手のひらの映画館。オンライン上で見られる映画・映像作品を 映画ライターSYOさんがピックアップ4:制約の中の創造性、珠玉の「リモート作品」

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『いまだったら言える気がする』より。© 2020 SS ROBOT

text:SYO

 6月も間近になり、2020年も折り返し地点に差し掛かっている。まだ予断を許さない状況だが、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため敷かれていた緊急事態宣言も、ほとんどの県で解除された。
 とはいえ、全世界的に"日常"はまだ戻ってきてはいない。映画業界においても、新作の製作はほぼ完全にストップ。公開延期になった作品たちも、新たな公開日は決まっていないものがほとんどだ。
 しかし、暗い話題ばかりではない。「こんな時だからこそ」と新たな形態の作品作りに勤しむクリエイターたちもいる。俳優・監督・脚本家......彼らが魅せる"もの作りの情熱"は、困難な今を耐え抜く勇気を与えてくれるだろう。
 今回は、そんな「コロナ下で作られた作品たち」をいくつかピックアップして紹介する。

 まずは、『帰れない二人』などで知られる名匠ジャ・ジャンクー監督による、新型コロナウイルスをテーマにした『来訪』。ウイルスが猛威を振るう中での打ち合せ風景を追った、短編映画だ。

『来訪』(VISIT)
監督:ジャ・ジャンクー

 本作は、映画監督のもとをスタッフが訪ねてくるシーンから始まる。まずは検温、握手もできず、出迎えのお茶代わりに消毒液が渡され......と、我々の"新たな常識"となった手順や行動が淡々と、だが鋭い視点で描かれていく。基本的にはモノクロで構成されているが、目に留まる花瓶や窓の外の風景がカラーになるという演出が施され、「外に出たい」という我々の切なる願望を示しているかのよう。

 ラストシーンは、監督とスタッフがあるフィルムを観る光景で幕を閉じるが、今を生きる我々にだからこそわかる哀切なメッセージが忍ばされている。4分とは思えない密度と、感慨が波のように押し寄せる一作だ。

 続いては、行定勲監督によるリモート映画『きょうのできごと a day in the home』。このタイトルを見て、彼のファンはニヤッとするのではないか。そう、これは行定監督の過去作『きょうのできごとa day on the planet』に由来するもの。同作と同じく、今この世界で起こっているかもしれない誰かの出来事を描いた、40分強の作品だ。

『きょうのできごと a day in the home』
出演:柄本佑、高良健吾、永山絢斗、アフロ( MOROHA )
    浅香航大、有村架純
監督・脚本:行定勲
企画・脚本:伊藤ちひろ、プロデューサー:丸山靖博(ROBOT)、吉澤貴洋(セカンドサイト)© 2020 SS ROBOT


 オンライン同窓会を開催した5人の男性。たわいない話や思い出語り、武勇伝などでだらだらと平和な飲み会を行っていたが、全員と因縁を持つ女性が参加したことで、場は一気に騒然とする......。

 リアルとフィクションの間をふわふわと漂うようなセリフと役者の身体性のギャップが独特の風味を醸しており、かなりの新味映画と言えよう。編集を挟まないため、観客と登場人物が同じ時間を共有する演劇的なアプローチも、我々の鑑賞態度に訴えかけるよう。Zoom会議で「黙って画面を見続ける」苦労を味わっている方も多いだろうが、その感覚がオーバーラップするのだ。

 実験精神にあふれながら、柄本佑、高良健吾、永山絢斗、アフロ(MOROHA)、浅香航大、有村架純といった豪華なキャスト陣が拝めるのは、行定作品ならではだろう。なお、リモート作品の第2弾として、中井貴一、二階堂ふみ、アイナ・ジ・エンド(BiSH)が共演した『いまだったら言える気がする』も公開中だ。

『いまだったら言える気がする』
出演:中井貴一、二階堂ふみ、アイナ・ジ・エンド(BiSH)
監督・脚本:行定勲
企画・脚本:伊藤ちひろ、プロデューサー:丸山靖博(ROBOT)、吉澤貴洋(セカンドサイト)© 2020 SS ROBOT

