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渡部玲

ビューティライター

Akira Watanabe 渡部玲

女性誌の編集部、編集プロダクションに勤務した後に独立。現在は、フリーランスのエディター、ライターとして活動。

スキンケアブランド『Premier(プリミエル)』が教えてくれる、死海の塩に秘められた力

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イスラエル生まれのスキンケアブランド「Premier(プリミエル)」が日本でも本格的に楽しめるようになったのは、2017年の冬。塩化物に塩化マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウムなどを豊富に含む死海のミネラルは、古くは、かのクレオパトラも頼りにしたと伝えられている。
 肌を健やかに保つ力を持ち、ミステリアスな魅力を孕んだ死海に注目し、コスメでその魅力を伝えるブランド「Premier(プリミエル)」。死海のミネラルの魅力について、エリ ベンハロッシュ プリミエルグループ副社長に訊く。

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----なぜ「プリミエル」というブランドを立ち上げるに至ったのか、その経緯などをお教え願えますか

エリ ベンハロッシュグループ副社長(以下、ベンハロッシュ) もともと、プリミエルの代表であるシャハール ユバルの父が、成分の品質管理をする研究室を持っていたことがきっかけとなり、始まりました。加えて、イスラエルにある他の化粧品ブランドに死海から採れるミネラルを提供していたのです。それらの経験から、次第に死海の"ミラクル"をイスラエルだけではなく世界中に自分たちの手で届けたいという思いが強くなって行きました。

 そんな中、シャハールの父親が、ある時宇宙開発研究に詳しい科学者に出会います。ロシアからイスラエルに移住してきたばかりのロシアの科学者で、プロフェッショナルとして働ける場所を探していました。

 その宇宙開発研究者が、この天然成分と死海のミネラル、そしてテクノロジーの融合による完成度の高い化粧品開発をサポートすることで「プリミエル」は、生まれ得たのです。

----自然とサイエンスを融合させることがブランド理念のベースにあると伺いました。なぜこの2つにご注目されたのでしょう? そして、それらによって生み出すもの=プロダクトがなぜ化粧品だったのでしょう

ベンハロッシュ 個々の肌に合った完成度の高いプロダクトを生み出すために、自然界の恵み、つまり死海のミネラルとテクノロジーの融合を大切にしています。 何世紀もの間存在している死海と新しいテクノロジーを融合することを20〜30年近く研究し、ようやくこのブランド「プリミエル」にたどり着きました。

他の商品ではなく化粧品でなければならなかったのは、化粧品というプロダクトこそ、より世界中の人に愛され続けられるものだからです。それはどのインダストリーと比較しても、化粧品で提案し続けることに間違いないと考えています。 何千年も存在している死海のように、愛され続けるプロダクトを作りたいという思いがあるのです。

----研究を重ね、商品を作られる上で、重要視されていることはどのようなことでしょう

ベンハロッシュ 成分のクオリティと、お客様への肌への良い効果が期待できること。これらは決して妥協できません。何年もかけて、改善と変化し続けてきたブランドですから、代表作とひとつに絞るのは言い難いです。

 我々の製造チームは、ブランドがこのために原価の製造コストを削減しないこと知っています。

これはお客様へのコミットメントです。

----死海の塩を用いたアイテムにはどのような魅力があるとお考えですか

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ベンハロッシュ 我々のプロダクトは、品質が高く、25年以上ベストな結果をお客様にお届けすることを続けてまいりました。

「プリミエル」は、25年以上の実績をもつデッドシーコスメのパイオニアです。我々は、知識とノウハウ、革新とチャレンジ精神を常に持ち続けているブランドです。

----すでに厳しい暑さですが、夏はこれからが盛り。そんな過ごしにくい毎日のケアで積極的に使いたいのが、「デッドシーミネラル ボディソルト」です。ベンハロッシュさんはどのようにお使いになられていますか?

