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渡部玲

ビューティライター

Akira Watanabe 渡部玲

女性誌の編集部、編集プロダクションに勤務した後に独立。現在は、フリーランスのエディター、ライターとして活動。

"使いたいと思うものを作る"ということ、その「木村石鹸」の挑戦

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恥を承知で告白する。石鹸だけを見つめ、90年も続くメーカーがあることを私は知らなかった。その歴史の長さだけでも十分興味深かったが、作られているアイテムを見ることで、深く知りたいと思った。

 今回は、その長い伝統を支える「木村石鹸」代表の木村祥一郎さんに話を訊く。

----ひとつのブランドが、94年もの歴史を有するということは、それは大変なことなんだろうと想像しています

木村祥一郎さん(以下、木村社長) 「木村石鹸」という会社は1924年に創業していますので、今年で94年目を迎えました。私の曽祖父が起した会社で、私は4代目になります。しかし、その初代の曽祖父は最初から石鹸を扱う会社を営んでいたわけではなく、歯ブラシ屋だったらしいと聞いています。当時の歯ブラシの製造業というのは、家内制手工業のようなものだったようです。

----歯ブラシから石鹸へ、想像するだけでも勝手が大きく違うように思うのですが

木村社長 当然、その時代に僕はまだ生きていませんから、父から聞いたことが全てで、どこまで本当の話なのかはわからないのですがーーある日、銭湯へ行った時に、その場に居合わせた人と石鹸の話になったことが今の生業へと導いたようです。「石鹸ってなんでできているのか知っているのか?」という話をしたことに始まりました。石鹸は油でできています。汚れも同じ油です。油を油で落とす? その人には石鹸会社に知り合いがあり、石鹸会社を見せてもらう機会を得、「木村石鹸」という会社がスタートしたのです。

----思い切った決断と思います

木村社長 感動したそうです。石鹸が作られるところを見せてもらったことで。それですぐに、それまでの歯ブラシ会社を売却して、石鹸の会社として新たなスタートを切ることになりました。

----それが、94年前の1924年のことになるのですね

木村社長 石鹸の何に感動したのかわからないのですが、工場を見せてもらった後、すぐに修行に入り、独立して会社を作り得るほどには情熱を傾けられるものであったようです。油で綺麗になる、汚れが落ちるということに感動したと聞いています。
この94年の間には戦争もありましたから、油が手に入らなくなったことで、実質廃業を余儀なくされたりもしました。

----終戦後はすぐに再開されたのですか?

木村社長 主原料である油が手に入らないため、なかなか再開させることができませんでしたが、どうしても石鹸をやりたい、と決意した祖父と父がなんとか復活させ、現在の「木村石鹸」の礎を築きました。創業から数えると今年で94年になる会社ですが、戦中戦後とその後しばらくは休んでいましたから、ずっと操業できていたわけではないのです。

----戦争によって休業せざるを得なかった会社は少なくなかったんじゃないでしょうか

木村社長 当時、石鹸屋さんは油が手に入らないことにはどうにもなりませんでした。とはいえ、普段の暮らしで手や身体は汚れます。そして、その汚れたままでいられません。そこで国が動き、統制がかかったりもしたそうです。弊社のある大阪には同業が何社かあり、一緒にという話もありましたが、祖父は頑なにそれを拒否したことで、94年前と今日の「木村石鹸」は同じ製法で石鹸を作られています。

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----"釜焚き法"という技術ですね

木村社長 はい、ずっと創業当時から変わることなく、"釜焚き法"を採用しています。
当時は石鹸の種類も多くなく、いわゆる固形石鹸や衣類用の石鹸を同じ製法で作っていました。それらの家庭用石鹸から業務用にシフトしたりしながら続けてきました。
 一般に石鹸といえば、いわゆる固形の、四角だったり円いものだったりする形を想像されると思うのですが、石鹸は一様に化学的には一つの原料で、液体もあれば粉もあり、固形もその一つの形にすぎません。

----その固形の、家庭用の石鹸を作っていたのを業務用にシフトされたのにはどんな理由があるのでしょう?

