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渡部玲

ビューティライター

Akira Watanabe 渡部玲

女性誌の編集部、編集プロダクションに勤務した後に独立。現在は、フリーランスのエディター、ライターとして活動。

「NARS」はなぜ多くの人に愛され続けているのか

1994年にデビューしたコスメブランド「ナーズ(NARS)」は今年、25周年を迎えた。

まだ日本に本格的に上陸していなかった頃、1990年代の終わりの撮影現場では、海外でのキャリアもあるヘアメイクアップアーティストのメイクボックスにはぎっしりと収められ、眩しく見えたのを覚えている。当時の「NARS」は、今とはまた違った魅力もあり、特別視されるようなブランドだった。

その後、本格的に国内展開されるようになってからの人気は周知の通りで、近年は限定品を含め、多くの新作を発表。そのアイテム数の多さからも、ブランドの勢いを感じられている人も多いのではないだろうか。

昨今では新しいブランドも参入し、化粧品ブランドは増え続けている。それでも、今もなお、色褪せることなく、むしろ輝きを増し続ける「NARS」。
今回は、高い人気を支えるNARS JAPAN PRマネージャーの福島まどか氏に、氏の考えるブランドの魅力や愛され続ける理由などを訊く。

NARS Iconic Lipstick Inappropriate Red Stylized Image (1).jpg

始まりは12本のリップスティック

----一人のメイクアップアーティストであったフランソワ·ナーズ(François NARS)はなぜ、ブランドを立ち上げようと思われたのでしょう

福島まどか(以下、福島)  「カリタ·メーキャップスクール」を卒業したフランソワは、パリで活動していました。すでに彼の名は知られていたといい、当時US版「VOGUE」誌の編集長で後に「Allure」のクリエーティブディレクターの重責を担ったポリー·メレン(Polly Mellen)に「もっと上に行きたいなら、ニューヨークに来るべきよ」とアドバイスされたそうです。そんな強力な後押しを受け、84年に渡米。その直後から、「ヴェルサーチ(VERSACE)」や「アナ スイ(ANNA SUI)」などのビッグ メゾンのバックステージに入ったり、広告ビジュアルを支えるという大役を長期に亘って任されていました。
しかし、ある日、ふと考えたのです。「自分の使いたい色がない!」と。それがリップスティックだったのですが、彼は「使いたいものが無いなら、自分で作ろう」という結論を出しました。そして、ご存知の通りに94年のデビューを迎えるのですが、それまでのバックステージのサポートや広告ビジュアルの仕事を全てストップし、ブランドとアイテム=リップスティック製作に注力したのです。

----そして、12色のリップスティックを発表されました

NARS Iconic Lipstick Group Stylized Image (Red Packaging).jpg

福島  その12色のリップスティックを初めて発売したのは、ニューヨークの「バーニーズ ニューヨーク(BARNEYS NEWYORK)」です。ここからブランドが始まりました。この12色は、自身のメーキャップでも活躍させます。口紅としてだけではなく、チークやアイシャドーにも使用しました。それが'96年刊行の「ハーパース バザー(Harper's BAZAAR)」誌で、キャロリン·マーフィー(Carolyn Murphy)のメーキャップをリップスティック一本で仕上げます。この掲載によって、お客が店に殺到するほど注目されました。そして、この伝説のリップスティックは、フランソワにさらなるアイデアを与えます。マルチパーパスの「ザ マルティプル」は、この嬉しいハプニングによって生まれ得たのです。

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アイ、チーク、リップ、ボディなど使い方はアイデア次第。そのクリーミーな質感とシアーな発色が、メイクの楽しみ方と可能性を広げる。NARS「ザ マルティプル」(全9色、¥4,800)NARS JAPAN

福島  顔全体に使える「ザ マルティプル」は、リップスティックに着想を得て生まれました。
このエピソードからもわかるように、ブランド全ての軸は彼にあります。ブランド誕生から25年経った今でもデビュー時から変わらないのは、全てのアイテムの最終的な"GO"は彼にあること。もちろん製品開発の部門はあります。しかし、最終的に製品化の可否を行うのは、フランソワなのです。
それでも私は、彼が化粧品を創るためだけに生きてはいないだろうと思っています。"イメージクリエーター"と言った方がしっくりきます。それは、彼のクリエートするものが化粧品の枠に拘っていないからです。商品に縛られていない、自由な発想とでもいいましょうか。


