清水早苗の布をめぐるクリエイション vol.7:入場者が10万人を超えた「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」

issey160531.jpg

国立新美術館「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」セクションCの展示風景

ファッションジャーナリスト清水早苗さんによる、布づくりについて、布という素材の可能性、そして、布と人間の関係を探るシリーズ「清水早苗の布をめぐるクリエイション」。
vol.7は、東京・六本木の国立新美術館で開催中の大規模な展覧会「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」について。



文・写真=清水早苗

優れた本は、何回読み返しても、その度ごとに発見があり心に響いてきます。現在、国立新美術館にて開催中(会期は6月13日まで)の「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」は、そんな本にたとえられるでしょう。周りからも、1度でなく、2度、3度と足を運んでいるとよく聞きます。とりわけ、布地づくりに携わっている人達から発せられるのは、「すごい」の一言。その言葉からは深い感動が伝わってきます。
しかし、幸運にもパリコレクションの数々を取材させてもらった経験から言わせてもらうと、「三宅一生のすごさって、こんなものではない」のです。もっと、「すごい」というのが、展覧会を見ての私の正直な感想です。

"百聞は一見にしかず"。展覧会の作品を縷縷紹介するのはやめることにしました。何より、空間に身を置いてみて、一人一人が、三宅氏の足跡を自分の眼で、体で感じることが大切だからです。


issey1160531.jpg

国立新美術館「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」セクションAの展示風景


初期の作品から、時代を追って見ていくと、身体と衣服の関係についての深い洞察が自然に感じられます。服は第二の皮膚という視点。身体と布の間にできる空間・空気が、心身に自由な感覚をもたらすこと。そして、三宅は、日本が舶来品崇拝の時代に、日本独自のテキスタイル文化に着目し、工場を訪れ布地も開発していきました。今でこそ、メイド・イン・ジャパンの復興が潮流となっていますが、当時はどれだけの人が理解できたのでしょうか。三宅の本質を見極める確かな眼力は、天才的としか言いようがありません。


issey2160531.jpg

国立新美術館「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」セクションBの展示風景


自らの足元を見つめることから始まる、素材の探求。三宅は、最新のテクノロジーを積極的に採用しつつも、そこに手の温もりという粉をふりかけることをわすれず、魔法をかけたように素材と形が融合した新しい服を作り出していきました。そして、その探求が、「PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE」に結実します。プリーツをかけた生地を裁断するのではなく、服の形に縫製してからプリーツをかけるという新しい技法、「製品プリーツ」を開発しました。次に藤原大と開発したのが「A-POC」。衣服の形が織り込まれており、ガイド線に沿ってカットすると服になるという、縫製工程のない衣服が誕生しました。6ヶ月ごとののファッションサイクルでは、到底開発できるものではなく、いずれも、量産にいたるまでには、数年を要しています。


issey9160531.jpg
issey3160531.jpg
issey4160531.jpg

国立新美術館「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」セクションCの展示風景


これらの服は、一番広い空間で展示されており、そこには、80年代〜90年代の通常服には使われない素材を使った衣服や、三宅一生率いるリアリティ・ラボチームによる「132 5. ISSEY MIYAKE」の初期から最近までの作品、照明器具の「陰翳IN-EI ISSEY MIYAKE」なども見ることができます。観客が体験できるコーナーもあり、まるで遊園地のように楽しく過ごせるように工夫されています。

約200点に及ぶ作品を見ていくと、「一枚の布」という考え方がいかに豊かに展開されいったのかがわかります。それは、常に前へ前へと進んで行く三宅の姿と重なって見えてきます。(三宅の辞書には、"止まる"という文字がないようです。)

また、一体一体の衣服から放たれるパワーのすごさには驚かされます。それは、三宅をはじめてとして、スタッフや生産にかかわる人たちの衣服へかけた思いが込められているからでしょう。三宅が指揮する人間賛歌、つまり、人生への賛美の歌声が聞こえてくるようです。


issey5160531.jpg

国立新美術館「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」セクションCの展示風景





■三宅一生の作品が、メトロポリタン美術館で開催中の展覧会に展示されています。

ここで、5月5日から、ニューヨークのメトロポリタン美術館で開催されている、「manus(手)×machina(機械) : テクノロジーの時代のファッション」展に触れたいと思います。