木村社長 その背景には、大手が大量生産を行っていく中で、価格はどんどん下がって行ったことがあります。早い段階で家庭用だけでなく、業務用の掃除用洗剤で、つまり液体や粉の石鹸を作ってはいたのですが、それを衣類用に改良して作ったりしました。それから生協の安心安全経営の裏方で、OEMを作るということも行ないました。これは、現在も続けて行っています。

----そして、木村さんが2013年に4代目として指揮を取り、オリジナルブランドを提案提供し始めたのが3年前なのですよね

木村社長 はい、91年間のほとんどは、社名の出ているものも一部にはありはするものの、家庭用製品のOEMの売り上げがそのほとんどを占めていました。それは今も変わりません。そんなこともあり、自社ブランドのシリーズを始めることにしたのです。そう決断させるに至らせたのは、原料費の値上がりなどもあり、OEMビジネスで利益を得るのが困難になってきたからということがあります。僕が「木村石鹸」に戻ってきたのが2013年ですが、その7〜8年前から営業利益が下がり続けていて、とうとうゼロになってしまいました。打開策を打つ必要があったわけです。そうして出した答えが、新たな販路を見出すことでした。

----木村社長が考案されたオリジナル商品は「SOMALI(そまり)」シリーズから始まったと聞きました

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木村社長 台所用のアイテムが最初に出し、ハンドやボディ用ソープなどを出して行きました。このシリーズ「SOMALI」を作ろうと思ったのは、自分自身が使いたいと思える洗剤がなかったからです。ドラッグストアやホームセンターなどに並んでいるアイテムには、部屋の中に置きたいと思えるものを見つけられませんでした。家人も同様で、彼女はラベルを外したり、容器を詰め替えたりして使っていました。トイレ用やバス用などのものは、そのまま置いていると生活臭が出てしまいます。結果、隠して使うことになってしまいます。本来、空間を美しくするためのものであるのに、そのアイテムはそこにあるだけで場所や空間を乱してしまうのはどうにも納得がいかないですよね? どんなに美しくしている空間やキッチン周辺であっても、それらを置いた瞬間に残念なことになるのがものすごく嫌でした。海外製品の中には、デザイン的にいいなと思えるものがありますが、日本製では良いと思えるものを僕は見つけられなかったのです。

----こだわりはデザイン面だけではないはずだろうと想像しています

木村社長 石鹸というものの安全性は、究極だろうと考えています。歴史がとても長いからもその安全性は証明されているように、これ以上、安全なものはあるだろうか、と思えるほどに安全なものだと考えています。
石鹸好きと言われる方々はある一定層いらっしゃるのですが、使いたいと思わせてくれるものかと考えた時、先ほどのデザイン性の問題がどうしても出てきてしまいます。概ね、見た目がよろしくない。はっきり言えば、ダサいものがそのほとんどです(笑) 尤も、安全安心の商品は、エコであることを強調したものが多く、素朴さを前面に出しているのも一因だからでしょう。それゆえ、一部の、石鹸を愛して止まないマニアにしか受けないものになってしまっています。もっと気軽に使えるものを、石鹸の安全性はそのままにどうにか届けることはできないのか、と考えた末にこの「SOMALI」シリーズが誕生しました。

----「SOMALI」シリーズへの愛が伝わってきます

木村社長 いわゆる化粧品のように、「○○ようなものを使わない」などとルールはしっかりと定めました。それでいて、手にとっていただきやすいデザインであること。つまり、デザイン面を重視している方々にも届くアイテムにしたかったのです。

----社長のこだわりにこだわられたデザインについてはどのようにして決められたのでしょう?