ベンハロッシュ バスソルトとしても使ってください。お風呂から上がりましたら、身体を洗い流してください。ボディソルトでマッサージしていただいた後に、そのままお風呂に入っていただけば、一石二鳥かと思います。

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デッドシーミネラル ボディソルト(ナチュラル、リラックス、リフレッシュ)各425g ¥5,200 プリミエル(アートビューティージャパン)

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Eli Ben-Haroosh●エリ ベンハロッシュ
プリミエルグループ副社長

イスラエルの「オフィス・デポ」副社長の職を経て、現職。
ヨーロッパ、中東、アジアを含むプリミエル社全てのセールス&マーケティングの責任者であり、オランダ、イギリス、カナダ、メキシコ、LAのプリミエル直営店の経営管理の重責も担う。

株式会社アートビューティージャパン
問い合わせ先/03-6265-7337
https://www.premier-deadsea.jp/

ヒット作を生み続けるukaの心臓部

トップネイリスト渡邉季穂さんの営むトータルビューティサロン、uka。サロンの人気はもちろんだが、発売されるプロダクトは多くのメディアで取り上げられ、欠品になることもしばしば。2017年の新製品「ベースコート」は、その斬新なコンセプトに驚かされた、トップネイリストらしい鋭い視点の光るアイテムだ。ukaの人気のアイテムは、ネイルだけではない。理髪店からスタートしたという歴史が支える、ヘアアイテムなど注目が集まる。そのユニークなアイテムにはどのようにして生まれているのだろうか。
今回は、プロダクト開発責任者の吉本智弥さんにukaのプロダクトについて話を訊く。

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2016年に発表されたヘアオイルのシリーズは、いつも美しい髪でいたいと願う人たちに向けてシチュエーション別に提案。紫外線や湿気などにも負けないヘアスタイルを叶えてくれる。uka hair oil Windy Lady、Rainy Walk 各50ml ¥4,000、ukaka hair oil mist On the Beach 50ml ¥3,500(uka Tokyo head office)

----もともと、理髪店から歴史が始まったukaですが、現在はトータルビューティサロンとしての技術だけでなく、プロダクトも多く発売され、毎回高い人気を集めていますね!

吉本さん「一番人気のあるのは「ネイルオイル」ですが、その人気に負けないほどの売り上げがあるのは「ヘアオイル」です。それから「ケンザン」。月の売り上げで「ネイルオイル」を越えた月もあるほどです」

----男女問わず、ukaのアイテムを愛用している人はたくさんいますが、「ネイルオイル」と「ヘアオイル」が人気なのですね

吉本さん「サロンにいらっしゃるお客さまの爪を見続ける渡邉のネイリストととしての視点から生まれたという背景を考えると、「ネイルオイル」が人気なのは頷けます。お客さまの爪を健やかに保てるようにしたい、との願いを込め、習慣にしてほしいとの思いをも作ったもの。その考え方と同様に作ったのが、「ヘアオイル」や「ヘッドセラピーシリーズ」などのヘアケアアイテムです。中でもヘッドスパは、サロンにそのメニューを受けにいらっしゃるお客さまと接するなかから生まれたもの。ホームケアの大切さを改めて感じ、頭皮の健康を考えたアイテムを作らなくてはいけないと思わされたことで誕生しました」

----つまり、ネイルもヘアもデイリーケアが大切であると考え、健やかに保つように手伝うことを、アイテムを通じて提案されているのですね

吉本さん「現在のukaのサロンには、ネイル、ヘア、エステといった色々な部門があります。その、それぞれの技術者がそれぞれに日々お客さまと接する中で思いを抱き、感じたことをアイテムでも提案しています。ネイルケアアイテムの「ベースコート」を除いては。当サロンでは、丁寧なウォーターケアをメインに、まだ、ジェルに圧倒的な人気がありますね」

----製品のラインナップに、ホームケアを重んじているのを感じます。そんなuka精神を踏襲して、吉本さんがこれまでにご担当されたアイテムとはどのようなものなのでしょう

吉本さん「ヘッドスパで定期的に来店されるお客さまの頭皮と毛髪の状態をもっと良くしたい。そのためにサロンケアの間となるホームケアをより良くすることで髪を救いたいという思いがありました。そこで弱酸性且つ毛髪そのものを形成するアミノ酸で洗髪できるようなものを、と考えたところからヘアケアアイテムはスタートしています。加えて、髪はキューティクルが痛みやすいものだから、補修できるものにしたいとも考えました。それから、香り。それらの要素全てを詰め込んだヘアケアをukaらしい視点で作っています」

