手のひらの映画館5(最終回): 映画館でも、自宅でも。期待の新作を20本以上ピックアップ!

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 新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除され、6月1日から都内の映画館も営業再開が可能となった。感染防止のため「劇場の座席は最大で50%しか使えない」など運営側にとって厳しい状況は続くが、制限付きとはいえ「映画館で映画が観られる」日々が戻ってきたのは嬉しい限り。

 映画ファンにとって特に喜ばしいのは、新作の上映が再開したことだろう。やはり、大きなスクリーンと立体的な音響に包まれ、物語の中に没入できる映画体験は、何物にも代えがたい。リラックスした環境での「自宅鑑賞」も楽しいが、ネットやスマホ、さらには日常の有象無象から解放された「観るだけの時間」は、映画との出会いを特別なものにする。

 今回のコロナ禍でわかったこと。映画も映画館も、私たちに無くてはならないものだ。そこで今回は、6月から8月初旬に日本で公開される映画の中から、20本ほどをピックアップしてご紹介。いずれも、劇場で映画を楽しむ素晴らしさを、改めて感じさせてくれる作品たちだ。

 まずは、6月12日公開の『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』。『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督のもとに、シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、『ミッドサマー』のフローレンス・ピュー、ティモシー・シャラメ、メリル・ストリープといったオールスターキャストが集った、文芸ドラマだ。

 作家志望の次女を中心とする4姉妹が、女性の立場が低かった南北戦争時代に「自分らしさ」を追い求めていく姿を、暖かなまなざしで描いた傑作。他者への「思いやり」と「慈愛」に溢れた本作は、心ない誹謗中傷の連鎖が止まない現代にこそ見たい。アカデミー賞に輝いた衣装の数々も、目を潤してくれる。

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『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』
6月12日(金)より、全国順次公開。
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
www.storyofmylife.jp/


 こじらせた男女の恋愛会話劇『15年後のラブソング』も、6月12日公開。映画『アバウト・ア・ボーイ』の原作者ニック・ホーンビィの小説を、名優イーサン・ホークを迎えて映画化した。人生に惑うアラフォーの女性が、隠遁したロックスターと交流し、人生に"ハリ"と"色"を取り戻していく。生活臭漂うセリフのひとつひとつが香ばしく、つい笑わされてしまう。

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『15年後のラブソング』
6月12日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。
© 2018 LAMF JN, Ltd. All rights reserved.
配給:アルバトロス・フィルム
15-lovesong.com/


 社会派映画なら、名匠ダルデンヌ兄弟の最新作『その手に触れるまで』(6月12日公開)。ごく普通の少年が過激な宗教思想に毒され、凶行に走ってしまうさまを力強い筆致で描いた。純粋さと紙一重の狂気、脆弱にも強固にもなる"愛"の神髄について鋭く切り込んだ力作だ。第72回カンヌ国際映画祭では、監督賞を受賞した。

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『その手に触れるまで』
6月12日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
© Les Films Du Fleuve - Archipel 35 - France 2 Cinéma - Proximus - RTBF
配給:ビターズ・エンド
bitters.co.jp/sonoteni/


 6月19日に公開される『今宵、212号室で』は、不思議なホテルに泊まった女性の物語。そのホテルには、20年前の姿をした若々しい夫、さらには歴代の元恋人たちが訪れて......。荒唐無稽な設定だが、マルチェロ・マストロヤンニとカトリーヌ・ドヌーヴの娘キアラ・マストロヤンニの物おじせぬ開けっ広げな演技も相まって、夫婦のつながりを考えさせる大人のおとぎ話に仕上がっている。

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『今宵、212号室で』
6月19日(金)より、Bunkamuraル・シネマ、シネマカリテほか全国順次公開。
©Les Films Pelleas/Bidibul Productions/Scope Pictures/France 2 Cinema
配給:ビターズ・エンド
www.bitters.co.jp/koyoi212/


 巨匠ペドロ・アルモドバル監督の新作『ペイン・アンド・グローリー』(6月19日公開)も控えている。世界的な成功を収めたものの、人生の指針を見失った映画監督(アントニオ・バンデラス)が、自らの過去をさかのぼり、愛の深みを悟っていく。母との関係、映画への想い――。アルモドバル監督の総決算的な、壮大な内容だ。

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『ペイン・アンド・グローリー』
6月19 日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ、 Bunkamura ル・シネマほか全国公開。
配給:キノフィルムズ
©El Deseo.
pain-and-glory.jp/


 韓国の俊英監督キム・ボラが手掛けた『はちどり』(6月20日公開)は、絶賛評が相次いでいる注目作。主人公は、多感な時期を過ごす14歳の少女。家にも学校にも居場所がない彼女が苦しみながらも一歩ずつ成長していく過程を、柔らかく清らかな映像で紡いでいる。

