
text:Sanae Shimizu
ファッションジャーナリスト清水早苗さんによる、布づくりについて、布という素材の可能性、そして、布と人間の関係を探るシリーズ「清水早苗の布をめぐるクリエイション」。vol.4では、スイスの家具メーカーVitraとロナン&エルワンブルレックによる「Workbays」をご紹介する。
人は、多くのものに囲まれて暮らしている。何に囲まれているかと思いめぐらしてみると、この言葉の範囲は意外に広い。ものだけでなく人にも囲まれているし、衣服も、身体を密接に囲むものとも言える。部屋にも建物にも、環境にも囲まれている。良いものに囲まれていると、人は安心感を得られる。
この"囲まれる"という感覚を思い起こしてくれたのが、Workbays(ワークベイズ)に出会った時だった。ひとりで狭い場所にこもる感覚や、キャンプでテントの中に友達と集まった時のあの一体感。パネルと天板というシンプルな構造、モダンなデザインにも魅了された。日本のオフィスでよく見かける"仕切り"といえば、スチール製にしても、布製にしても、どこか素っ気ない感じがしていた。それに対して、Workbaysの温もりのあるパネルに囲まれれば、仕事がはかどることは容易に想像できた。
Workbaysは、スイスの家具メーカーVitra(ヴィトラ)が、世界的に活躍するデザイナー、ロナン&エルワンブルレック(通称、ブルレック兄弟)と協業し、およそ2年をかけて開発。発表されたのは、2012年のことだった。
構造は、パネルとアルミニウム製の支柱で構成されている。パネルに使われている素材は、高圧縮されたポリエステルフリースで、Vitraのオフィスファーニチャー用に、ブルレック兄弟によって開発された。特長は、軽量で頑丈、その上、吸音性にすぐれ、周辺環境のノイズを吸収するため、電話や会議も快適に行える。また、読書やコーヒーブレイクといったリラックスする場にもなる。高さは、1135mm、1390mm、1915mmnの3タイプ。形状も、角となる部分はやさしくアールを描き、オーガニックな印象を与えている。

パネルとシートの色は、オレンジ、グリーン、ダークブルー、シーブルー、ライトグレイの5色。天板は、ホワイトとブラック、支柱はライトシルバーとディープブラックの2色から選べる。まるで、衣服のように、楽しいカラーコーディネイトができるようになっており、自由度の高さを物語っている。
それまで、ノンアドレスのオフィススタイル、つまり、PCとともに移動し、オープンな環境で仕事をするという流れだったが、オープンすぎて集中できない、電話の声なども気になるという問題が生じてきていた。そういう中、開発されたWorkbaysは、bay(海の湾、入り江の意)を、オフィス空間に自由に作り出すことができ、オープンでありながら、打ち合わせや仕事に集中できるスペースを確保することを可能にする。従来のオフィスのあり方を打ち破った、画期的なオフィスファーニチャー システムといえる。
囲まれるもの自体からも、囲まれるものと身体の間に生じる空気感からも、人は精神的にも肉体的にも強い影響を受ける。多くの時間を過ごすオフィス空間はもとより、囲まれるものにもっと気を使いたいものだ。


清水早苗 Sanae Shimizu
ジャーナリスト・エディター・クリエイティブディレクター
武蔵野美術大学、文化ファッション大学院大学 非常勤講師
スタイリストを経て、ファッション雑誌の構成、カタログ制作のディレクターとして活躍。その一方で、パリ・東京コレクション、デザイナー等の取材を通して、衣服デザインに関する記事を、デザイン誌、新聞に多数寄稿。代表的な仕事として、「新・日曜美術館」(NHK)における「三宅一生展」監修(2000)。川久保玲に焦点をあてた「NHKスペシャル」では企画からインタビュー、制作まで携わる(2002)。「アンリミティッド;コム デ ギャルソン」(平凡社)編者。「プリーツ プリーズ イッセイミヤケ10周年記念」冊子(エル・ジャポン)の編集(2002)など。また、日本の繊維・ファッションの創造性を発信する情報誌の編集や展示会、セミナー等のディレクションに従事する。
最近では、大手量販店の衣服・雑貨のデザイン及びデザインディレクター。カタログ通販の創刊にあたり、商品企画、デザインディレクション、カタログ制作に携わる。2010年より2013年まで毎日ファッション大賞選考委員。