【From Paris】2017 S/S PARIS COLLECTION パリコレクションのトピックス vol.8

--文化出版局パリ支局より、イベントや展覧会、ショップなど、パリで日々見つけたものを発信。

vol.8 海外のバイヤーの心をつかむ日本の絞り染め

ファッションウィークではショーやプレゼンテーションのほかに、数々の展示会も開催される。世界中のブランドが一堂に会す中、高いクリエーション力やオリジナリティがなければバイヤーの目を引くのは難しい。モノが売れない時代、多くの企業が苦戦を強いられているが、日本とドイツを拠点に活動する「スズサン(suzusan)」は着実に成長し、世界に販路を広げている。

パリ3区で行われた「スズサン」の展示会にて。

ブランドの創始者でクリエイティブディレクターの村瀬弘行は、日本の伝統工芸である有松鳴海絞りを家業とする「鈴三商店」の5代目。海外に渡りアーティストを志していた彼が、地元の絞り染めに興味を持ち始めたのは、日本を離れて数年が過ぎた頃だった。
「ロンドンの見本市で父が絞り染の展覧会を開いた時、来場した方々にすごく面白いと言われました。思いがけない反響でしたね。僕の中では古い技術と捉えていたものが、彼らにとっては新しい技術に映っていたのです。浴衣の生地が並んでいたのですが、せっかく面白いと思ってもらえても、浴衣ではヨーロッパの生活に馴染めません。それなら彼らに使ってもらえるようなものを作ってみたいと思ったのがきっかけでした。」
こうして始めたのは、有松鳴海絞りの技術を使いつつも、現代のライフスタイルに合うモノづくり。当時、デュッセルドルフに住み、芸術大学へ通っていた彼は、2008年に現地で会社を立ち上げた。

服やストールが並ぶ展示会場。

名古屋の有松は、江戸時代から続く絞り染めの産地である。一連の工程は「一家族一技法」という分業で行われ、他に類を見ない文様の多様さが有松鳴海絞りの特性だ。これまで100種類以上の技法が生まれたが、着物離れや後継者問題などから生産量は減り、半数以上の文様が消滅していた。高齢化により、90代の一人の職人だけが持つ技法もある。「若い人に継承できるように」という思いが村瀬を後押しした。
「最初は父が実験的に作っていた照明を商品化し、ストールも始めました。試行錯誤の連続で、お金もなく、お客さんもいませんでした。あるのは技術だけです。でもその技術を持つ職人さんも毎年亡くなられている状態でした。『あと15年経てば、この技術はなくなるよ』って父から言われました。本当に勿体ないと思いましたね」

会場ではデザイン画や生産工程の一部も紹介された。

文様の型や絞りの道具など。

奮闘する村瀬だったが、その思いとは裏腹に、古くから産地を守ってきた職人たちは閉鎖的でもあったという。「今は変わってきましたが、以前は自分の技法を教えることに積極的ではありませんでした。自分だけのものという気持ちがあり、他の人に教えないという風潮があったのです。」彼らの信頼を得ることは重要な鍵であり、商売の経験もない村瀬が背水の陣で取った行動は、飛び込みの営業だった。
「展示会は費用がかかるので、最初はトランクにストールを詰め込んで、アポイントも無しに直接ショップへ行きました。ヨーロッパ中をまわりましたよ。そうしないと誰も買ってくれなかったので。どうにかして売らないと僕も生活できないし、職人の仕事がなくなり、産地がまわらなくなってしまうという思いでした。パリのセレクトショップ『レクレルール』との付き合いもそうやって始まりました。バイヤーさんに気に入ってもらえて、最初は少量でしたが、去年は彼らが15人のデザイナーを選んだプロジェクトに参加したり、コラボレーションを行ったりと今も取引が続いています。」

村瀬さんの絵とそれをモチーフにした壁掛け。橋の上の人影が物語を想像させるポエティックな作品。

そうした行動が少しずつ実を結び、売上げも伸びていったという。3シーズン前からはプレタポルテにも着手。2016年には、ファッション部門、インテリア部門、テキスタイル部門を合わせ、パリで7回のトレードショーに参加した。2017年春夏のファッションウィークでは、インディペンデントの展示会も開催。国内外で取扱店を増やす一方で、数々の著名ブランドとコラボレーションし、フランスを代表するオートクチュール・メゾンに生地を提供することも。現在、有松の「スズサン」では20代の若いスタッフが働き、地域全体の活性化にも寄与している。
ブランドの立ち上げから8年目、初めて休みを取ったという村瀬は「ようやく、スタート地点に来たかなって感じです。」と今の心境を語った。

クッションカバーなどのインテリア小物。

左上 ハンドメイドの温もりを感じさせる照明器具。絞りのテキスタイルは耐熱加工されていて洗濯機で洗うこともできる。右上・下 2017年春夏コレクションより。様々な絞りの技法を日常着に取り入れることで、このブランドだけのオリジナリティが生まれている。肌触りのよいカシミアやコットンをベースに使うなど、素材にもこだわりが。

村瀬弘行(むらせ・ひろゆき)
1982年名古屋市生まれ。2002年渡英。サリー美術大学を経て、ドイツのデュッセルドルフ国立芸術アカデミー立体芸術及び建築学科卒業。2008年にデュッセルドルフで「スズサン e.K.(suzusan e.K.)」を設立し、オリジナルブランド「スズサン(suzusan)」をスタート。パリの「レクレルール」、ミラノの「ビッフィ」、ニューヨークの「バーニーズ ニューヨーク」など、取扱店は20か国以上。ロンドンのセント・マーティンズ美術大学、パリのグランゼコールENSAD(国立高等装飾美術学校)などでも授業を行い、外国人研修生を有松の工房に受入れるなど、活動の場は多岐に渡る。www.suzusan.com

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お知らせ:12月14日(水)〜12月20日(火)まで、松屋銀座でsuzusanのポップアップストアがオープンします!

photographs : Chieko Hama
text : B.P.B. Paris

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『装苑』2017年6月号、4月27日発売

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