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『はちどり』
6月20日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開。
配給:アニモプロデュース
©2018 EPIPHANY FILMS.ALL RIGHTS RESERVED.
animoproduce.co.jp/hachidori/


 レイシストの男性が再生を目指す実話ドラマ『SKIN/スキン』(6月26日公開)では、『リトル・ダンサー』のジェイミー・ベルが全身タトゥーの主人公になりきり、強烈な演技を披露している。同日公開の『ワイルド・ローズ』は、歌手を目指すシングルマザーの苦悩と奮闘を力強く描いた音楽ドラマ。こちらも、俳優陣の全身全霊の熱演に圧倒される。

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『SKIN/スキン』
6 ⽉26 ⽇(⾦)より、新宿シネマカリテ、 ホワイト シネクイント、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開。
© 2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.
配給:コピアポア・フィルム
skin-2020.com/

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『ワイルド・ローズ』
6月26日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。
©️Three Chords Production Ltd/The British Film Institute 2018
cinerack.jp/wildrose/


 7月に入っても、良作が続々。国内の作品では、7月3日公開の『MOTHER マザー』。少年が祖父母を殺害した実際の事件から着想を得た本作は、本能の赴くままに生きる狂的な母親と、彼女に虐げられながらも、母を護ろうとする息子の数奇な運命が紡がれる。長澤まさみが従来のイメージを覆す怪物っぷりを見せており、大いに話題を集めることだろう。

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『MOTHER マザー』
7月3日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開
配給:スターサンズ
ⓒ2020「MOTHER」製作委員会
mother2020.jp/


 『ベッカムに恋して』のグリンダ・チャーダ監督による音楽青春ドラマ『カセットテープ・ダイアリーズ』(7月3日公開)は、ふさぎがちな心に爽快な風を吹き込んでくれる。1980年代のイギリス。厳格な家庭に育ったパキスタン人の少年が、ブルース・スプリングスティーンの音楽と出会って覚醒。試練を乗り越え、自分の夢に向かってひた走っていく。

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『カセットテープ・ダイアリーズ』
7月3日(金)より、TOHO シネマズ シャンテ ほか全国ロードショー
配給:ポニーキャニオン
©BIF Bruce Limited 2019
cassette-diary.jp/


 長らく公開が見送られていたウッディ・アレン監督の『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』も、7月3日に公開の日を迎える。本作では、ティモシー・シャラメとエル・ファニングという今旬スターが共演。ニューヨークを訪れた恋人たちが巻き込まれる恋のから騒ぎを、アレン監督お得意の軽妙なテンポとユニークなセリフの応酬で魅せる。

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『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
7月3日(金)より、新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開。
©︎2019 Gravier Productions, Inc. Photography by Jessica Miglio ©︎2019 Gravier Productions, Inc.
配給:ロングライド
longride.jp/rdiny/


 いま、世界で最も注目を浴びる配給・制作会社「A24」の新作も、連続公開。7月10日には『WAVES/ウェイブス』、8月7日には『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』、9月4日には『mid90s ミッドナインティーズ』、10月9日には『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』が封切られる。どの作品も映像センスや着眼点、文化度などの"個性"が際立っており、観ごたえは十分。4か月連続でA24作品が観られるのは、これまでにはない"お祭り"だ。

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『WAVES/ウェイブス』
7月10日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:ファントム・フィルム
©2019 A24 Distribution, LLC. All rights reserved.
www.phantom-film.com/waves-movie/

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『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』
8月7日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、
新宿シネマカリテほか全国公開。
配給:ファントム・フィルム
© 2018 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
phantom-film.com/dicklong-movie/

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『mid90s ミッドナインティーズ』
9月4日(金)より、新宿ピカデリー、渋谷ホワイトシネクイントほか全国公開。
©2018 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.
配給:トランスフォーマー
www.transformer.co.jp/m/mid90s/

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『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』
10月9日(金)より、新宿シネマカリテ、シネクイントほか全国公開。
配給:ファントム・フィルム
© 2018 A24 FILMS LLC. All Rights Reserved.
www.phantom-film.com/lastblackman-movie/


 メキシコの経済危機を、セレブ妻の視点で描く『グッド・ワイフ』(7月10日公開)は、コロナ不況の現在とオーバーラップする内容ともいえよう。自らを構築する"日常"が崩れていく恐怖と、首をもたげる不安――。絢爛豪華な映像とのギャップが、印象的だ。

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『グッド・ワイフ』
7月10日(金)より、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開。
配給:ミモザフィルムズ
© D.R. ESTEBAN CORP S.A. DE C.V. , MÉXICO 2018
goodwife-movie.com/


 6月・7月は実力派監督の新作が集中しているが、フランソワ・オゾン監督の『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』(7月17日公開)もその一つ。米アカデミー賞受賞作『スポットライト 世紀のスクープ』でも題材となった「神父による児童への性的虐待」の根深い問題を、サスペンスフルに暴き出していく。