木村社長 SNSの"Instagram"で2013年からリサーチを始めました。掃除や家事、水周りなどの写真を上げている投稿を参考にしたのですが、市販の洗剤を置いた写真を見ることはまずありませんでした。おしゃれな水周りの写真のほとんどは海外製品が置かれていましたね。雑誌でいえば、「天然生活」(地球丸 刊)や「ku:nel」(マガジンハウス 刊)などのいわゆるライフスタイル誌におけるキッチン特集も同様で、普段使うものなのに写真で見せるのは嫌だと考えている人の多さを改めて感じたのです。空間において主張がなく、馴染むものを作りたい、と。中身=洗剤には自信がありましたから、デザインはただただ手にとっていただけるきっかけになるものになるといいなぁと思っていました。
とはいえ、石鹸ブランドの提案する製品ゆえ、中身にも妥協できないために作る工程が複雑であり、手間もかかるのがネックでした。原価がかかってしまいますから。200ml、250mlのアイテムの相場は100円、200円といったところが主流。ところが、私たちがやろうとしているものを実現させれば、とてもじゃないけれどその価格帯では提供できません。ではどうするかーー製品の安全性を高め、デザイン面でもいいと思えるものを作るという結論に達したのです。

----安全性を高め得るのは、「木村石鹸」ブランドを作り上げたこれまでの歴史とそのノウハウによるものですか?

木村社長 石鹸というものの素晴らしさです。紀元前より続き得る石鹸というものは、つくづくよくできたものだと感じます。繰り返しになりますが、安全性は最上と言えるものですから。まずはその素晴らしい能力を最大限に引き出せるものにしたいと思いましたし、そのクオリティについては自信がありました。世の中に「洗剤」と言えるものは多くありますが、別の洗浄成分を補って仕上げられているものもたくさんあります。しかし弊社は、油を炊いて石鹸を作り、洗浄する場所に合わせたアイテムに仕上げて提供するというスタイルを貫いています。つまり石鹸なのですが、ひとくちに石鹸といってもそれぞれ個性があるのですが、要は脂肪酸の配合率によって異なってくるのです。例えば、泡立ちがいいけれど洗浄力が弱い、洗浄力は高いが泡切れは悪い、などはこの脂肪酸の構成の仕方によって変わってきます。これを石鹸ではない別の成分と組み合わせると安価で安定したものが作れるのですが......。

----「木村石鹸」では新しいシリーズも含めた全てのアイテムで、石鹸の素晴らしさがわかる作り方を続けていらっしゃるのですね

木村社長 石鹸にこだわって作る理由は、ひとえに究極に安全だからです。この安全性は他のものとは比較になりません。昨今では石鹸に代わる新しい成分も続々と開発され、またそれがどんどん進化していることもわかっているのですが、その新しい成分の歴史は100年ほどです。それを使った先については、まだ誰もわからないのです。遺伝的にどうなるのか、アレルギーはどうだ? などを考えた場合、少なくとも僕は、石鹸以外の選択肢は考えられないのです。そこに天然素材を組み合わせて作っています。

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新しいシリーズでありながらも、石鹸のDNAをしっかりと継承している「SOMALI」シリーズは、その発表の場であった展示会で多くの注目を集めたという。シンプルなデザインが包んだ"石鹸"の高いクオリティは、今の時代にマッチし、暮らしに寄り添うものだったからだろう。
  "そざいのかたまり"を表現した「SOMALI」という名は、ウェブを通して一般に広く募り、決めたという。「創業時より受け継がれる『小さくてもキラリと光る会社になれ』という言葉を大事に愛され続ける会社にしたい」と木村社長は言い、「自身が信じられるものを使う方が心地いい。その気持ちを大事にしたい」と続けた。

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使い込まれたタンクの温度計

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工場内に並ぶタンク

木村石鹸工業株式会社
代表取締役社長
木村祥一郎●Shoichiro KIMURA

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1995年大学時代の仲間数名と有限会社ジャパンサーチエンジン(現 イー・エージェンシー)を立ち上げる。以来18年間、商品開発やマーケティングなどを担当。2013年6月にイー・エージェンシーの取締役を退任し、家業である木村石鹸工業株式会社へ。2016年9月、4代目社長に就任。


木村石鹸
072-994-7333

https://www.kimurasoap.co.jp/
https://www.kimurasoap.co.jp/somali/

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