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渡部玲

ビューティライター

Akira Watanabe 渡部玲

女性誌の編集部、編集プロダクションに勤務した後に独立。現在は、フリーランスのエディター、ライターとして活動。

オー・デ・コロンの芳香する時間、その宿すエネルギー

美しい吹きガラスのボトルに包み、アスティエ・ド・ヴィラットがこの夏、7種の香水=オー・デ・コロンを発表。その内の4種は、2008年にすでに発表されている香りだが、装いを新たに新作としてラインナップしている。

 これまで幾度か彼らに話を聞いてきたが、その機会を得る度に感じるのは、パルファンでもトワレでもなく、オー・デ・コロンであることに拘り、大切なアイテムとしてクリエーションし続けていることだ。更に、同じ香りのアイテムでもキャンドルなどとは異なるものとして位置付けていることについてなど、彼らの考える香りについて探りたいと思う。

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----既存の4本を含めた7本をラインナップし、更にボトルデザインを大きく変えて発売されたオー・デ・コロン。それにはきっと何か、お二人に思うところがあって、このような決断をされたのだろうと想像しています

ブノワ・アスティエ・ド・ ヴィラット(以下、ブノワ)「今回、パッケージにはとても拘りました。瓶の高さはもちろんのこと、スプレーの押すところなどにも納得のいくところまで向き合い、試作を重ねました。

 そんな今回の発表で、イメージを大きく変えたいと思ったのにはいくつかの理由があります。

 まずこれまで創ってきた陶器やキャンドルなどのアイテムは、家の中で楽しむために考えたものであること。しかし、オー・デ・コロンは違います。自分の肌につけて外に出て、楽しむものである、と改めて考えたからです。そのエネルギーは外に向いていて、家の中で楽しむものとは全く異なるものであると思うのです。それから、香水の香りというのは、キャンドルとは違って、しっかり匂わないと把握できないものであるとも考えました」

----4月に新しく2店舗目のお店をオープンさせたことも理由の一つにあるのかしら、と想像しています

イヴァン・ペリコーリ(以下、イヴァン)「昔から僕たちのことを取材してくださっているからご存知だと思うのですが、このブランドには偶然が生み出すことが多くあるのです。確かに2店舗目をオープンする予定でいましたから、その店に置く香水を、とは考えました。しかし、オープンに合わせて発表したいと考えてはおらず、ただひたすらに早く創りたいとだけ思い続け、努めてきました。お店のオープンと重なったのは全くの偶然です。熟した果実が突然落ちたと思ったら、掌にぴたりと収まったような----いつもこういった嬉しい偶然の重なりの連続で、それが僕たちに良い結果をもたらしてくれています。良いものができたりとか、良い発表の場に出会えたりなど」

----香水とキャンドルを創る上での、それぞれの意識の違いはいかがですか?

ブノワ「香水以外の香りのアイテムは、キャンドルの他にも消しゴムと線香があります。これら3つのアイテムは"旅"をテーマに、僕たちは自由に創っています。そこにルールやレギュレーションなどはほぼないのです。しかし、香水は違います。ルールがあります。これは調香師のフランソワーズ・キャロンも言っているのですが、本来オー・デ・コロンであるためには基本的に柑橘系をベースにしなくてはならない、とかね。そんな肌につけて楽しむものである香水を、部屋の中で楽しみ、インテリアとしてのカテゴリだと言えるキャンドルとはまったく異なるものだと僕たちは考えています。そして香水とは、"美容=beauté"であると思っているのです」

----全てのオー・デ・コロンのベースがシトラス(柑橘系)の限りではなく、おそらくは他のベースで創ることも可能であると思います。しかし、そのルールを布いて創られていることが興味深いです

イヴァン「確かに他のベースで創ることも考えられますし、流通しているものの中にはいろいろな香りが存在します。でも、(調香師の)フランソワーズ・キャロンも僕たちも、ベーシックでオーソドックスな香りで創りたいと思いました。そして、その考えを大切にしながら、例えばベースとなる香りにバーベナなどの香りを加えることで変化を持たせています」

----フランソワーズ・キャロンさんのお名前が出ましたが、今回の新作では調香師のクリストフ・レイノーさんのお名前もありますね

ブノワ「実は、フランソワーズ・キャロンは以前より仕事を辞める方向で考えていたのです。いわゆる定年をむかえられる頃からそのような話をされていたのですが、アスティエ・ド・ヴィラットのためだけに3年の間、続けてくださっていました。そして3年が経った時に、彼女の旦那さんが「もういいでしょう。これからは、僕たちの老後について考えていきましょう」と仰ったと聞いています。

