―文化出版局パリ支局より、イベントや展覧会、ショップなど、パリで日々見つけたものを発信。
左. 1996-'97年秋冬「メゾン マルタン マルジェラ」。Photo: Anders Edström
右. 1998-'99年秋冬「エルメス」。Photo: Studio des Fleurs
パリの装飾芸術美術館で「マルジェラ、エルメス時代」展がスタートした。この展覧会の見どころは、デザイナーのマルタン・マルジェラによる「メゾン マルタン マルジェラ」と彼が手がけた「エルメス」のクリエイションの対比だ。
左.「メゾン マルタン マルジェラ」のデビューコレクション(1989年春夏)のシルエット。肩は狭く尖っている。
右.「エルメス」はゆったりしたシルエット。肩のラインは自然で、ダーツ、ボタンホール、ポケットを極力目立たせない洗練されたデザインになっている。船員のユニフォームからインスパイアされた深いVネックのヴァルーズは、マルジェラによる「エルメス」の代表的なモデル。シャツ、ジャケット、セーターなど、様々なアイテムに応用された。
「メゾン マルタン マルジェラ」のショルダーラインの変化を表したデッサン。
もともとこの展覧会は、アントワープのモードミュージアムMOMUで構想され、昨年開催されたものだが、パリでの展示にあたりマルジェラ自身によって100点以上におよぶ出展品の再構成が行われた。展示の壁は、「メゾン マルタン マルジェラ」は白、「エルメス」はオレンジと色分けされているので、ひと目でどちらの作品なのかがわかる。
左. 1991-'92年秋冬「メゾン マルタン マルジェラ」。
右. 2002-'03年秋冬「エルメス」。
トレンチコートやスモーキングなど、クラシックなマスキュリンのワードローブは、マルジェラが好んで使ったデザインソース。そこから発想された服は両メゾンで見られたが、「メゾン マルタン マルジェラ」は脱構築とクラシックの新たな解釈によるもので、「エルメス」は多様な着方を可能にしたものだった。
左. 袖あり、袖なし、ケープ風と、幾通りもの着方ができる「エルメス」のトレンチ(2003年春夏)。
右. 共に「メゾン マルタン マルジェラ」。手前はオーバーサイズのメンズのトレンチをレディースに用い、新しいボリュームを提案。ベルトはストッキング(2000年春夏)。奥はトレンチをカットしたジャケット(2002年春夏)。
トレンチコートを集めた「メゾン マルタン マルジェラ」のルックブックの写真。
ベルギー出身、1988年にパリでデビューしたマルジェラは、型破りなスタイルでモード界に衝撃を与えると同時に、メディアに登場しない姿勢を貫き、ミステリアスな存在となった。
本展では、オーバーサイズ、構築・脱構築、リサイクル、タビブーツなど、マルジェラのシグネチャーも解説。
上. 1996年春夏「メゾン マルタン マルジェラ」。Photo: Marina Faust
下左. 2000-'01年秋冬「メゾン マルタン マルジェラ」。Photo: Marina Faust
下右. 2009年春夏「メゾン マルタン マルジェラ」。Photo: Etienne Tordoir
その彼が、「エルメス」のアーティスティックディレクターに任命されたのは1997年。前衛クリエイターとフランスの伝統あるメゾンの意外な取り合わせは周囲を驚かせることになる。だがマルジェラはメゾンのDNAを巧みに操り、現代のワードローブを見事に作り上げたのだった。
マルジェラは、「エルメス」を象徴するコードをダイレクトに見せることはせず、控えめだが巧妙に取り入れた。例えば、「エルメス」のスカーフといえばカラフルなプリントだが、マルジェラはプリントを使うことなく、手巻きの縁かがりをブラウスやチュニックの端処理に用いたのだ。「エルメス」が誇る職人技の伝達である。
このコラボレーションは2003年まで続く。既成概念を壊す数々の革新的なコレクションを送り出した彼は、突如、2008年にモード界を去る。だが、未だ彼に追随する若いデザイナーがいるほど、モード界に与えた影響は大きい。
ガムテープを装飾に用いたハイヒール。
現在のモード界でアーティスティックディレクターは花形の職業だが、彼らは契約を交わすブランドの個性を尊重しながら、自己を主張しなければならないというジレンマを抱えることになる。この展覧会は、マルジェラが自身の仕事を通して"デザインするということ"を教えてくれるものでもあるのだ。
白とオレンジが二つのメゾンを象徴する会場入り口。
Margiela, les années Hermès
「マルジェラ、エルメス時代」
期間:開催中〜2018年9月2日(日)
場所:装飾芸術美術館(Musée des Arts Décoratifs)
107 rue de Rivoli, 75001 Paris
時間:11:00~18:00(木曜〜21:00) 月曜休
入館料:11ユーロ
TEL:+33 (0)1 44 55 57 50
WEB:www.lesartsdecoratifs.fr
Text&Photographs: B.P.B. Paris