----今年は、とりわけヘアケアアイテムが多く発表されたこともあり、色々なアイテムを使わせていただく機会に恵まれたのですが、ukaのヘアケアアイテムはテクスチャーや香りなど、独特な印象です

吉本さん「泡立ちや香り、仕上がりには特に高い評価を得ています。そんなヘアケアを始め、何か新しい商品を作ろうとする時、代表の渡邉は、「世の中にはたくさん良い商品があるから、何もukaで作ることないじゃないの!」と言います。だからこそ、新しい切り口を考え世の中にないものを生み出そうというモチベーションに繋がり、その結果市場から"面白い提案"と評価されているのだと僕は思っています」

----ukaが良いと思えるものとは、どういうものと製品開発者である吉本さんはお考えですか

吉本さん「ターゲットである"忙しくてめんどくさがりでよくばりな女性"に楽しく使い続けていただけるようなホームケアアイテムをサロンが提案するのですから、例えば髪に必要で良いと思えるものであればアミノ酸であるとか、香りが豊かで、仕上がりも素晴らしいものでしょうか。欲張りと感じるくらいに最高と思えるものができるならやってみようと思い続けています」

----それでいてナチュラルなものなのですよね

吉本さん「ヘアケアで言えば全成分のうち、90%がナチュラル成分です。加えて、オーガニックに寄りすぎず、縛られすぎないことも製品づくりで大切にしていることです」

----その信念は、見た目からもわかるような気がします。そのパッケージはキュートで、目を引きます

吉本さん「どんなバスルームにも馴染むパッケージでありたいと考えています。それが個性と言われれば、そうなのでしょう」

----個性といえば、香りも独創性が際立っていますね

吉本さん「これもやはり、世の中にありそうでないもの、そして何より気持ちよいとか癒やしになるようなブレンドにこだわっています。実際に「この香であれを作って!」とお客さまからリクエストが届くほど、香りを気に入ってくださる方が沢山いらっしゃるんですよ」

----クセになる香りというか、ああ...ukaのアイテムだ! と一度香ると忘れられない、と思わせてくれる人もきっと少なくないはず。恋しいと思わせてくれる香りですね

吉本さん「「uka hair oil」と「uka hair oil mist」の開発に関わったことがきっかけで、植物療法士の森田敦子先生からフィトテラピーを学びました。その講習で学んだことは、精油についてなど「リップ&ネイル バーム」と「ボディ&フット バーム」の開発では大変に助けられましたし、活かすことができたと思えます。精油自体の特性や、相性などを考えて組み合わせたりしたのは大変ではあるのですが、非常に楽しい時間に感じています」

----これまでのプロダクトも香りを加えていたと思います。しかし、それまでとは異なるのですね

吉本さん「これまでukaのプロダクトは、香りのバランスをメインに精油を配合していました。それを、5種のバームでは精油の効果効能を考慮した上で商品コンセプトと合わせながら選んで行きました。もちろん、僕が選び切った訳でも全部決めた訳でもなく、香りやフレーバーは渡邉季穂の感覚を大事にブレンドしたのですが、たいへんでした(笑)」

----これまでとは大きく異なるやり方を選びたい、と吉本さんが思われたのはなぜですか?

吉本さん「「ネイルオイル」の存在が大きいと考えています。「ネイルオイル」は良いプロダクトと思えますし、ヒット作でもあります。しかし、オイルでは足りない頑固な乾燥状態の方もいらっしゃることがわかり、その方々に頼ってもらえる製品を開発する必要がありました。
  時を同じくして、これまでのアロマテラピー(芳香療法)という概念を超え、フィトテラピー(植物療法)によって、より効果的に忙しい現代人を癒やすことにも注目していました。唇に塗ると、知らず知らず体内に摂り入れている、という発想から"頑固な乾燥を保湿するバーム"と"フィトテラピー"が融合した製品づくりがスタートしました。フィトテラピーの考えのもと、リップで経口摂取するという発想だけでも新しい提案でしたが、リッチな香りやテクスチャ、フレーバーにすることにも注力しました」

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爪の根元のケアはもちろん、首や肩にコロコロと転がすことで気分もリフレッシュ!  この季節だけの楽しみ「ブーケ」とフランスはパリのサントノーレ213番地にあるコレットのために作られた「213 for colette」の2種は限定アイテム。気になる人は急いで!  uka nail oil 各5ml ¥2,800〜¥3,800(uka Tokyo head office)

----"リッチ"であるというのは、具体的にどのようなものだとお考えでしょう?