 いよいよ困った、と調香師を躍起に探していたところ、知人から薦めてもらったのがクリストフ・レイノーです。彼女も「彼はいいよ」と言ってくれたこともあり、彼にお願いすることにしたのです。今回、「スプラッシュ・オランジュ・アメール」を手がけています」

----お二人としてはどうでしたか? 彼に決めた理由を聞かせて頂けませんか

ブノワ「フランソワーズ・キャロンとは全く違う(笑) 彼女がとても女性的なのに対し、クリストフ・レイノーはとても男性的です。しかし、そんな二人にも共通していることがあります。それは、非常にシンプルに、わかりやすく香りを生み出すこと。いろいろな要素が複雑に絡み合って一体何の香りだろう......というものを彼らは共に良しとしません。香りにおいての考え方や創り方が似ていると感じられ、クリストフ・レイノーにお願いすることにしました」

----これまでのインタビューでもお聞きしたことがありますが、今のお二人にお聞きしたいです、陶器ももちろん大切なプロダクトであると思いますが、香りのプロダクトにも大変な思い入れがあるように感じます。毎日の暮らしに鮮やかな色を加えてくれるような----セラミックやガラスなど----ブランドとしてはどのようにお考えでしょう?

ブノワ「香りが、ただ単純に好きなのです。だからこそ、しっかり創っていきたいと考えています。また、今回新たにパリにお店をオープンさせた際に何を置こうか、と楽しみながら考えていました。"あれはどうだろう、これもいいかもしれない......"と頭の中で思い巡らす時間は、まるでこどもが空想して楽しんでいるような感じだろうと思います。美しいものと一緒に香りものを置きたい......とずっと考えていました。そうしたら、香りのアイテムをメインにしたお店ができたのです。たまたまそうなりました、これも偶然(笑)」

----お二人はオー・デ・コロン作りをどのようにお考えなのでしょう? また今回の発表で用意された香りの数が7種だったことに理由はあるのですか?

イヴァン「僕たちはただ、香りを、香水を創りたいという思いしかありません。7種類の7がマーケティング的に良いとか、好きな数字であるとかではなく単なる偶然7種類だっただけです。

 先ほどもお話をしましたが、オー・デ・コロン作りにはルールがあるため"こんな香りはどうかな......"などと慎重に探りながら創っていかなければなりません。大変に難しいことではありますが、クリエーションを刺激してくれることでもあると思えます」

ブノワ「新しい香りを創ろうと考えるたび、僕たちは"こういう香りがいいな......"とシンプルな言葉で伝えます。その後、試作品がフランソワーズやクリフトフによって出来上がってくると、その想像もしていない香りや面白い香りに驚きを感じることがあるのです。今回のオー・デ・コロンは、試作を何度も何度も繰り返し行い、創りました。その結果、7つの種類で発表することなったのです」

----この香りで行こう! と最終的な決定を下すのは......

ブノワ「僕たちと、香りの製品全般を担当しているエミリー・マゾーの3人で決めます。

 調香師のフランソワーズとクリフトフは僕たちの創りたい香りの方向性をよく理解してくれていて、僕たちの求めるシンプルな香りを生み出してくれます。

 前々回のインタビューだったと思います、その時に話したキャンドルの創り方とは少し異なり、オー・デ・コロンについてはもともと僕たちそれぞれの家族が日常的に使っており、毎日の生活の中にあることがベースにあります。しかし、親しみがあるからと言って、その使っていた頃を思い出したり、懐かしむために使うものとは全く考えていません」

イヴァン「回顧するのためだとか、記憶を呼び起こすものではなく、オー・デ・コロンにはフレッシュで爽やかな香りを求めています」

ブノワ「昔からオー・デ・コロンにはアルコールが配合されていて、子供たちの肌を清潔に整えるために用いてもいました。薬のような役目であったと言っても----例えば、肌を清潔にするためのものであるとか、身体を清めるためなど----決して過言ではないだろうと思います。そんな自分の身体の状態を整え、延いては守るためのものであったように、僕たちのオー・デ・コロンもそうありたいと思って創っています。だから、香りに関しても、清らかで新鮮さをもたらしてくれるものであると同時に、心地よくて気持ちよく使えるものを模索し続けています。僕の好きなサンタ・マリア・ノヴェッラももともと薬局だしね!」