展覧会では、オートクチュール=ハンドメイド、プレタポルテ=マシンメイドという図式とその優劣に疑問を投げかけています。実際、ミシンが発明されてからオートクチュールではミシンを使っていますし、高級既製服であるプレタプルテにおけるマシンメイドも手作業と遜色のない刺繍などがあります。手仕事と機械を巧みに取り入れてつくられた、50人以上のデザイナーによる創造性豊かな作品、およそ170点が展示されています。

そのメインとなるデザイナーの一人として、三宅の作品が多く展示されています。縫製工程のない「コロンブ」にはじまり、プリーツの技法から「フライング・ソーサー」と「リズム・プリーツ」、そして、リアリティ・ラボチームによる「132 5. ISSEY MIYAKE」まで。どれも、造形的にも美しい、平面の状態が一緒に展示されており、三宅の仕事が、いかに他の作品とは異なっているかが明快に理解できます。展覧会の作品の中には、着用が難しい実験的なものもあるなかで、三宅の服は、芸術性に加え、機能性も実用性も兼ね備えている点で並外れているのです。


issey6160531.jpg

左から マドレーヌ・ヴィオネ イブニングドレス(1936)、ドレス2体と平面 三宅一生「コロンブ」ドレス(1991 S/S)、
マダム グレ イブニングアンサンブル(1975)、三宅一生「ウォーターフォール・ボディ」アンサンブル(1984-85 A/W)


issey7160531.jpg

三宅一生「フライング・ソーサー」ドレス(1994 S/S)



■5月27日、「MIYAKE ISSEY展: 三宅一生の仕事」の入場者が10万人を超えました。

国立新美術館が開催する自主企画展で10万人を達成するのは、2007年に開館して以来、初めての快挙ということです。
10万人目となったのは、イサベル・ファン・ダーレンさんとユディット・スタルペルスさん。イサベルさんは、日本在住の日本とオランダの歴史を専門とする研究者。友人のユディットさんもオランダの方で、デュッセルドルフ在住の記者。日本に住んでいたこともありますが、今回はこの展覧会のために来日したということです。


issey8160531.jpg

左から イサベル・ファン・ダーレンさん、ユディット・スタルペルスさん、館長の青木保氏


■追記です。

「132 5. ISSEY MIYAKE」の革新性を、多くの方に伝えたいと思っていたとき、三宅一生氏より大きなチャンスをいただき、三宅デザイン事務所の協力をえて、『Creativity is Born 三宅一生|再生・再創造』(編著:清水早苗)を、この3月に上梓することができました。荒木経惟氏にモデル撮影していただいた『132 5. ISSEY MIYAKE』の初期の服も、展覧会に展示されています。合わせて是非御覧ください。

『Creativity is Born 三宅一生|再生・再創造』については、pie.co.jp/search/detail.php?ID=4792を、ご覧ください。



shimizusanaeprof.jpg


清水早苗 Sanae Shimizu
ジャーナリスト・エディター・クリエイティブディレクター
文化ファッション大学院大学 非常勤講師

スタイリストを経て、ファッション雑誌の構成、カタログ制作のディレクターとして活躍。その一方で、パリ・東京コレクション、デザイナー等の取材を通して、衣服デザインに関する記事を、デザイン誌、新聞に多数寄稿。代表的な仕事として、「新・日曜美術館」(NHK)における「三宅一生展」監修(2000)。川久保玲に焦点をあてた「NHKスペシャル」では企画からインタビュー、制作まで携わる(2002)。「アンリミティッド;コム デ ギャルソン」(平凡社)編者。「プリーツ プリーズ イッセイミヤケ10周年記念」冊子(エル・ジャポン)の編集(2002)など。また、日本の繊維・ファッションの創造性を発信する情報誌の編集や展示会、セミナー等のディレクションに従事する。
最近では、大手量販店の衣服・雑貨のデザイン及びデザインディレクター。カタログ通販の創刊にあたり、商品企画、デザインディレクション、カタログ制作に携わる。2010年より2013年まで毎日ファッション大賞選考委員。

MAGAZINE

『装苑』2017年4月号、2月28日発売

calendar

-event -promotion -exhibition

Page Top