吉本さん「僕は、希少な成分を用いていることと考えています。尤も、ベンチマーク=物事の基準となるものも見ながらではありますが、弊社の製品には使うことの楽しみや気持ちの安らぎなど、そんな何か面白みを感じて楽しくホームケアを続けてもらえるものに仕上げたいという思いがあります。
例えば、先のバームであれば、「mint talk」にはミントを効かせた中にジンジャーやブラックペッパー、コリアンダーなどのスパイシーなものをプラスしています。唇に使うものですから、口から体内に入ることを考え、風邪や喉にもよいと思えるもの、抗菌作用があるものにもしたいと考えました。冬の時季である今、積極的に使っていただきたいプロダクトの一つです」

----フィトテラピーの教えを感じます

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口に入ることにも考慮し、安全なことはもちろんのこと、美味しさをも追求。uka lip & nail balm (mint talk、sweet talk、mellow talk、pillow talk) 各15ml ¥3,500(uka Tokyo head office)
脚に、手に、首に、肩や胸にも。その豊かな香りでも一日がんばった心身を労わって。uka body & foot balm happy work 30ml ¥4,500(uka Tokyo head office)

 吉本さん「「uka lip & nail balm mellow talk」はオレンジやレモンなど柑橘系の香りを主軸に、ラベンダーやネロリも感じさせ、それでいて青っぽい香りにはならないようなものにしています。リラックスできる成分を使いながら、ハーブというよりもフルーティーなものーー効果効能とフレーバーを両立させた作り方を大切にしています」

----効果のテーマに沿ったメイン精油を決められて、それぞれの効果を高めるブレンドをされているのが吉本さんなのですね

吉本さん「アイテムとしての役割はもちろん大事ですが、それだけではない何かを与えられるものにしたい、プラスワンのあるものにと思っています」

----5種をラインナップしたバームシリーズの中で、その大きさからか目立つのが「uka body & foot balm happy work」ですが、こちらだけ外箱がないのですね

吉本さん「ふくらはぎや肩など、いろいろなところに使ってもらえるものですから、15mlの容量では少なく、倍の30mlにしました。ボディ全体にガンガン使って欲しいという思いがあります。リンパの流れに考慮した精油、楠やミント、ユーカリなどを選んでいて、スッとする香りでもリフレッシュしてもらえると思います。これはuka全体のプロダクトもそうなのですが、外箱まで含めたパッケージと香りは独自のものだろうと思えるものになっていると考えています」


----使いたい! と多くの人が思えるであろうデザインで、素敵ですね

吉本さん「渡邉の感覚やセンスを大切にして方向性を決めたら、社外のデザイナーさんにお願いしています。これまでの全てのプロダクトは、allrightgraphicsさんが作ってくださいました」

----パッケージといえば、黒が印象的なシャンプーもありますね!

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uka for MEN E SHAMPOO 200ml ¥2,750(uka Tokyo head office)

吉本さん「この「uka for MEN E SHAMPOO」も僕が担当したのですが、シックなパッケージにギリシャ文字のような書体ですし、ukaのラインナップの中でも目立つ存在だろうと思います。30代後半くらいから生じると言われている、男性の髪の悩みを考えて作りました。抜け毛や白髪、それから頭皮のべたつき、加齢臭をも考えたシャンプーで、1本で男性の髪に優しくパワフルにケアします。余分な皮脂を取り除きつつ、健やかに保つための成分は希少なレイシやシャクヤクなど50種ほど配合。これほど多くのものが入っているのは、珍しいのではないでしょうか」

----1本で!

