びっくりして
びっくりを通り越して
震えてしまって
しばらくその場から立ち上がることができなかった。
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私はその本を
Youtubeを観て知った。
蒼井優さんが
面白い本として紹介されていた
一冊の本。
その紹介されているお姿が
あまりにもウキウキしていらしたので
そんなに面白い本ならばと
今すぐに読みたくなって
私は思わず本屋へ走った。
でも
私はすぐに挫折した。
こういう小説を読むことに慣れていなくて
半年間くらい
少し読んでは挫折して
また少し読んではほったらかしにて...
そんなことをウダウダと続けていた。
そんなある日
家の本棚にポイっとそれを置いておいたら
母親が「読んでもいいか」と尋ねてきたので
「ぜんぜん進まないからいいよ」と答えた。
その数日後
私が見たのは
睡眠時間を削って本を読む
母親の姿だった。
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私は悔しかった。
蒼井優さんも母親も
あんなにウキウキと楽しめる本を
私は読み進めることができない。
本当に悔しくて
初めて意地で本を読んだ。
必死に読んだ。
面白くなくても
とにかく文字に食らいついてみた。
そうしたら
ご褒美かのように
上巻の最後のほうのページから
面白さが
とめどなく降ってきた。
それは納まることを知らず
もう溢れんばかりに降り注いできて
下巻に突入した途端
私は
面白さに震えながら
あっと言う間に突っ走って読んだ。
読み終えたとき
びっくりして
びっくりを通し越して
震えてしまって
しばらくその場から立ち上がることができなかった。
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その数日後
事務所の社長とふたりきりで過ごす時間があった。
私はこの本の話をした。
すると社長はウキウキしながら
「私、大好きなのよ、この本。」と言った。
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今度
私はいつ
この本のことを他人と語らうのだろう。
その時が待ち遠しい。
一冊の本を読むこと。
それは
別々のところで流れていても
こんな風に
時々交わったりするんだな。
本格小説・水村美苗