【From パリ支局】イッツ(ITS)2019 特別編 - Y/プロジェクトのクリエイティブディレクター、グレン・マルタンの視点 -

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国際ファッションコンペティション「イッツ(ITS=International Talent Support)2019」で、審査員を務めたデザイナーのグレン・マルタン(Glenn Martens)。Y/プロジェクト(Y/PROJECT)のクリエイティブディレクターで、パリで最も注目される若手デザイナーの一人である彼が「イッツ」に初めて参加して感じたこと、興味を引いたファイナリストについて語ってくれた。

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グレン・マルタンさん。イッツが開催されたイタリアのトリエステにて。©B.P.B. Paris


Q : 初めてイッツの審査員をされたそうですが、ご感想は?
Glenn Martens(以下G): 実は、アントワープの学生だった2008年にイッツに応募したのですが、ファイナリストにはなれなかったんですよ(笑)。イッツは若い人にクリエーションの機会を与える場でもあると思いますね。挑戦する気持ちが芽生えますから。今のファッション界は多くのものであふれていて、飽和状態になっています。2019年の今日においては、この産業が地球を汚染している2番目の産業であると認識されていて、多くの若い人たちは彼らなりにその問題を考え、作品で表現しようとしています。このコンペでもそんな作品に出会えて嬉しく思っています。新しい世代のデザイナーたちが、とてもパーソナルな方法でそのことに取り組もうとしています。

Q : 審査の際にあなたが重視した点は?
G : まず知ってもらいたいのは、イッツの審査はデモクラシーに基づいて行われているということ。それぞれの審査員の意見がそのまま通るわけではありません。僕がいいと思ったデザイナーも受賞できませんでした。ですが、受賞者もいいものを作っていたので不満はありません。
僕が審査で重視した点は"誠実さ"です。作品がデザイナー自身の個性から生まれていて、その人独自のパーソナルな作品だと感じられるかどうかです。トレンドや見た目の華やかさなどは関係ありません。そして、何か驚きを与えてくれる捻りがあるといいですね。僕が見たことのないアプローチをしていて、新鮮であること。つまり、デザイナーのパーソナリティと新しい着眼点が感じられるかどうかが僕にとっては大切です。

Q :それは誰の作品でしたか?
G : Hana Yagi(八木 華)、Anni Salonen、Hazuki Katagai(片貝 葉月)の3人です。

Hanaはプレゼンテーションで、一般的なデザインの話ではなく、SNSで人を集めて共同作業でコレクションを作ったという話をしていました。100人以上の人たちと一緒に服を縫ったそうです。その取組み方がとても素敵だと思いました。
Anniはマテリアルの使い方や手工芸的な手仕事がよかった。

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細かな手作業が詰まった八木 華さんの作品は、SNSを通して集まった多くの人たちの協力を得て作られた。テーマは"修復"で、日本のボロや金継ぎがインスピレーション源になっている。©ITS 2019(写真上), ©Giuliano Koren ITS 2019


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自由な旅人からインスパイアされたアニ・サロネンさんのコレクション。実際にバックパックだけで数か月間を旅して過ごし「本当に必要なものは?」の自身への問いかけから作品が生まれた。©ITS 2019, ©Daniele Braida ITS 2019(写真下)


Hazukiの作品は、根底にサスティナビリティがあると僕は思いました。彼女のジュエリーは呼吸と反響し合っていて「息をジュエリーに吹きかけると生きていることを実感できる」「ジュエリーを通して僕たちが存在し、宇宙の一部になっていることがわかる」という説明がありました。実際に身につけることができるかどうかが重要ではなく、内面に影響を与えるというアイデアがいい。3人とも非常に興味深いデザイナーです。

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片貝 葉月さんは2016年のイッツで受賞し、上海のアーティスト・レジデンスに滞在した経験があり、その時に太極拳と気功を学び、呼吸することで生きていると感じられるものを作りたいと思うようになったのだそう。写真上のジュエリーは太陽の下で目を閉じて息を吹きかけるとメダルが回転し、瞼に感じる光の反射で生きていることが実感できるというもの。


Q : デザイナーになりたいと思っている読者にメッセージをお願いします。
G : 惑わされてはいけない。インスタグラムなどのSNSが普及していて、僕たちはイメージに左右されるシステムの中にいます。もちろんイメージはとても大切で、伝え方次第で成功も、失敗もする。僕のブランドのY/プロジェクトでは、助言者たちから「服が複雑すぎる」「コンセプチャル過ぎる」などと言われ、多くを否定されました。でも僕のやり方を曲げることなく、何を言われても、信じたことをやり続けました。その結果、今は毎シーズン着実に売上を伸ばしています。ファッション界に法則はありません。常に独自のストーリーを持つべきなのです。大きなコマーシャリズムの流れを追うのは簡単ですが、大事なことは自分自身を信じ、パーソナルなものを作り続けること。この業界は厳しく、何かを成し遂げるまでに時間もかかる。本気で打ち込まなければなりません。でも、誰にでもチャンスはあるのです。


Glenn Martens
2008年にアントワープ王立芸術アカデミーを卒業し、複数のブランドでキャリアを積んだ後、2013年に Y/プロジェクトのクリエイティブディレクターに就任。多種多様なサブカルチャーや時代から着想されたコレクションによってブランドを再構築し、2017年には権威あるフランスのコンクール「ANDAMファッションアワード」でクランプリを受賞。今年1月にはピッティ・イマージネ・ウオモでゲスト・デザイナーとしてコレクションを発表する。


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イッツ関連サイト:
ITS オフィシャルサイト
ITS 2019 カタログ

Text: B.P.B. Paris


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