【From パリ支局】コシェが教えてくれたこと

―文化出版局パリ支局より、イベントや展覧会、ショップなど、パリで日々見つけたものを発信。

クリスマス間近の12月のパリ。新進気鋭のデザイナーとして世界的な注目を集めているクリステル・コシェ(Christelle Kocher)による特別講義が開催された。受講生は東京の文化服装学院の学生たち。彼女のブランド「コシェ(KOCHÉ)」がニューヨーク初のショーを成功におさめた直後であり、多忙を極めるスケジュールの合間を縫って行われた2時間の講義では、決して順風満帆とはいえない長い下積み時代の経験とファッションへの熱い思いが語られた。

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講義では学生をモデルに7点の新作についても解説。


フランス東部のストラスブルグ郊外で生まれ育ったコシェは、編み物や絵を描くことが好きな少女だった。家の近くにはサッカー場やバスケットボールのコートがあり、そうした環境が自身のクリエイションのベースにあるという。テレビで観たファッションショーに触発され、いつしかデザイナーになる夢を抱いていた彼女は、地方の学校へ進学したのち、奨学金を受けロンドンのセント・マーチンズへ留学。文化服装学院への留学も考えたそうだが、言葉と資金の面から断念した。

1990年代終り、ガリアーノやマックイーンをはじめ、多くのデザイナーを生んでいたロンドンは、コンテンポラリーアートやミュージックシーンでもクリエイティブなアーティストに溢れていた。刺激的な街と学校での生活は、彼女のクリエイションに影響を与え続けることになる。また授業では、チャールズ・ジェームスのモデリストだった先生から立体裁断を教わり、テクニックを習得。現在、ほとんどデザイン画を描くことはなく、立体裁断をしているという彼女の創作のルーツはここにもある。

セント・マーチンズを首席で卒業した彼女は、その後の13年間でエンポリオ・アルマーニ、マルティーヌ・シットボン、クロエ、ソニア・リキエル、ドリス・ヴァン・ノッテン、ボッテガ・ヴェネタで経験を積む。リュック1つであてもなくパリに上京し、ブランドの扉を一つずつ叩いてまわったこともあった。

2010年には、シャネル傘下の羽根細工とコサージュの工房「ルマリエ」のアーティスティックディレクターに就任。与えられた使命は、伝統のオートクチュールの技術を継承しつつ、新たなクリエイションでメゾンを活性化させることだった。「未経験の仕事だったので、私にとっては真のチャレンジでした」と語るコシェは、同時期にボッテガ・ヴェネタのデザイナーも兼務。1年に12ものコレクションを作るハードな日々を送っていたが、「充実した5年間だった」と当時を振り返る。2015年、満を持して自身のブランド「KOCHÉ」を設立。後押しをしてくれたのは、これまでの経験とそこから築いた人との繋がりだった。

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コシェ(中央右)と学生モデルたち。フランスの人気サッカーチーム「パリ・サンジェルマン」のユニフォームを再解釈したドレスやキモノスリーブのトレンチコート、工房「ルマリエ」による美しい羽根刺繍の作品などが披露された。


パリ20区にアトリエを構え、コレクションを作り始めた彼女が打ち出したのは、羽根細工や刺繍など、クチュールの手仕事とストリートをミックスさせた服。初ショーは、様々な人種や民族が行き来する郊外線の地下鉄とショッピングモールを繋ぐ広場で発表された。一般の通行人にも開かれたショーである。「皆が分かち合えるショーにしたかった。立ち止まって観てくれた一般のかたもたくさんいました。席はなく、雑誌の編集長もそうでない人たちも全員スタンディング。その時からモデルには、DJ、ダンサー、ミュージシャン、俳優など、自分で何かを表現しているアーティストたちに参加してもらっています。彼らは私にインスピレーションを与えてくれるし、違う角度からの視点にも気づかせてくれます」エネルギッシュなコレクションはたちまち評判になり、デビュー直後にも関わらず、10店舗ほどの国内外のバイヤーから買い付けられた。今年1月で3周年を迎えたブランドは、その後も順調に業績を伸ばし、現在では約70店舗で取り扱われている。

紆余曲折しながらも自身の仕事に向き合い、クリエイションと経営を両立させるコシェへ、学生たちから様々な質問が飛んだ。一つ一つに誠心誠意答える彼女の言葉は、ファッション界を担う次世代へのエールのように感じられた。

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学生との距離を縮め、質問に答えるコシェ。


「会社やブランドを立ち上げるということは、どんな分野であっても多くの問題に遭遇します。いずれにせよ解決策は見つかるし、何かを解決してもまた何かが起こる。現在、私がクリエイションにかけている時間は全体の15から20パーセントしかありません。ファイナンス、マーケティング、ブランド全体のビジョンやパートナーシップについてなど、色々なことをしていて、そこでも問題は起きるのです。ですが、私はそれを困難とは思わずにチャレンジだと思うようにしています。そして、それらのチャレンジもまたクリエイティブなことだと考えるようにしています。世界をどう捉えるかです。いつもポジティブでいること、ポジティブに考えようとすることが大切です」とクリステル。「私のブランドはパーソナルなストーリーを具現化したもの。自分に正直でいられるから、迷わずに進めるのだと思います。もし自分のブランドを作るのであれば、他にない自分だけの強固なストーリーを持ってください」


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2018年春夏コレクションのビデオを観る学生たち。


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2018年春夏コレクションより。ショーは歴史的建造物に指定されるサンメリー教会で行なわれた。


Text: B.P.B. Paris

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