の研修制度で渡仏。パリにある世界最高峰の帽子のアトリエで働きながら帽子づくりのキャリアを重ねた。

錚々たる著名ブランドの帽子を手がけてきた日爪さんだが、実は帽子製作に携わるまで帽子が嫌いだったそう。そんな、紆余曲折の人生を「目の前にあるものを辿って行ったら到達できる場所もある」と振り返る。「服ではなく、帽子の仕事をしていると、すべてがうまくいくという状況が続いて、それを客観的に分析した時に、人は"やりたいこと"と"やるべきこと"が一致しないことが多い、と気が付きました。僕にとって帽子はやるべきことで、それを素直に受け入れた瞬間に人生が開けたんですよね。自分の可能性が無限に広がった感じです。だから、帽子をやるというのは、人生が自分に提案してくれたことだと思っています」

20191222_hizume.jpg

セミナー会場に持ち込まれた日爪さんの作品。学生たちは興味津々にこれらを手に取り、試着も行った。


フランスに渡って10年、M.O.F.に認定された日爪さんの今の目標は、世界一の帽子デザイナーになること。そして夢は、全人類に帽子を被せること。「夢と目標は全く違うものなんです。あまりにも壮大な夢を描くと、世界一になるってちっぽけで、そうすると人間は『できるじゃん』って思って、脳ができる方法を勝手に考えてくれるんですよね。少し先の目標を常に持って、それに向かって小さな努力を日々積み重ねることも大切です。その集大成が結果になると思っています」。自身の会社にも "人類・帽子・計画"の頭文字をとって "JBK"と名付けたと、時には笑いを盛り込みながら未来との向き合い方のヒントを教えてくれた日爪さん。

最後には学生たちを激励する力強いメッセージが。
「まず、自分の夢を持ってください。その夢は今の自分ができることの延長線上ではなくて、誰が聞いても絶対不可能だと言われるようなこと。自分が持っているリソース(資源、能力)では叶わないというような圧倒的なビジョン、未来の夢を持ってもらいたい。できるかどうかは関係ない。そして、それを紙に書いて、どうしたら叶うかということを毎日考えてください。すぐに答えがでなくていいんです。ずっと考え続けてください。そしたら必ず、気がつけばそこに近づいています」

20191220hashizume01.jpg

M.O.F.のコンクール作品より。Art direction : Karina SENYK / Photo : Camille LUCIANI


bunka2019_hizume08.jpg

「毎日の小さな積み重ねが未来になる」と語った日爪さん。自身も大学時代から1日にひとつ、何か新しいことを発見したり経験したりする努力をしているそう。

日爪ノブキ(ひづめ・のぶき)
帽子・ヘッドピースデザイナー。2004年に文化服装学院アパレルデザイン科を卒業。イタリアに渡り、アンダーウェアのメーカーから「NOBUKY SHINO」の名前でコレクションを発表する。帰国後、国内外の舞台や映画、ミュージシャンの帽子やヘッドピースをデザイン・製作すると同時に、自身のブランド「NOBUKI HIZUME」を展開。2009年よりパリに拠点を移し、数々の著名ブランドのためにパリコレクションの帽子を手がける。2019年5月にはフランス国家最優秀職人(Meilleur Ouvrier de France)の称号を授与され、メンズの帽子ブランド「HIZUME」をスタートさせるなど、さらなる躍進を見せる。

NOBUKI HIZUME 公式ウェブサイト :nobukihizume.com
Instagram:@hizume.official
Instagram:@nobuki_hizume

Photographs : 濱千恵子 Chieko Hama
Text : 水戸真理子 Mariko Mito (B.P.B. Paris)

MORE FASHION CONTENTS

  • What's new

    最新記事

  • Ranking

    人気記事

What's new

And More

ranking

Calendar

開催中のイベントをチェックしよう

And More

MAGAZINE

最新号の詳細はこちら