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1999年に装苑で初めてエッセーの連載をスタートした光浦靖子さん。今年5月に本を2冊同時刊行しました。一冊は『50歳になりまして』。こちらは、50歳という節目の歳を迎えて思うこと。もう一冊の『私が作って私がときめく自家発電ブローチ集』は、人の顔や動物の顔などを、ニードルフェルティングで象った似顔ブローチの作品集です。今回は実際に制作した似顔ブローチを目の前に、制作時のエピソードを伺いました。


—— エッセイ集と作品集の2冊同時刊行、おめでとうございます。大変な作業だったのでは?

時間がある中で、結構大変だったけれどその割には楽しんでやってましたよ。自分のテンポで出来るので、ずーっとコツコツと一心不乱に。一つ仕上がるたびに「わーできたー!」と。不思議と心が穏やかになるんですよね。子供が生まれるような感覚です。 最終的に仕上がりがどうなるかわからないので、文系の人向きの手芸ですね。理系と違ってつじつまが合わなくていいので。


—— 手先が器用な光浦さん。数ある手芸の中でこのニードルフェルティングのブローチを作るきっかけになったのは?

10年ぐらい前だったかな。ある時、手芸やさんに行って出会ったんです。縫い目のないフェルトのマスコットの存在が理解できなくて、売り場の人に聞いたんです。そしたら「この羊毛を針で刺していくと縮んで形ができるのよ」と。とにかく必要な材料を全部買って、誰かに習うことなく全部独学で始めました。 小学生の時は、フェルトで小さなマスコットをたくさん作っていました。大高輝美先生がお手本。大高輝美チルドレンだったんです。作っては友達にプレゼントして、手もとには残念なことに一つも残っていないですね。


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—— 作っている時はどんなことを考えていますか?

無心ですね。似るように似るようにと心で唱えながら。最初はなんだか全然似てなくて。でも針をさし続けていくうちにある瞬間、似てくるんです。「出たー!出ましたー!」と。2、3日針を刺していても全然ダメなこともあるんです。


—— 似せるためのポイントはありますか?

写真を見ながら作るのですが、やはり実際にお会いした人の方が上手くいきますね。私は人の顔を覚えるのが苦手。ただ、その人の特徴は頭に残るんです。パーツが顔の中心に集まっているとか、おでこが出てるとか、ほっぺたが膨らんでいるとか。デフォルメさせて記憶に残し、それを特徴として捉えるので表現しやすいのかもしれません。
このニードルフェルティングは、羊毛を足していくことはできるのですが、引くことできないんです。なので、失敗したら最初からやり直しです。

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上段右から
松本清張(作家)
ルース・ベイダー・キンズバーグ(法律家)
オカリナ(おかずクラブ/芸人)
下段右から
バービー(フォーリンラブ/芸人)
瀬戸内寂聴(小説家、天台宗尼僧)
川端康成(作家)
アイリス・アプフェル(インテリアデザイナー・実業家)
★上記ブローチは全て『私が作って私がときめく自家発電ブローチ集』収録


—— いちばん最初に作ったのは誰?

具志堅用高さん!


—— 難しかった人とすんなり出来た人は?

んー。全部で73個あるんですけど、人の顔はみんな難しいです。難産です。でも一発で決まったのは森三中の大島さん。瞼とほっぺたを刺してたらすぐできました。


—— ご自分のお顔のブローチは作らないのですか?

なかなか顔が定まらないので・・・。顔がコロコロ変わるんですよ。


—— 似顔以外で、たくさんの生物も作っていますね?中でもタコは圧巻でした。

小さなタコの吸盤一つ一つ針で刺してます。もうあそこまで行くと、似てるとか似てないとかじゃなく、根気しかないですね。戦いですね。


—— タコのぬめりまで感じます。

それは嬉しいです!
昔”徹子の部屋”に出演したときに、黒柳徹子さんに小さなパンダを作ってお渡ししたら、とっても可愛いと喜んでくださって。まだ作りはじめの頃だったので下手だったんですけど、気に入っていただきました。


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—— お気に入りの手芸店はありますか?

ユザワヤとオカダヤですね。ユザワヤの蒲田本店には度々足を運びます。材料はネットでも変えるんですけれど、ダメなんです。羊毛の質感や微妙な色味は、やっぱり目で見てみないとわからないので。


—— 今後挑戦してみたいモチーフはありますか?

ずーっと思っているんですけど、曼荼羅を作りたいんです。絶対おもしろいと思うんですけど、時間がかかるし、一生かけて作るにはリスクがあるし・・・。ちょっと模索中です。


―― このブローチはどんなファッションに着けたら素敵だと思いますか?

これはなかなか着けられないよねー



photographs : Jun Tsuchiya (B.P.B.) / hair & make up : YUKO TERADA (SHISEIDO) / interview & text : SO-EN

ワンピース¥79,200、靴¥50,600 J&M デヴィッドソン(J&M デヴィッドソン 青山店)TEL 03-6427-1810


光浦靖子(みつうらやすこ)
1971年生まれ。愛知出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。手芸作家、文筆家としても活動し、著書に「靖子の夢」(スイッチパブリッシング)、「傷なめクロニクル」(講談社)がある。渋谷ロフトにて、6月10日~24日の日程で、「私が作って私がときめく自家発電ブローチ展」が開催される。


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相方の大久保さんのブローチ
★『私が作って私がときめく自家発電ブローチ集』にこの大久保さんブローチの作り方も掲載されています。


新たに同時刊行したエッセー集と手芸作品集2冊