スタイリスト 佐野夏水×アクセサリーデザイナー 大木海×装苑編集部。ファッションフェスティバルで開催された、スペシャルトークショーの様子をお届け!

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photographs:Yudai Kusano(B.P.B)

2019年7月31日(水)に開催された、文化服装学院のオープンキャンパス「ファッションフェスティバル」。この日、発売中の装苑9月号の特集「絶対衣装。」と連動したトークイベントが開催されました。ゲストは本特集に登場したスタイリストの佐野夏水さんと、佐野さんと幼なじみであり、ハンドメイドのアクセサリーブランド「CAMEL」デザイナーの大木海さん。

トークでは、佐野さんと大木さんが一緒に手がけた数々の衣装の制作秘話とともに、同校の卒業生のお二人による学生時代のエピソードや、これからファッション業界を目指す学生のみなさんへのアドバイスも。今回は装苑ONLINEで、特別にトークショーの内容をお届けします。

装苑編集部(以下、装苑):まずは、佐野さんと大木さんがお二人で手がけられた衣装のお話からおうかがいします。最新のお仕事は、8月9日(金)にシングルリリースされたでんぱ組.incの新曲「ボン・デ・フェスタ」のアーティスト写真ですね。
この衣装には、どんなテーマやコンセプトがありましたか?

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でんぱ組.inc 「ボン・デ・フェスタ」

佐野夏水(以下、佐野):撮影テーマは「海中のイメージ」で、竜宮城をモチーフにした絵を背景にすることも決まっていました。あとはでんぱ組.incらしく、華やかな衣装をモリモリに盛ったスタイリングで見せたい!というリクエストをいただいていました。

装苑:アーティスト写真は、一目見ただけの人にもそのアーティストの気分を伝えて印象づけるという役割を背負っています。そういった意味で、素材や造形はどのように決定されたのでしょうか?

大木海(以下、大木):衣装のキーワードとして、"毒々しい"、"強烈なインパクト"、"クリア素材を使いたい"も挙がっていました。なのでそのキーワードを元に、ヴィヴィッドな色で全体のインパクトを狙いつつ、黒色では毒々しさを表現し、ギラギラした雰囲気を出すためにメタリックな素材や、スパンコールも取り入れました。全てリメイクで制作しています。

佐野:MVでも同じ衣装を着てもらっていますが、この衣装を作った時点では、そこまで激しいダンスショットではない想定だったので、実はとても動きにくいんですね。ヘッドドレスは重量がありますし、とにかくボリューミー。いただいたテーマの中で、静止画としてのインパクトを追求していた衣装だったんです。

装苑:メンバーのかたそれぞれの可愛さが際立った衣装ですよね。お二人にとって特に印象深いルックはありますか?

佐野:相沢梨紗ちゃんの衣装の背中にある、天女の羽衣のような装飾。この部分を作るのはとても大変でした!

大木:そうだったね。これはオーガンジーにワイヤーを入れることで形を作ったんです。身につけるものとしての重量のバランスもあり、またそれをどのように背中から出すのかという試行錯誤もあって、時間がかかりました。

装苑:それは特殊衣装の領域にも入り込んだ創作ですね。でんぱ組.incならではの衣装の特徴と面白さは、どういったところにあると思いますか?

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佐野:でんぱ組.incの場合、私はライブ衣装は手がけず、MVやアーティスト写真のお仕事をいただくのですが、それはつまり毎回のテーマが明確にある状態なんです。少し前に発表されたものだと「1990年代のストリートスナップ誌をモチーフにする」とか、テーマ性と目指す方向がはっきりしている中で、いかにグループらしさを出すかを大切にしています。