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『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』
7月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開。
配給:キノフィルムズ/東京テアトル
©2018-MANDARIN PRODUCTION-FOZ-MARS FILMS-France 2 CINÉMA-PLAYTIMEPRODUCTION-SCOPE
www.graceofgod-movie.com/


 『ミッドサマー』で話題になったスウェーデン発のヒット作『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』(7月17日公開)は、結婚40年目にして夫の不貞を知った妻が、自分だけの人生を見つけようと再出発を図るハートフルドラマ。同日公開の『リトル・ジョー』は、人々を狂わす怪しい植物をビビッドな色彩で描いたお洒落なホラーだ。主演のエミリー・ピーチャムが第72回カンヌ国際映画祭で主演女優賞に輝いており、どんな演技が観られるのかも気になるところ。

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『ブリット=マリーの幸せなひとりだち』
7月17日(金)より、新宿ピカデリー、YEBIS GARDEN CINEMA、ヒューマント
ラストシネマ有楽町ほか全国公開。
配給:松竹
© AB Svensk Filmindustri, All rights reserved
movies.shochiku.co.jp/bm/

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『リトル・ジョー』
7/17(金)アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開。
配給:ツイン
© COOP99 FILMPRODUKTION GMBH / LITTLE JOE PRODUCTIONS LTD / ESSENTIAL FILMPRODUKTION GMBH / BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THE BRITISH FILM INSTITUTE 2019
littlejoe.jp/


 8月は新型コロナウイルス感染症の状況によって、公開作も追加されるだろう。現在発表されている範囲で、紹介していきたい。8月7日には、前述したA24印の怪作『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』と、シャイア・ラブーフの半生が礎となった人間ドラマ『ハニーボーイ』が公開される。前者は、田舎町で起こった殺人事件の衝撃的な真相に、唖然とさせられるミステリー。後者は、子役と父親の歪だが、愛おしい関係性を見つめた感動作だ。

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『ハニーボーイ』
8月7日(金)より、 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開。
配給:ギャガ
© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
gaga.ne.jp/honeyboy/


 ここまでは劇場公開作を紹介してきたが、配信作品の動きはどうだろうか。Netflixでは、公開延期になっていたアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』を6月18日から独占配信する。猫となった少女が、片思いの相手と交流していく切ないラブストーリーだ。オリジナル作品としては、『呪怨』シリーズ最新作『呪怨:呪いの家』が、7月3日から配信開始だ。

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Netflixアニメ映画『泣きたい私は猫をかぶる』
2020年6月18日(木)、
Netflixにて全世界独占配信

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Netflixオリジナルシリーズ『呪怨:呪いの家』(全6話)
2020年7月3日(金)、
Netflixにて全世界独占配信


 Huluでは、山下智久が出演した、南極が舞台のサスペンス『THE HEAD』が6月12日から配信開始される。Amazon Prime Videoでは、三谷幸喜が脚本・演出を務め、香取慎吾が主演するドラマ『誰かが、見ている』を秋にスタートさせる予定だ。余談だが、AppleTV+で配信が始まったばかりの『親愛なる...』もオススメ。スパイク・リー監督やスティービー・ワンダーら偉人たちに人生を救われた人々が、感謝の手紙を本人に送るドキュメンタリーだ。

 また6月11日からは、ウォルト・ディズニー・スタジオによる動画配信サービス「ディズニープラス」がついにスタート。『アナと雪の女王2』が見放題ラインナップに加わるほか、実写版『わんわん物語』、『トイ・ストーリー』の新作短編、ディズニーに関連するドキュメンタリーなど、オリジナル作品も多数配信されるという。

 『るろうに剣心』や『名探偵コナン』など、来年まで公開延期を決めた作品もあるが、上に挙げたように公開・配信作品に関わらず、新作がひしめき合っている状況だ。新型コロナの影響で、劇場公開を配信に切り替えるケースも世界的に増えてきており、コンテンツ不足に悩まされる心配は、現在のところはなさそう。世界的にストップしていた映画やドラマの撮影も、少しずつ再開を始めている。

 最後に付け加えさせていただきたいのは、冒頭にも述べた映画業界の厳しい現状だ。新作公開に踏み切ったものの、ビジネスとしては苦しい状況が続くのは明白。だからこそ、映画を愛する人々の"支援"が、これまで以上に必要となる。月に1本劇場鑑賞数を増やすだけでも、きっと大きな助けになるはずだ。

 新型コロナウイルスは、我々が過ごす日常を一変させ、未曽有の危機に陥れた。しかし、芸術も娯楽も止まらない。作り手が意匠を凝らし、届け手が想いを託した映画たちが、劇場で観客を待っている。今回の記事が、皆さんの鑑賞候補選びの助けとなれれば、嬉しい。

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