吉本さん「通常、洗った後に行うトリートメントの必要はなく、1ステップでケアできます。特にべたつきの気になる夏の季節に愛用する女性もたくさんいらっしゃるですよ。その効能だけでなく、香りの作用にも考慮しています。いわゆる男性用のシャンプーだと感じさせる爽やかな香りですが、パチョリやティーツリー、イランイランの芳醇さが広がり、心にも働きかけられるようにしました」


----香りを構成している名前を聞いていますと、フレグランスのようですね

吉本さん「ミントやユーカリなどをトップに、ミドルにはイランイランを。ラストはウッディーに、サンダルウッドなどで印象的に仕上げフレグランスの要素も持たせました。その香りで緊張した心身を解きほぐして欲しいと思っています」

現代社会を生きる中で生じる悩みから優しく救い、心をも穏やかにしてくれるukaのアイテム。その製品作りには欠かせない、キーパーソンが吉本さんだ。現在、彼は今の時代を改めて考えるukaの新たな提案=プロダクト作りに忙しい毎日を送っているという。その発表を予定している今秋が待ち遠しい。

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吉本智弥●Tomoya YOSHIMOTO
uka製品開発
1978年生れ。東京大学文学部心理学科卒業。ゲーム会社での開発担当を経て2013年より現職。

uka Tokyo head office
tel: 03-5778-9074
http://www.uka.co.jp

ハッカソンが教えてくれたまち、高岡----工芸礼讃

いつの頃からだろう、工芸品や民藝というものも興味を持つようになった。母が芹沢銈介さんの作品が好きだったことに加え、通った高校の隣に民藝館があったのもあるかも知れない。
 今年、富山県主催の「工芸ハッカソン」というイベントがあると声をかけて頂いたとき、ほんの少し迷いはしたものの、すぐに飛びついた。門外漢である私だが、知識や教養の無さからくる劣等感よりもその世界が好きという気持ちが凌いだからだ。
 舞台は、物作りや工芸の町として広く知られる、富山は高岡。「工芸ハッカソン」は、高岡出身の林口さんが富山県と共に企画した。 
 今回は、アート・プロデューサーの林口砂里さんに、工芸への思いやその魅力、そして愛してやまない高岡というまちについて訊く。

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----工芸のまちとして広く知られる富山県高岡市ですが、そもそもなぜそう呼ばれているのでしょう? 工芸が盛んになったのはなぜなのでしょう

林口さん「二つ理由があると考えています。一つは、加賀藩前田家。もう一つに、浄土真宗が挙げられます。そもそも前田家の前に、浄土真宗8代目の宗主の蓮如上人(親鸞上人から数えて8代目の子孫)が、北陸で教化をされたこともあり、北陸一帯が浄土真宗になっていったという背景があります。今でも、北陸は真宗王国と言われているのはそういった理由があるからでしょう。そんな宗教的な背景があり、本山である京都の本願寺から大工さんや職人を招いて寺を建てたことで井波彫刻が始まりました。あれは、もともと寺院仏閣のための彫刻なのです。それから、高岡銅器も時を同じくして仏具をつくるために高岡で始まったと聞いています。当時は、現在の大阪、河内国丹南郡が鋳物の聖地と言われており、その地から優秀な鋳物師を呼び寄せて高岡で仏具がつくられ始めたようです。600年ほど前になるでしょうか、浄土真宗=仏教と仏具との結びつきで工芸が発達したという要素があります。
 もう一方の要素として、北陸の地を治めた前田家の存在があります。2代目の当主である前田利長が、戦国時代の終わりの慶長14年(1609年)に早めに引退されたのですが、その隠居のための城を高岡に築き、開町したという歴史があります。その際に、たくさんの家臣と諸工芸の職人たちを一緒に連れてきました。7人の腕利きの鋳物師を呼び、金屋町に住まわせ、諸工芸が発展。こうして高岡の伝統産業が始まりました。
 前田藩は、皆様ご存知の通り、徳川に次ぐ大きさで豊かな大名でしたから、戦国の世の徳川はその存在を恐れて軍事的な圧力をかけていたのですが、時代が江戸時代になって落ち着いてくると、前田家は徳川家に対して文化で対抗しようと文化に注力するようになったそうです。その影響は時代が移り変わった今でも続いていると感じます。この潮流や文化的な活動は、金沢も同じですね。
 しかし、今の"ものづくりのまち"としての顔から想像するのに反して、順調な発展とは行かず、波乱万丈の運命が待ち受けていたのです。
 開町から5年後には前田利長が亡くなり、さらにその1年後には江戸幕府の一国一城令による高岡城の廃城など、城下町高岡は、大きな存亡の危機に直面してしまいます。
 この事態に三代目当主の利常は、城を築いた利長の高岡への思いを大切に考え、町民の他所転出を禁じ、物資の集積地を整備するなど、次々に産業育成の策を打ち出していきます。それが功を奏し、やがて"加賀藩の台所"として飛躍的な発展を遂げます。職人たちは工芸作りに励み、商人はそれらを売り、北前船で貿易をして富を手に入れたのです。その富をまた、工芸のために使って......を繰り返して行きました。御車山(金鉱や漆など、高岡の工芸の粋を集めた、いわゆる動く美術館とも言えるもの)のお祭りというものがあるのですが、町民は惜しげも無くそこに財を抛つのです。こうして武士ではなく、町民が主役のまち----その今日の礎を築いていったのです。
 鋳物師は、税制の優遇措置など多くの特権が与えられ、加賀藩が廃藩になるまで手厚く保護されたそうです。日本有数の鋳物の産地となっていったゆえんの一つでしょう。
 伝統工芸でありながら、新しい価値を持った鋳物製品を世に送り出している高岡は、現在も全国の銅器生産のトップシェアを誇り、"ものづくりのまち"として世界でも高く評価されています」