「ボン・デ・フェスタ」のアーティスト写真では、根本凪ちゃんが頭にタコを乗せているのですが、「さすがに嫌かな...?」と不安に思いながらもインパクト面で重要だったので提案したら、彼女がすごく喜んでくれて。そんな風に、どんなにぶっ飛んだ提案をしても着こなしてくれるので、スタイリストとして、でんぱさんのお仕事はとても楽しくて、これが面白さですね。いつも「やりすぎ!?」くらいのものを持っていって、あとで引き算をしていく方法をとっています。

大木:私は今回の「ボン・デ・フェスタ」で、でんぱ組.incの衣装制作に初めて携わりましたが、かなり思い切っているなと感じました。他のグループだと、まとまりを出すためにあえてグループで同じ素材を用いたりするんです。でも今回は素材もバラバラで、それぞれの個性とインパクトを重視しつつ最終的にはこの竜宮城のテーマに沿うようにまとめたことが、他グループのお仕事と比較しても新鮮でした。

装苑:ここで、お二人が共作された別のお仕事「天晴れ!原宿」と「妄想キャリブレーション」の衣装の写真も見ていきたいと思います。それぞれ、どのようにグループの個性を衣装に落とし込まれていますか?

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天晴れ!原宿

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妄想キャリブレーション

佐野:天晴れ!原宿は、そのグループ名からもわかるように、原宿発信のアイドルグループ。そこで、衣装は竹下通りでおしゃれをしているような、ファンシーな子達をイメージしていました。メンバーカラーがあったのでそれを用いつつも様々な色を使って、当時の原宿のストリートファッションの要素を盛り込んでいます。
一方、妄想キャリブレーションは曲調もEDMが多く、ダンスがグループの持ち味のひとつ。なので、スポーティなテーストを基本にしていました。こちらはメンバーカラーを意識しないようにと言われていましたが、素材は共通させています。先ほどのでんぱ組.incの衣装ともまた違う作りかたですね。

大木:なっちゃんが言うように、妄想キャリブレーションは格好良いイメージでした。通常、ボリュームを出したい時はフリルを用いることが多いのですが、妄想キャリブレーションではフリルをあまり付けないようにしようと思っていました。そのぶんテープ使いや布の切り替えの配色を工夫して、インパクトを出すことを意識していました。
天晴れ!原宿は、けっこうやりたい放題だったかも(笑)。素材も、なっちゃんと可愛いと思うものをたくさん買って、組み合わせて。各メンバーのキャラクターによって、フォルムも装飾の仕方も変えています。

装苑:佐野さんの特集記事で取材させていただいた、声優の上坂すみれさんのお仕事についても教えてください。

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装苑9月号 「スタイリスト佐野夏水の 夢を着る衣装」より
写真:川島小鳥

佐野:これまではグループ衣装のお話でしたが、ソロアーティストである上坂すみれちゃんの場合、彼女のことだけを考えてデザインと制作をします。それは使う脳が全然違いますね。グループだとメンバーカラーやキャラクターがあるので、それは衣装に生かすもずらすも、無視できないものなんです。でもすみれちゃんの場合、衣装によって彼女に様々なキャラクターに変身してもらうようなイメージで、そこが楽しいポイントですね。デザインは、すみれちゃんに似合うアイテムや色などをもとに、わりとすんなり決められます。

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大木:上坂さんの衣装は、ほとんどの衣装をリメイクではなく1から作っているよね。細かいところまで丁寧に作られていて、すごいと思います。形もすごく綺麗ですし、体型に合わせた見え方が計算されていて、可愛いなぁって思います。

装苑:これまでのお話から、グループとソロアーティスト、そしてその衣装を着用するのがライブなのかMVなのか、アーティスト写真なのかによっても細かく違いがあることがわかりました。佐野さんと大木さんが最初に一緒にお仕事をされたのが、2016年の「むすびズム」の衣装ですよね。
そもそもお二人は幼稚園からの幼なじみ。静岡から上京後、お二人とも文化服装学院に通われていましたが、卒業後にはしばらく会っていなかったとか。

大木:はい。二人ともそれぞれの仕事に必死で。

佐野:そうだったね。私は文化の2年生のときからフリーのアシスタントをしていたのですが、その間は誰とも連絡を取らないような日々を送っていました。海ちゃんとも全然会わなくなってしまった。

装苑:また会うようになったきっかけは何だったんでしょうか?

