清水早苗の布をめぐるクリエイション vol.3:プリーツ プリーズ イッセイミヤケの"躍動感の美"を映像と音で体感する特別企画展「PRISM」-PRISM PHOTOGRAPHY BY FRANCIS GIACOBETTI-

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text:Sanae Shimizu / photograph:Yasuaki Yoshinaga, 2015

ファッションジャーナリスト清水早苗さんによる、布づくりについて、布という素材の可能性、そして、布と人間の関係を探るシリーズ「清水早苗の布をめぐるクリエイション」。
vol.3では、今週末6月21日(日)まで開催中の企画展「PRISM」PHOTOGRAPHY BY FRANCIS GIACOBETTIをご紹介する。



映像と音とがシンクロする空間を創出する試み、「写真家フランシス・ジャコベッティが捉えたプリーツ プリーズ イッセイミヤケ」が、東京・代官山にあるDIKANYAMA T-SITE GARDEN GALLERYで開かれている。会期は、6月21日(日)まで。(入場無料)

1960年代からヴォーグ誌などで、ファッション写真を手掛けていたフランシス・ジャコベッティ(以下、F・ジャコベッティ)。筆者がその写真に触れたのは、確か70年代だったと思う。それ以来、記憶に深く刻み込まれている。当時は、フランスやイギリス、イタリアの雑誌を飾る創造性に富んだファッション写真の数々は、憧れであったし、目標でもあった。そのなかでも、ファッションフォトグラファーではなかったF・ジャコベッティが、独自の視点からとらえた、妖美と神秘をたたえ写真は、ファッション写真界に強烈なインパクトを与えた。1980年からライフワークとして始めた、現代の巨匠のポートレイトとその人の瞳の虹彩を一組にしたプロジェクト「HYMN」は、画家フランシス・ベーコンを撮影した作品とともに、代表作として高い評価を得ている。

30年前、写真史始まって以来の世界の偉大な写真家40名を紹介する本、「Techniques of the world's Great Photographers (世界の偉大な写真家の技術)」(ファイドン社)が出版された。ナダール、アルフレッド・スティーグリッツ、エドワード・スタイケン、アウグスト・ザンダー、マン・レイ、カルティエ=ブレッソン、リチャード・アヴェドン、アーヴィング・ペンといった錚錚たる巨匠たちと並んで、F・ジャコベッティの名前をみつけることができる。いかに彼の創造性が認められているか、この事でもよくわかる。

F・ジャコベッティは、1999年から2001年、それから、2012年から最新シーズンまで、プリーツ プリーズ イッセイミヤケのプロモーション写真の撮影を行っている。シャープなタッチに加えて、モデルと服が創り出す躍動感とモダンな造形美。モーション的、つまり、最上の一瞬を捉えた新しい彫刻のような写真に、だれしも感動をおぼえずにはいられないだろう。

ジャコベッティは、三宅の仕事について、
 「三宅一生のクリエイションは、人々の身体を包み込む音楽のようだ。
  その夢のような独創性が、ダンスへといざなう。
  彼は、未来のエレガンスをも形づくるデザイナーだ。」
と、自らのホームページで述べている。まさにこの想いが、一連のプリーツ プリーズの作品に表現されている。

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左)PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE, SPRING SUMMER 2000 右)PLEATS PLEASE ISSEY MIYAKE, SPRING SUMMER 2013

「PRISM」展では、およそ9m×6m、天井高約6mの空間を囲む面に映像化されたF・ジャコベッティによる写真が、オリジナルの音とともに映写される。この映像を制作したのは、中村勇吾(tha Itd.)。ユニクロのウエブデザインやNHK教育番組「デザインあ」のディレクションで知られる注目のクリエーターだ。
企画展のタイトルをPRISMとしたのも、中村。F・ジャッコベッティの作品、「Zebra 17」からインスパイアされ、「プリズムの中にいるように、映像と音で全身が包まれ、さらに、中に入っている人に写真が投射されて模様のようになる」空間を目指したという。

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Zebra 17, Photograph, print 2012

映像は、約2分間の長さのものが3回写し出され、およそ6分間で1つの作品になっている。使われた写真は、70〜80枚。「写真の組み合わせがランダムになるように、コンピュータが写真を選ぶ」ように、プログラミングされている。技術的には、立体的に映写し、オリジナルの音楽とシンクロして次第に高速に回しており、基本的にはスライドショーだという。というと、一見簡単そうに思えるが、このプログラミングは、誰でもができるというレベルではなく、中村も含めて2人で制作し、3週間もかかっている。
「PCで予測しながらつくっていたものの、この空間に投射されるまで予想がつかなかった。思っていたより激しく、違う空間になった」と、中村は、制作におけるおもしろさを振り返っていた。
空間の中にいると、前後、横、そして、床面に写し出される躍動感溢れる写真が、さらにダイナミックに変わっていく。神経が1箇所に集中したり、拡散したりする。また、身体の向きを変えて、集中、拡散。目が眩むような一瞬もあり、確かに、目に見えないプリズムの中にいるように感覚になった。

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Yasuaki Yoshinaga,2015

「暮らしのなかでこそ、デザインの存在価値はある」という、三宅一生の考えを実現したプリーツ プリーズは、「着る彫刻」とも言われている。着る人を精神的にも肉体的にも自由にしてくれるだけでなく、さまざまな体型に対応し、美しいフォルムを生み出す。その上、収納やメンテナンスも易しいという多くの利点を備えている。そういったプリーツ プリーズの魅力に加えて、「PRISM」では、躍動する美しさ、あるいは、躍動感の中に見いだすことのできる美しさ、"躍動感の美"とでもいうべき魅力が伝わってきた。決して広い空間ではないが、プリーツ プリーツにそなわっている広がりや可能性を、改めて感じさせてくれる大きな空間となっていた。

isseyf150619.jpg 同展の概要に関しては、
www.isseymiyake.com

フランシス・ジャコベッティ氏のHPは、
www.francisgiacobetti.com

なお、6月25日(木)12:00〜13:00「三宅一生 デザインのココチ」が、NHK BSプレミアムにて再放送される。


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清水早苗 Sanae Shimizu
ジャーナリスト・エディター・クリエイティブディレクター
武蔵野美術大学、文化ファッション大学院大学 非常勤講師

スタイリストを経て、ファッション雑誌の構成、カタログ制作のディレクターとして活躍。その一方で、パリ・東京コレクション、デザイナー等の取材を通して、衣服デザインに関する記事を、デザイン誌、新聞に多数寄稿。代表的な仕事として、「新・日曜美術館」(NHK)における「三宅一生展」監修(2000)。川久保玲に焦点をあてた「NHKスペシャル」では企画からインタビュー、制作まで携わる(2002)。「アンリミティッド;コム デ ギャルソン」(平凡社)編者。「プリーツ プリーズ イッセイミヤケ10周年記念」冊子(エル・ジャポン)の編集(2002)など。また、日本の繊維・ファッションの創造性を発信する情報誌の編集や展示会、セミナー等のディレクションに従事する。
最近では、大手量販店の衣服・雑貨のデザイン及びデザインディレクター。カタログ通販の創刊にあたり、商品企画、デザインディレクション、カタログ制作に携わる。2010年より2013年まで毎日ファッション大賞選考委員。


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