----そんなフランソワが'94年にデビューさせたのは、化粧品ブランドでした

福島  その2年後の、96年にはフォトグラファーに転身します。以降、現在に至るまでメーキャップ アーティストの活動はほとんど行っていません。ディレクションを一手に担っています。フランソワは、真のビューティークリエーターであると感じます。

フランソワ·ナーズという生き方

----とても自由で、柔軟な思考のできるかたなんだろうと想像しています

福島  前例がなくても良いと思ったことはとことんやる! という考えの人です。それも迷いなく。例えば、タヒチはボラボラ島の一つ、モツ·タネ島を買ってしまったこともそう。ロゴやパッケージデザインでブランドデビュー時より「NARS」に関わり、親交の深いファビアン·バロンは、島を購入することに対して「クレイジーじゃないか!」ととても驚いたと伝え聞いています。アメリカから行くとなると、非常に不便な場所。最短でも1日近くを要します。しかし、フランソワは自身の心の声に忠実に従いました。実際、一年の半分近くはこの島で暮らすこともあり、島でのその時間によって生まれた商品はたくさんあります。「タヒチ」という書籍も上梓したほど! フランソワは「この島の全てがインスパイア源だ」といい、購入を決めたのです。

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François Nars 著「FRANÇOIS NARS」(Rizzoli International Publications, Incorporated, 2016)より

シェードネームはフランソワからのメッセージ

----ブランドの象徴、リップスティック。その使い方にフランソワさんらしさを感じる考えはおありになりますか

福島  「とにかく楽しんで。自由に、大胆に、好きなように、思うがままに」という考え方を貫いています。ちなみに、リップスティックのコピー(惹句)があるのです、"No rules.Just lips."です。HOW TOなど気にせず楽しんで、と。
処女作であり、ブランド誕生に大きく寄与した「リップスティック」ですから、彼はもちろんのこと、ブランドにとっても特別なアイテムです。リップスティックそれぞれにシェードネームが付いているのは、商品を通じて女性たちとコミュニケーションしたいとの思いから。シェードネームがあるのは、そんな理由からなのです。

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「FRANÇOIS NARS」(Rizzoli International Publications, Incorporated, 2016)François Nars 著

----以前、と言っても何年くらい前だったのか、もはやはっきりとは憶えていない上に朧げな記憶で恥ずかしいのですが、シェードネームを原稿に記していた頃があったと思います

福島  はい、確かにありました。商標登録の問題から現在の日本では、シェードネームでコミュニケーションできない場面もあるのですが、今でも全てのカラーに、アイテムもリップスティックだけではなく全てのアイテムにシェードネームが付けられているのです。

----シェードネームがあることでどんな色で、どんな思いで創られたものかを想像しやすくなると思います。何より楽しい! ところで、そのシェードネームは、例えば音楽は曲が先か詩が先かは音楽家によって違ったりしますが、フランソワさんはアイテムが完成した後に付けられるのですか? それとも先にシェードネームが生まれるのですか?

福島  その時によって違うそうです。シェードネームが先の時もあれば、完成した後に付けられることもあります。例えば、「NARS」のアイコニックシェード「オーガズム」。ハッとするほど衝撃的な名を付したアイテムもありますが、彼はこのシェードネームに強い拘りを持っているのです。それは、使う人の感情に訴えかけるものでありたいとの願いから。熟考して付けられるそれぞれの名を、言葉を、彼はとても大切に考えているのです。

----「NARS」を象徴するアイテムであるかのように、リップスティックはほとんどのコレクションで新たなシェードを発表されていますね

福島  リップスティックは、一貫して特別なアイテムです。また、近年のコレクションや限定アイテムなどアイテム数も大幅に増えています。「NARS」にしかできないだろうと思える協働企画、アーティストコラボレーションを楽しみにしてくださっている方も多く、毎回、大変に好評です。