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「商品開発」「人材育成」「情報発信」の3つを軸にデザイン活用によるビジネス活性化を目指す、富山県総合デザインセンターは多くの企業を支援。また、同敷地内にある高岡市デザイン・工芸センターでは、高岡の伝統工芸を継承しながら、新しいクラフト製品の開発や新技術・新 素材の研究・開発などを行っている。

----高岡市の誇る伝統工芸は、鋳物の他に何がありますか?

林口さん「高岡の二大工芸は、銅器と漆器です。
 まずは、高岡銅器からお話しましょう。利長公が高岡に城下町をつくった際に、腕利きの鋳物師を呼び寄せたことは先にもお話ししましたが、それが始まりと伝えられています。当初は、鉄鋳物が中心でしたが、江戸中期から銅鋳物も盛んになり、明治期になると高度な技術を凝らした美術銅器が数多くつくられるようになりました。パリ万博で好評を博したことも手伝い、海外に輸出されるようになり、人気を集めたそうです。
 国の伝統工芸品に指定されている高岡銅器は、今もなお全国1位の生産額を誇っています。高岡には、鋳造、磨き、彫金などそれぞれの工程において、高度な技を持った熟練の職人がおり、近年では現代のライフスタイルに合った製品の開発も積極的に行い、それを支える技術は現代のものづくりにも生かされています。
 続いて、高岡漆器について。こちらも国の伝統工芸品に指定されています。この歴史も、利長公の開町に始まり、次々と新しい技法に挑戦することで、発展を遂げてきました。彫刻木地に色漆で彩色を施す技法=彫刻塗や、アワビなどの貝類で山水や花鳥などの模様を付けて表現する技法=青貝塗などいくつもの工程を重ね、加飾することで華やかさを与える演出は、高岡漆器の魅力です」

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高岡銅器の伝統的な着色技法を継承する、モメンタムファクトリー・Orii。美術工芸品や銅像、仏具などに色着けする。近年では、高岡の伝統的な手法を大切にしながらも新たな発色技法に挑み、確立。ひとつとして同じ斑紋はないことで、色には多彩な表情があることを教えてくれる。

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創業明治43年。伝統工芸高岡漆器の青貝加飾の制作を主軸に、建築や家具、金属製品など様々なものを生み出す、武蔵川工房。その長い歴史を支えた技法と「螺鈿をもっと身近なものとして楽しんでもらいたい」との思いを元に積極的に新しい制作にも挑戦し続ける。

