清水早苗の布をめぐるクリエイション:中国人留学生の活躍が目立った、今年の装苑賞

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text & photographs:Sanae Shimizu, photographs:Josui(B.P.B., show)

以前、当サイトで連載していたファッションジャーナリスト清水早苗さんによる、布づくりについて、布という素材の可能性、そして、布と人間の関係を探るシリーズが、「清水早苗の布をめぐるクリエイション」としてリスタート。
復活記念となる連載vol.0では、「第89回装苑賞」の総評をお届けする。



第89回装苑賞公開審査会が、4月21日に、文化学園遠藤記念大ホールで開催された。装苑賞に選ばれたのは、中国生まれで、文化ファッション大学院大学(以下BFGU)に留学しているケイ ツボミさん。そして、次点の装苑賞佳作1位も、同じくBFUGの中国人留学生のフ アヤさんだった。
審査にあたったのは、岩谷俊和、コシノジュンコ、田山淳朗、津森千里、菱沼良樹、廣川玉枝、丸山敬太、皆川 明(五十音順、敬称略)の8名。言うまでもなく、第一線で活躍するトップデザイナーの面々だ。
各氏が2名ずつ選出した、計16名のファイナリストが、司会者がコンセプトを紹介するなか、各3体のコレクションをミニショー形式で披露した。
ケイさんは、人生をメビウスの輪に重ね、ホワイトと墨黒の凹凸のある厚い合皮のような素材を用い、美しく波打つプリーツのドレスを制作。審査の評価は、抜きんでていたという。

soenaward1504233.jpg 第7回の装苑賞を受賞し、毎年中国でショーを行っているコシノ氏は、ケイさんの作品を、スカッと仕上がり、洗練されていたと評する一方で、中国人が装苑賞をとる時代になったと、感慨深げな様子だった。

ケイさんの作品に対する審査員の講評を、一部紹介すると、
岩谷氏 テーマが明確、仕上がりがきれい、3体並んだ時に強さを感じる。
田山氏 難しいテーマをバランス良く表現、計算されていた。
皆川氏 コンセプトが構造的な美しさにつながったのが高評価に。
丸山氏 コンセプト、素材、パターン、仕上げ、全てバランスが良かった。
廣川氏、エレガントで、いつみても女性がきれいに見える。
このように、いかに作品の完成度が高かったかうかがえる。

soenaward1504232.jpg 佳作1位のフ アヤさん(写真上左)は、身体と服をレイヤーの関係ととらえ、さまざまな数学的な数理を駆使し造形を試みていた。といっても、決して理屈っぽくは見えない。ホワイトのメッシュやオーガンジーが重なり、線と面が混じり合った作品は、素材の透明感と相まって不思議な空気感が生まれ、フさんの豊かな感性がうかがえた。
他方、佳作2位の平戸麻鈴さん(写真上右)は、インターネット時代の今日、仮想現実が世の中を浸食してきている状態を表現。赤、黒といった色使い、パーツに分解された服には迫力があり、アニメに登場する勇士のようでもあった。

他の作品は、フランス・ベーコンやジャクソン・ポロックといったアーティスとからインスピレーションをえたり、生物学的なものや民族性を意識したものなど、ユニークな発想が多く、レベルも上がったきたと思う。
他方、丸山敬太氏が、「一人一人、スタイルがあって面白いが、小さな視点のなかでものづくりをしていると感じた。悪いという意味ではなく、そうだったら、もっと深く掘り下げるべき。コンセプトが上滑りしていたものもあった」と、指摘していたように、意味の伝わらないデザインも少なからず見受けられた。
ここ10年、装苑賞審査会を見てきたが、今回はさらにテキスタイルの作り込みが進んでいたことが印象的だった。表現の幅をひろげる上でも良い傾向だが、テキスタイルと造形とのバランスは、クリエーションの本質的な課題でもある。過剰な装飾に陥らないためにも、もっと研究が必要なのではないだろうか。

最後に、皆川明氏の講評の言葉を紹介したい。
「今、感じているものをつくっているが、これからやるべきことは、未来をつくることではないか。過去に培われたものを大事にして、そこから見えてくる未来をつくってほしい。」
各人が、どのように進化するのか、どのような展開をみせるのか、"次の服"を見てみたいと思ったのは私だけではなかったと思う。

今回の中国人留学生の活躍は、日本の学生や若手デザイナーにとっても、大きな刺激になったにちがいない。装苑賞が、国境を越えて切磋琢磨し合う場となれば、その存在意義はさらに増していくだろう。

soenaward1504235.jpg 左から、rooms賞 木下翔平さん、イトキン賞 土居賢哲さん、装苑賞 ケイ ツボミさん、装苑賞佳作1位 フ アヤさん、装苑賞佳作2位 平戸麻鈴さん



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清水早苗 Sanae Shimizu
ジャーナリスト・エディター・クリエイティブディレクター
武蔵野美術大学、文化ファッション大学院大学 非常勤講師

スタイリストを経て、ファッション雑誌の構成、カタログ制作のディレクターとして活躍。その一方で、パリ・東京コレクション、デザイナー等の取材を通して、衣服デザインに関する記事を、デザイン誌、新聞に多数寄稿。代表的な仕事として、「新・日曜美術館」(NHK)における「三宅一生展」監修(2000)。川久保玲に焦点をあてた「NHKスペシャル」では企画からインタビュー、制作まで携わる(2002)。「アンリミティッド;コム デ ギャルソン」(平凡社)編者。「プリーツ プリーズ イッセイミヤケ10周年記念」冊子(エル・ジャポン)の編集(2002)など。また、日本の繊維・ファッションの創造性を発信する情報誌の編集や展示会、セミナー等のディレクションに従事する。
最近では、大手量販店の衣服・雑貨のデザイン及びデザインディレクター。カタログ通販の創刊にあたり、商品企画、デザインディレクション、カタログ制作に携わる。2010年より2013年まで毎日ファッション大賞選考委員。

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