佐野:偶然の再会でした。私がラフォーレ原宿に衣装を探しに行った時、後ろから「なっちゃん」という声がして、振り返ると海ちゃんがいて。

大木:その日はブランドを立ち上げて初めてのポップアップショップを開くため、ラフォーレに下見に行っていたんです。そんな時偶然なっちゃんを見つけて、声をかけたあと、抱き合って泣きました。2015年の12月のことです。

装苑:すごいですね。そこから、佐野さんはどういった思いで「むすびズム」のお仕事をご一緒したいと、大木さんに声をかけられたんですか?

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むすびズム

佐野:その頃、有難いことにアイドルグループからの衣装制作のオファーが増えていました。ただ、むすびズムは、制作ではなくリメイクしてくださいという依頼だったんですね。それまでリメイクをしたことがなかったので悩んでいたところに、海ちゃんとの再会がありました。昔から海ちゃんは手を動かすこと、華やかなデザインをすることが得意だと知っていましたので、一緒に出来たらいいなって。こういうお仕事があるんだけど、一緒にやってみない?とオファーしたのが始まりです。

大木:なっちゃんにまた会えただけでも嬉しかったのに、一人でブランドを立ち上げたばかりの頃にすぐ仕事をもらえて、とても有難かったです。幼なじみということもあるのかな、一緒に作る作業もスムーズで、もめたりすることもなく進められています。その後も衣装のリメイクのお仕事をいただくようになって、本当にあのときの出会いが大切でした。

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装苑:学生の頃、文化時代のお話も聞かせてください。佐野さんが文化でスタイリスト科(現:ファッション流通科スタイリストコース)を専攻したのはなぜでしたか?

佐野:もともと私はファッションと絵を描くことが好きで、高校生の頃から洋服に携わる仕事がしたいという漠然とした希望はあったんです。その頃、ファッション雑誌では読者モデルの全盛期。誌面に出ている読者モデルのかたは、たいていお名前と、通っている学校名もあわせて公表していたんですけど、「文化服装学院」とクレジットされているかたは皆、特別おしゃれだったので、学校に興味を持ちました(笑)。それで調べ始めると、スタイリスト科という学科があることを知って。私は1から服を作るよりも、すでにあるものを組み合わせる方が好きだったので、スタイリストについて勉強することが性に合っているのではないかなと思い、専攻を決めたんです。
洋服を作ったりスタイリングしたりする授業だけでなく、ビジネス論、デザイン画、ヘアメイクなど、いろんな授業がありました。様々な選択肢の中から自分にあったものを模索するみたいな感じでしたね。スタイリングの授業が直接的に今役立っているというよりは、幅広く学んだこと全てが自分の力になっています。海ちゃんは、服装科で作るほうだったよね。

大木:うん。私もなっちゃんと同じ。高校を卒業するくらいの時に、ファッション業界では働きたいけど、具体的に何になりたいかまでは決めてなかったんです。服装科なら造形の基礎から勉強できるということだったので、後々どんな仕事に進むことになっても役立つかな、というくらいの気持ちで選びました。学ぶうちに、私は職人的な技術を高めるよりも感性を大事にして物を作る方が向いているなと分かってきて、さらにデザイン専攻に進みました。みんなおしゃれなので、友達からすごく刺激を受けたんですよね。課題でどんなに徹夜が続いても、とにかく毎日爪は塗り替えていってた(笑)。

