清水早苗の布をめぐるクリエイション vol.2:皆川明の20年の仕事を凝縮した「1∞ ミナカケル」展

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text:Sanae Shimizu, photographs:Ebisu Yasutomo ©minä perhonen

ファッションジャーナリスト清水早苗さんによる、布づくりについて、布という素材の可能性、そして、布と人間の関係を探るシリーズが、「清水早苗の布をめぐるクリエイション」としてリスタート。
vol.2では、先日スパイラルで開催されたminä perhonenの20周年記念展を振り返る。



minä perhonen(ミナ ペルホネン)が、設立20周年を記念し、「1∞ ミナカケル」展を、5月20日から6月7日まで、東京・青山にあるスパイラルで開いた。連日、引きも切れずに多くの人が訪れ、来場者は2週間でおよそ4万4千人にも及び、その人気の高さがうかがえた。

同展を見ながら、「皆川明は、デザイナーとして成功したんだな」と、素直に感じた。しかし、皆川は、きっとこのように言われることを心地よく思わないにちがいない。ブランドを維持していくことは、1人でできることではないし、成功という言葉がいかに脆いものかも十分に承知している。そして、まだまだ、ブランドは続いていくのだから。とはいえ、毎年、多くのデザイナーが生まれ、マスコミなどで取り上げられてきたが、そのうちの何人が、自ら立ち上げたブランドを続けることができただろうか。
成功という言葉が、自然にでてきたのは、確固たる独自の世界観を確立したこと、そして何よりも、ブランドを20年継続してきたという事実の裏付けがあるからだ。展覧会では、この2つが凝縮して表現されていた。

minab150616.jpg スパイラルの階段をあがり、受付の左へいくと、1995年から2015年までに発表された服の展示「Parade」と、アトリエ、工場、ショップのそれぞれの一日を追った映像が流れる「日々日々...」の2つのパートで構成されている。

展示された服を見ると、あらためて、テキスタイルにどれだけのエネルギーが注がれてきたかよくわかる。まるで、織りと色の升見本のようなチェック柄。ミナ ペルホネン流のアニマル柄。なかには、トライアスロンの様子をプリントしたユーモアのあるもの。パリで初めてショーを行なった時の服もあった。根強い人気の定番柄のタンバリン。時間の面でも、金額の面でも、試織りにどれだけかかったのだろうか。皆川のテキスタイルへの強い想いが伝わってくる。

「日々日々...」では、アトリエの様子が写し出され、皆川のデスクまわりに加えて、皆川がモチーフを、ささっと一気に描くシーンや、パターンチェックをしているところなども、かいま見ることができる。工場の作業風景では、年配の職人(女性)が、もくもくと、あの美しい刺繍の始末や補修をしている姿を見てはっとした。こういう人がいるから皆川も製品を作れるし、私達も着る喜びを享受できる。後継者がいることを思わず祈ってしまった。また、ハンドプリントの職人が寸分の狂いもなく、一気に染め上げていく姿は、いつ見てもほれぼれするほど"かっこいい"。

その先のアトリウムは、カーテンがかかり、あまり外から見えないようになっている。中に入ってみると、楽しい驚きが待っていた。巨大なモビールが、つり下げられている。服はもとより、ぬいぐるみ、パラソル、椅子にスツール、バックなど、全てのアイテムがつられ、まるで森のようなモビール。その下には、タンバリン柄の大きなソファが置かれている。そういえば、アトリエの映像に、モビールが映っていた。アトリウムから2階へ上がっていくスロープから高い位置で、このモビールを見ると、遊園地のよう。ミナ ペルホネンの世界を象徴する空間だ。

2階のショップから1階に下っていくスペースは、「promnade」。アーカイブから選らばれた布が、波状の壁を作る。服やプロダクトから解き放され、テキスタイルや柄が主役となった空間では、その力強さが緊張感を生んでいた。
布の壁には、ところどころに木製の鳥の巣や、織機が動いている映像が流れるガラスの円形部分がある。

さらに下っていくと、右壁面の「1×1×1...」。そこには、デザイナーのメモやスケッチ、工場や職人とのやりとりなどが、所狭しと散りばめられている。向かい側の壁面には、テキスタイルや柄にまつわる、空想から生まれたストーリーが語られている。

デザイナーの形は、デザイナーの数だけある。
皆川明の場合は、自らの作風、つまり、自然に根ざした温もりのある世界観を作りあげ、それを十分に表現するテキスタイルを創造していったことにある。皆川にとって、糸や布は、絵の具でありキャンパス。そこに描かれるモチーフは、布のもつ触感や色彩といったものと融合し、モダンになりすぎないぎりぎりのラインで、いい意味の素朴さを残しつつ描かれている。

展示内容は、皆川の世界観がどのようにテキスタイルや服になっていくか、また、それを支えるスタッフ、工場の技術者たちへの皆川の目差しが伝わってくる内容となっていた。何度か展覧会に足を運んだが、初期の展示会で初めて会った時の皆川の顔が、何度となく蘇えってきた。その度ごとに少々感傷的になったことを告白したい。「よくここまで来たな」と、心の底から思った。

最後に、タイトル「1∞ ミナカケル」の意味を紹介しておこう。
1∞は、1つの要素が無数に掛け合わさり無限乗を表している。その掛け合わせたものを「積」、英語で「product」。製造物と同語。ミナ ペルホネンが作ってきたものは、まさに、多様な要素の掛け合わせによって作りあげられてきたこと、そして、これからも未来に向かって無限に広がっていくという願いが込められている。

なお、今年10月10日(土)から12月6日(日)まで、長崎県立美術館で、今回の展示をベースにした同タイトルの「1∞ ミナカケル」展が開催される。新しいスペースに合わせて、改めて展示されるということだ。
また、ミナ ペルホネンのものづくりの精神をより深く知ることができる「ミナカケル 手から手へ、受け渡される価値」が、この5月に株式会社ミナから発行されている。


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清水早苗 Sanae Shimizu
ジャーナリスト・エディター・クリエイティブディレクター
武蔵野美術大学、文化ファッション大学院大学 非常勤講師

スタイリストを経て、ファッション雑誌の構成、カタログ制作のディレクターとして活躍。その一方で、パリ・東京コレクション、デザイナー等の取材を通して、衣服デザインに関する記事を、デザイン誌、新聞に多数寄稿。代表的な仕事として、「新・日曜美術館」(NHK)における「三宅一生展」監修(2000)。川久保玲に焦点をあてた「NHKスペシャル」では企画からインタビュー、制作まで携わる(2002)。「アンリミティッド;コム デ ギャルソン」(平凡社)編者。「プリーツ プリーズ イッセイミヤケ10周年記念」冊子(エル・ジャポン)の編集(2002)など。また、日本の繊維・ファッションの創造性を発信する情報誌の編集や展示会、セミナー等のディレクションに従事する。
最近では、大手量販店の衣服・雑貨のデザイン及びデザインディレクター。カタログ通販の創刊にあたり、商品企画、デザインディレクション、カタログ制作に携わる。2010年より2013年まで毎日ファッション大賞選考委員。


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