----林口さんは、長く東京に暮らされていて、数年前に高岡に戻られたのですよね

林口さん「世界を違うものに見せてくれる価値観に出合えたら、そのモノやヒトをより良い形で世の中に伝えたいと考えています。それが私の仕事だ!と思い、東京では、現代アートと音楽の世界にどっぷりはまっていました。そんなこともあり、工芸は古いものというイメージすら持っていたと思います。その毎日から、高岡と東京を行き来する今に至ったきっかけは、東日本大震災です。皆様も同じように感じられたと思うのですが、いつ、どこで、誰に、何が起こるかわからない----と考えた時に、やりたいことは先延ばしにせずにやっておいた方がいいなぁ、と改めて思ったのです。
 私のやりたいことの一つに、原風景となっている実家の里山で、いつか父と一緒に畑でもしたいという思いがありました。もともと自然は大好きだったのですが、いつかなどといっていられない、状況は変わっていくものですから。それで週末だけ帰るようになったのですが、私の知っている里山が変わっていたのです。自分の大切なものは自分でちゃんと守らなければならない、と気づかされました。そんな中、伝統産業に携わっている同級生に話を聞いたりしました」

----厳しいのですか?

林口さん「売上は、いわゆるバブル期=ピーク時の1/3です。キツい仕事なのにその対価は少ないのですから、廃業などもあり、後継者がいないというのが現実のようです。職人の誇りをもって仕事をする、という価値観も戦後、変わって来ていることもあり、一様に苦労していることを知りました。
 それでも家を継ごう! と決めた人たちは、非常に誇りと熱意をもって取り組んでおられるということもわかりました。工場を回って見学していく中で、先ほどの里山と同じで、もしかすると5年、10年でなくなってしまうかも知れない、と思うと、なんて勿体ないことか! と。だからと言って、私に何かできる訳でもないのですが、それでも私にもできることをやらせてもらいたいと考え、今に至ります。
 それまでは、高岡に戻ることなど考えてもいませんでした。しかし、東京とこちらを行き来するようになってから山で畑仕事をしたり、四季折々の恵みをそこからいただいたり、釣った魚をその場で捌いて食べたりという生活が豊かだ、楽しいと感じている自分に気がつきました。
 そこで、仕事のアテなど何もなかったのですが、思い切って帰ることにしました」

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---最初は、東京を拠点にされたまま、時々高岡に戻られようとされたのですよね

林口さん「はい、でも何かが違うと思い、逆に高岡にいて時々東京に行ってはどうかと考えたところ、すとんと落ちたのです。
 高岡での仕事は、地元の人たちとご一緒する中で、どんどん広がり、私自身が工芸の魅力にはまって行きました」

----林口さんにとって工芸はとても魅力的なものだというのがよくわかります

林口さん「それは、美しいものだから。その美しいものが今の経済システムに合わないという理由でどんどんと失われていくことは人にとってマイナスと言いますか、本来持っている人間らしさ、人間として成り立たしめているものをなくしているんだと感じています。
 例えば、よく晴れた日の夕日が沈む姿の美しさが奪われてしまうとしたらどうでしょう。あって当たり前の美しさが、工芸の世界で失われるかも知れないという危機感を感じたのです。産業として成り立たない、食べて行かれないからやれないという理由で後継者が育たなかったり......。
 結局、人は感情で生きている動物です。心が動かされたり、それによって幸せな気持ちにもなり得ます。その幸せな気持ちにさせてくれる機会が減ってしまったら、生きていくのが辛いのではないか----丁寧な手仕事に出会うことというのは、その都度、美に出会って感動することではないでしょうか。もちろん、心を動かすものは、音楽や美術や小説などもあるでしょう。しかし、もっと身近で、自分自身の手で触りともに暮らすことができる美も大切だろうと思います。だからこそ、私たちに何ができるだろうか、と考えています。文化庁と北陸3県も"国際北陸工芸サミット"により日本の工芸を世界へ発信して行こうとしています。まずは、たくさんの人に知ってもらうことが大切だろうと私も思っています。
 工芸や伝統産業は、日本の特徴的な価値だから、残したり、磨いていくことが日本の生き残る術となるものだと国も考えているからこそ、力を注いでいるのだろうと思っています」

----400年、いや600年もの長きに亘って受け継がれている、高岡の伝統工芸を新しいアイデアを生み出す手法の一つである「ハッカソン」を採用して、「工芸ハッカソン」というイベントを企画しようと思われたのはなぜですか? 