佐野:わかる。学校は、雑誌で見ていた人達がいる・・・!という感覚で、すごく刺激的でした。パンクの人もいれば、古着を極めている人もいて、みんな好きな物が明確だったので、そういう人の話を聞くのが面白かったです。私は、人と仲良くなるのに時間がかかるタイプなのに、気になるアイテムを身につけてる子には「それどこで買ったの?」ってすぐに話しかけることができちゃったり。コミュニケーションの中心に、常にファッションがある環境でした。

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装苑:それでは、会場の皆様からお二人への質問をお受けします。

Q1:日頃、インプットをするときに心がけていることがあれば教えてください。

佐野:私は、歩くことでしょうか。今はリサーチもネットで完結できる時代ですが、自分の脚を使ってお店に直接見に行くことが、スタイリングに役立つと思っています。原宿とか渋谷とか、とにかく歩いていろんなお店に行きます。自分の好きなお店はもちろんですが、一見スタイリングのテーストとは違うようなB系やパンク系のお店にも寄るんです。そういう場所に意外といい小物があったりして、スタイリングに幅が生まれていきますね。

大木:今の話とは逆かもしれませんが、雑誌や写真、絵本を眺めていることがインプットに繋がっていると思います。昔から1ページ1ページ作り上げられた世界を見るのが好きなのですが、中でも自分はこういうイメージが好きだということを覚えておくために気になったページを写真に収めたりスクラップしたりして、「好き」を貯めていきます。卒業生は利用できるので、今も文化の図書館にはよく行っています。国内外のファッション雑誌もビジュアルブックも充実しているので。

Q2:素材の好みを教えてください。

佐野:私は、ずっとガーリーなものが好きなので、ギャザーを寄せるとボリュームが出るオーガンジーが好きです。

大木:生地表面の変化があるものですね。ツイードのような織りが変わっているもの。布以外だと、ホームセンターにあるホースとか見ていると、ワクワクします(笑)

装苑:ありがとうございます。最後にお二人から、ファッション業界に関心を持っている皆さんにメッセージをお願いいたします。

大木:今いらしているかたの中には、もしかして進路で迷われているかたもいらっしゃると思うんですけど、あまり先のことを考えて「どうしよう」とギュッと不安になってしまわず、その時々にやってみたいことを、まずはやってみることをお勧めします。始めたことから発見があって、またどんどん変わっていくと思います。本日はありがとうございました。

佐野:私も、学校に入ってから色々と模索していたので、今興味があることをやってみるくらいの感じでいいと思います。自分に合っているものを、いつでも探していけばいいと思う。あとはお仕事をしていて実感するのは、人と人との繋がりが本当に大切ということ。まわりの人を大切にしていれば、きっと何事も大丈夫だと思います。ありがとうございました。

【プロフィール】
さの・なつみ 
スタイリスト。文化服装学院 スタイリスト科(現・ファッション流通科スタイリストコース)を2005年に卒業。スタイリスト相澤樹さんのアシスタントを5年務め、'09年に独立。上坂すみれ、でんぱ組.inc、大原櫻子、清竜人 25をはじめ、数々のアーティストの衣装デザイン・制作、スタイリング、そのほか雑誌やブランドのスタイリングを手がける。
www.natsumisano.com

2019年10月11日(金)、12日(土)に開催される清 竜人さん主催の音楽舞台「MUSIC SHOW 2019」のスタイリングを担当 公演情報の詳細はこちら

おおき・うみ 
「CAMEL」デザイナー。文化服装学院 服装専攻科デザイン専攻を2006年に卒業。OEM会社にて企業営業や生産管理を経験後、アパレルブランドでデザイナーとして勤務。退社後、2015年よりハンドメイドのアクセサリーブランド「CAMEL」をスタートする。
www.instagram.com/camel_ig/

「CAMEL POPUPストア」 
2019年10月9日(水)〜10月15日(火) 名古屋三越栄店1F
2019年11月20日(水)〜11月26日(火) 静岡伊勢丹1F
2019年12月26日(木)〜12月30日(月) そごう横浜店B1F

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『装苑』2020年1月号、11月28日発売!

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