イヴァン「新作の香りを創っている中でとても面白かったことを一つお話しましょう。フランソワーズとクリストフにそれぞれ同じテーマを伝えたのです。でも、両者で全く個性の異なる香りが出来上がってきました。フランソワーズは「ÉLIXIR DU DR FLAIR(エリクス・デュ・フレー)」を、クリストフは「SPLASH OLANGE AMÈRE(スプラッシュ・オランジュ・アメール)」を創ったのです(笑) こんなにも違う香りが出来るものか! という嬉しくて愉しい驚きがありました」

----香りのテーマについてのお聞かせください。二人の調香師に対して、どのような伝え方をされるのですか?

ブノワ「とてもとてもシンプルに伝えます。主語と述語くらいの、簡単な一文をポンと渡すだけです。それがフランソワーズには良いようで、「ありがとう」との言葉を毎回のようにくれました。どんな伝え方をするのが良いのかはわからないし、きっと正解などないのだろうと思います。しかし、彼女と僕たちにはシンプルな言葉が良かったのだろうと思えます」

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Photo Sophie Delaporte

紳士的なブノワさんと、少年のようなイヴァンさん。これまでに何度かお会いする機会を得、彼らと話をする中で、いつからかこの二人が仲良く仕事を続けられていることについて興味を持つようになった----例えば、テーマを伝える時にも揉めたりしないのか、なども----ブノワさんからは「性格は全く違います」と聞いたことがあるし、雰囲気も異なる。ますます彼らについての興味は増しながらも謎めいていて、しかし恐らくは美しいものや良いと思えるものに関しては非常に近い感覚を互いに持っていると思えるのだろう、と想像できるくらいになってきた今回、ようやく訊ねる勇気を持てた。「違っていて当然だし、こういう意見もあるのだと思えることができることが楽しい」とブノワさんは話してくれた。

 互いを信頼し、尊敬し合う二人が生み出すオー・デ・コロンは、偶然というスパイスとともに今日なフレッシュで静かなエネルギーをも与えてくれる。

オー・デ・コロン

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「SPLASH OLANGE AMÈRE(スプラッシュ・オランジュ・アメール)」

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「GRAND CHALET(グラン・シャレ)」

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「ÉLIXIR DU DR FLAIR(エリクス・デュ・フレー)」

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「EAU FUGACE(オー・フュガス)」

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「EAU CHIC(オー・シック)」

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「EAU DE COlOGNE ASTIER DE VILLATTE(オー・デ・コロン アスティエ・ド・ヴィラット)」

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「COLOGNE 1871 EN COLLABORATION AVEC COMMUNE DE PARIS(コローニュ・1871 コミューン・ド・パリとのコラボレーション)」

スプレーボトル (各50ml ¥13,200(税抜)、各150ml ¥20,220(税抜))、スプラッシュボトル 各900ml ¥50,000(税抜)全て、アスティエ・ド・ヴィラット(ARTS&SCIENCE)

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Photo Ayumi Shino

Astier de villatte ● アスティエ・ド・ ヴィラット

1996年、イヴァン・ペリコーリとブノワ・アスティエ・ド・ヴィラットは、アスティエ・ド・ヴィラット家の兄弟とエコール・デ・ボザール出身の友人達とともに「アスティエ・ド・ ヴィラット」をスタート。同年9月には、メゾン・エ・オブジェ で初めての展示会を開いた。その後、2000 年にパレス・ロワイヤルとルーブル美術館にも近いサントノーレに店舗を構え、工房はマセナ通りの自然光の 降り注ぐ場所へと移す。香りのプロダクトを創るきっかけがあったのは、2008年。ちょっとした遊び心で食器用洗浄剤を1000本生産した事による。日本のフレグランスメーカー高砂香料の調香師であるフランソワーズ・キャロンと、また2016年よりクリフトフ・レイノーを加えてオー・デ・コロンを開発。ハンドケア製品とキャンドルのコレクションを発表した。そして今年=2016 年、初めての書籍「Ma vie Paris マ・ヴィ・ア・パリ(私のパリ生活)」を出版。今秋には、日本語による副読本の付録版も刊行を予定している。

Astier de Villatte

http://www.astierdevillatte.com/

ARTS&SCIENCE CO.,LTD

Tel: 03-3498-1091

http://www.arts-science.com/

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