林口さん「国だったり、富山県だったり、高岡市だったり、あるいは実際に現場にいる職人さんたちが色々なことに取り組んでおられます。とりわけ富山は、行政を挙げて尽力しており、新素材を取り入れた試みであったり、デザイナーさんと一緒に新しいものを生み出そうという動きなどはすでにあります。そういう状況の中で、自分が他にできることはなんだろう、と考えました。
 私の強みは、これまで築いてきたネットワークだと思っています。それは、アートや音楽だったり、仏教や科学だったり、その人たちとの繋がりであろうと。この繋がりが、直接は工芸の人たちと結びつかなくても、私の知っている分野の方々と工芸とで何か生み出すことはできるのではないか、と考えました。そこからハッカソンのアイデアを思いつきました。
 ハッカソンの魅力は、色々な分野の人たちが一つのチームになることだと考えています。そのディスカッションから、1対1では生み出し得ないアイデアの発展が期待できます。ハッカソンという形式を採ることで、我々の想像を超えるような発想が生まれるのではないか、と思ったからです。
 特に、今回はテクノロジーの分野の方々にご参加いただいています。先端テクノロジーの分野の方々に日本の工芸のことを知っていただきたいという思いがありましたから、このハッカソンという方法を選んでよかったと思っています。まずは知っていただきたかったし、その先の広がりを期待しました」

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「工芸ハッカソン」の会場は、平成6年に重要文化財に指定された菅野家住宅。高岡の土蔵造りの中でも、規模、質、保存度とも最も優れているという。

「工芸ハッカソン」は、後期日程の2017年11月19日にプレゼンテーション及び公開審査会を開催。一般の参加者も、そのアウトプットを楽しむことができる、街をあげてのイベントだ。
 審査で選ばれた作品は、2018年1月から2月にかけて富山は高岡市、富山市、そして魚津市で巡回展を行う予定だという。
 後期日程を間近に控え、熱を増し続ける「工芸サミット」では、そのプログラムの一環として、富山のものづくりと歴史や文化にふれる8つの「とやま工芸ツアー」も企画されているそうだ。

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 2015年(平成27年)4月には、文化庁の認定する"日本遺産"に認定された、高岡市。
 "日本遺産"、まだあまり馴染みのない言葉かもしれないが、文化財などを利用して、地域の歴史的魅力や特色をストーリーとして国内外に発信することで、地域の活性化を図る取り組みという。
 高岡が認定されたストーリーは、加賀前田家ゆかりの町民文化が花開くまち高岡--人、技、心--。
「工芸ハッカソン」で高岡の伝統工芸に触れる機会を得られたことで、この言葉に納得でき、改めて高岡というまちの魅力を思い出した。そして、このまちだからこそ、絶えることなく、いまも存続しうるのだろうと感じるのだ。

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林口砂里●Sari HAYASHIGUCHI
アート・プロデューサー。有限会社エピファニーワークス代表。
富山県高岡市出身。東京外国語大学中国語学科卒業。大学時代、留学先のロンドンで現代美術に出会い、アート・プロジェクトに携わることを志す。 ワタリウム美術館、水戸芸術館アートセンター、東京デザインセンター、P3 art and environmentでの勤務を経て、2005年に(有)エピファニーワークスを立ち上げる。現代美術、音楽、デザイン、仏教、科学と幅広い分野をつなげるプロジェクトの企画/プロデュースを手掛けている。また、2012年より拠点を高岡市に移し、東京と富山の二地域居住を続けながら、地域振興プロジェクトにも取り組んでいる。

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国際北陸工芸サミット
https://kogeisummit.jp/

工芸ハッカソン
https://kogeisummit.jp/hackathon/

とやま工芸ツアー
https://www.toyama-kogeitour.jp

文化創造都市高岡
http://bunkasouzou-takaoka.jp/

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MAGAZINE

『装苑』2018年9月号、7月27日発売!

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