----今年、ブランド創設から25年を迎えられ、「NARS」の人気はますます高まっているように感じます。福島さんは、ブランドが長く続けられている理由をどのようにお考えですか

福島  フランソワ·ナーズの魅力と考えています。女性の欲するものを本能で感じ取り、形にします。そんな彼の姿勢をトレンドに迎合しているのとは違うと感じるのは、きっと彼自身がトレンドを作る側にいるからだろうと考えています。毎回、彼の生み出すものには新しい発見があるのです。
私たちが新作を知るのは、そのほとんどが発売される1年ほど前です。「これは、なかなかに難しいのではないのではないだろうか」という感想を持っても、実に不思議なのですが、実際に発売される頃には世間がそのムードになっているのです。2018年に発表したアイシャドーもそうでしたし、色もそう。幾度となくそれを見届けています。

----フランソワさんの立場としては、未来を想像することはとても重要なんだろうと思います。しかし、それを見事に見抜くことのできるのは氏たらしめる力なのでしょう

福島  実にたくさんの勉強を行い、学んでいるからだろうと考えています。あるアーティストは「彼の頭の中はライブラリーだ」と。引き出しの多さが非常に多いのでしょう、どんな質問を投げても必ず返ってきます。それができるほど本を読み、旅をし、モノを見ています。これはフランソワのインタビューの際に聞いた話なのですが、「絨毯を見ていても、インスピレーションが湧く」と。これは一例にすぎませんが、彼の感覚が研ぎ澄まされているのだろうと感じます。それから、彼と一緒に働いている人たちーーファビアン·バロン(Fabien Baron)やスティーヴン·クライン(Steven Klein)、2018年に亡くなられてしまいましたがヘアスタイリストのオリベ·カナレス(Oribe Canales)などーーと一緒に、トップをひた走られていることもあるのではないかと思います。

ブランド人気を支え続ける、PRマネージャー福島さんの思う「NARS」の魅力

----福島さんのフランソワへの敬意とブランドの愛の深さを感じます。福島さんご自身は「NARS」というブランドのどこに最も惹かれているのでしょう

福島  強さです。自立した女性像があるのです、「NARS」には。そのため、女性を勇気付けるようなコンセプトを打ち出しています。触れることで自信に繋がるような、使うことでカッコイイと思える自分を発見できるようなブランドと思っています。潔さといいますでしょうか、気持ちのいいブランドと思っています。

----福島さんは、2019年9月現在で最も「NARS」を象徴しているアイテムは何とお考えなのでしょう

福島  "Banned Red"というシェードネームの付された「リップスティック 2912」です。絶妙なツヤ感のある赤茶色で、ひと塗りで洗練さを与え、深みのあるエレガントな印象に導いてくれる1本です。

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NARS「リップスティック 2912」¥3,300(2019年9月20日発売)NARS JAPAN

 ファビアン·バロンが一貫して創業当時から手がける、黒をベースにしたパッケージは極めてシンプルで、そこに大胆に「NARS」の文字が乗せられている。また、直線を描くようなフォルムにも、福島さんの「その人の持つ美しさを引き出してくれるように思える。一切の媚びを感じさせず、しかしどこか色っぽい」という言葉を思い出させてくれる。そのアイテムは、まるで芸術作品のような美しさだ。

そして2019年9月20日、「リップスティック」が発売される。その全72色のうちの12色は、ブランドデビュー時に発売されたものだ。25周年を記念するアイテムが、パッケージも新たなになった「リップスティック」であることから、このアイテムをいかに大事に思っているのかが想像できるだろう。今後、どのように、どんなアイテムで私たちを楽しませ、嬉しい裏切りを与えてくれるのか、「NARS」への期待が高まる。

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NARS「リップスティック」(全72色、各¥3,300)2019年9月20日発売(NARS JAPAN)

NARS JAPAN
PRマネージャー
福島 まどか●Madoka FUKUSHIMA

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大学卒業後、化粧品会社やファッションブランドにてPRを担当。2016年より現職。

NARS JAPAN 0120-356-686
https://www.narscosmetics.jp/
Instagram @NARSissist

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