 3作品目は、上映プロジェクト「SHINPA」のYouTubeチャンネル。ここでは、柄本佑、前野朋哉、佐津川愛美といった役者たちによる監督作品や、今泉力哉監督、松居大悟監督による新作を公開している。

 「24人がそれぞれ、『映画制作のための外出』をせず、在宅ですべての作業を完結させるプロジェクト」をコンセプトにしており、今後は深田晃司監督や、ロックバンド「黒猫チェルシー」(現在は活動休止中)の渡辺大知の作品が控えている。noteで製作者のインタビューや舞台裏解説も行っており、作品の裏側にある想いに触れられるのも本プロジェクトの特徴だ。

 それぞれの意匠を楽しめる作品群だが、映画『チワワちゃん』の監督や、DEAN FUJIOKAのミュージックビデオを手掛けた二宮健は、クレイアニメに初挑戦。

『HOUSE GUYS』全3話
声の出演:篠原悠伸、門脇麦、アベラヒデノブ、小林達夫
監督:二宮 健

 コロナ禍のなか、恋や友情といったかけがえのないつながりを大切にするキャラクターたちを優しいまなざしで描いている。門脇麦が声優を務めている点にも注目だ。

 『カメラを止めるな!』チームが再結集した『カメラを止めるな!リモート大作戦!』も、大いに話題を集めた1本。

 『カメラを止めるな!』の後日談的な位置づけで、前作に続きまた無茶ぶりをされた監督(濱津隆之)が、完全リモートでモキュメンタリー(フェイクドキュメンタリー)的な実録モノの製作に挑む。

『カメラを止めるな!リモート大作戦!』
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、どんぐり、大沢真一郎、秋山ゆずき、長屋和彰、市原洋、細井学ほか
監督・脚本・編集・企画:上田慎一郎
プロデューサー:上田慎一郎、市橋浩治、ラインプロデューサー:鈴木伸宏、制作:津上理奈 ふくだみゆき、制作:株式会社PANPOCOPINA、制作協力:ENBUゼミナール ©カメラを止めるな!リモート大作戦!

 この作品で印象的なのは、癖の強いキャラクターが再び観られるお得感、そして「映画を作る喜び」が全体に漂っていることだろう。作り手たちの笑顔をじっくりと見せ、『カメラを止めるな!』に通じる"現場愛"をひしひしと感じさせる。監督の娘(真魚)が「外に出られるようになったらしたいこと」を語るうちに涙ぐみ、「また、現場で」と父と誓い合うシーンが感動的だ。

 5月21日23:59までの限定公開だが、柄本時生、岡田将生、落合モトキ、賀来賢人の役者4人組が結成した「劇団年一」による『肌の記録』も非常に秀逸な作品。

『肌の記録』
出演:劇団年一(柄本時生、岡田将生、落合モトキ、賀来賢人)
脚本・演出:加藤拓也

 疫病が蔓延し、人類が家から出ずに生活するようになった近未来が舞台。「実際に会ったことはない」オンラインでつながった30歳の親友4人が、自分たちの過去を「6歳」「11歳」といった具合で自ら演じるという、凝った設定の妙が光る。2週間に及ぶ稽古を経て一発撮りしたという、4人の表現力には舌を巻くばかりだ。

 今回紹介した作品以外にも、ウォルト・ディズニー・スタジオは『アナと雪の女王』の新作短編群を製作し、NHKは名脚本家・坂元裕二を迎え、広瀬アリス、広瀬すず、永山瑛太、永山絢斗、中尾明慶、仲里依紗、青木崇高、優香、阿部サダヲ、壇蜜といった強力な出演陣によるリモートドラマの制作を発表。サントリーは「話そう。」というキャンペーンをスタートし、他では観られないような多彩なゲストが「家で話す」動画シリーズを公開している。

 それ以外にも、朗読劇や、各ミュージシャンによる過去のライブ映像の配信、或いは自宅ライブなども合わせれば、コンテンツは無限大だ。全国の動物園や水族館によるライブ配信なども人気を集めており、数えきれないほど多くの人々が今、娯楽を届けようと動いている。

 「STAY HOME」で人と会えない状況ではあるが、我々は決して「独り」ではない。これらの試みから感じられる、その事実が、何より心を勇気づけてくれるメッセージなのかもしれない。

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